第82話 ジュリアと

《side瀬羽ジュリア》


 二度目のお姫様抱っこは、意外にも早くやってきて私はヨウイチに抱き上げられて脱衣所へとやってきた。

 スミレとユミに戸惑った視線を向ければ、二人は今日は譲ってあげると小さな声で伝えてきた。


「よっ、ヨウイチ?」

「ジュリア」

「えっ?」


 普段はジュリアさんって呼ぶのに、初めて呼び捨てにされてドキッとする。

 

「ジュリアが欲しい」

「ヒゥ! そっそんなこと急に言われても」

「嫌か?」

「いやっ、嫌じゃないわ。だけど、今日告白したばかりで、いきなりこんな展開になるなんて、驚きすぎて」


 ヨウイチの態度に戸惑っていると、ヨウイチは自分で服を脱いで、私に裸を見せる。絵を描いているからだらしない体をしているのかと思ったけど、意外に引き締まった体をしていた。


「ちゃんと鍛えているのね」

「スミレとユミを守らないといけないって思ってきたからな。これからはジュリアのことも俺は守りたい」

「ハウ……はぁ、一つだけ聞かせて。ヨウイチは私を好き?「好きだ」」


 問い終わるよりも前にヨウイチは、私に一歩近づいてハッキリと好きだと伝えられる。こんなのは初めてで戸惑ってしまうけど、悪い気分にはならない。


「キスしてもいいか?」

「そんなこと聞かないで」

「ああ。これからは聞かない」


 ヨウイチに唇を重ねられる。

 私の初めてのキス。


 きっと私に配慮してくれているのはわかるけど、全てが恥ずかしくて戸惑ってしまう。来ていたスーツのボタンにヨウイチの手がかかって、ドキッとさせられる。


 私は服を脱がされるんだ。


「嫌なら、ここで止める」

「……嫌じゃない。嬉しい」


 私は気づいてしまった。

 今の状況を喜んでいる。


 スミレやユミ、ハズキ姉さんや母さんと同じ。


 私もこの人に尽くしたい。


「わっ私がヨウイチを洗いたい」

「ああ、任せる」


 ヨウイチがお風呂に入って座る。


 私はシャワーの温度を調整してゆっくりとヨウイチに当てた。


「熱くない?」

「丁度いいな」


 互いの体を濡らして体を洗っていく。

 ヨウイチは洗われ慣れていて、私が腕を洗いたいと思えば、腕を上げてくれて……。背中や頭、前も……。


 嬉しい。私が男性の世話をしてる。


「ジュリア」

「はい」

「入るぞ」

「はい」


 ヨウイチの態度は横柄な男性のように見えるけど、そんなことはない。

 こちらに配慮して、私を包む込むように湯船に入って私を抱きしめてくれる。


「温かい」

「ジュリア」

「はい」


 ヨウイチに呼ばれて振り向いてキスをする。

 誰かにくっついているだけで幸せを感じる。


「いいな」

「はい」


 今日の私はヨウイチに対して、「はい」しか言えていない。

 だけど、それで全てが伝わるように感じて、幸せを思える。


 お風呂から上がるとヨウイチの体を全身拭いて、私の髪をヨウイチが拭いてくれる。

 誰かとこうして触れ合うってこんなにも幸せなことだったんだ。


「行こう」

「はい」


 裸にタオルを巻いた状態で、私はヨウイチにお姫様抱っこしてもらう。

 こうやって移動するのが当たり前のようにヨウイチは私を女性として扱ってくれる。


 スミレとユミの姿はどこにもない。


 ヨウイチの仕事部屋であり、シングルベッドに二人で身を寄せ合う。


 ヨウイチの体は太っているわけではなくて、それでいて筋肉質で硬いわけでもない。ただ、男性として私を抱きしめてくれる。


「ヨウイチ」

「ジュリア」


 彼の腕が私の背中に伸びて求められていく。

 手慣れたヨウイチの手が、不慣れな私を導いてくれる。


 今日までは私がヨウイチの手を引いていたのに、ベッドの上ではヨウイチに翻弄される。


「あぁ〜」


 優しくリードしてくれるヨウイチは、私が慣れると一晩中寝かせてもらえない間に、朝日が私たちを迎えていた。


 寄り添って眠る私たちは昼まで共に寝てしまっていた。


 私が先に起きて、リビングのテーブルにいくと。


 スミレとユミから


《これで三人一緒にヨウニイの彼女だね。よろしく》

《ランチを置いておくから食べてください。これからよろしくお願いします》


 二人の従姉妹たちが暖かく私を迎えてくれていることに嬉しさと。


 あの二人を相手にしても、ヨウイチが彼氏でいられる理由を昨晩思い知らされた気がするわ。


「ヨウイチってクレイジーだったのね」


 ヨウイチの新たな一面を知って私はますます好きになってしまったんだけど、あの二人がヨウイチを選んだ理由も理解できた気がするわね。


 普段は人が良さそうな顔をして、困った時には頼りになって、お酒を飲むと男らしくなるなんて。色々な面を持っているあれほど面白い男性はいないわ。


 ただ、朝になって素に戻ったヨウイチはどうかしら?


「おはよう。ジュリア」

「えっ?」


 昨日の夜と同じく私を呼び捨てにして抱きしめる。

 強引ではないけれど、優しく包み込んでくれる彼の手はしっかりと私を抱きしめている。


「うん? どうしたの」

「昨晩のことは覚えているの?」

「もちろん」

「えっ?」

「だけど、態度が……」

「ごめんね。お酒を飲むと気が大きくなって、偉そうだよな?」


 そういう問題なのだろうか? だけど、覚えてくれていた方が嬉しい。


「ううん。愛してるわ。ヨウイチ」

「ああ、俺も愛してるよ。ジュリア」


 私は二人きりにしてくれた、スミレとユミに感謝しながら、ヨウイチと楽しいランチを食べた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る