第79話 お仕事体験

 俺一人ではイメージができない箇所が出てきたので、ジュリアさんに、モデルをお願いすることにした。


 ジュリアさんがしている仕事風景を見たいと思ったのだ。

 もちろん、無理なお願いをしているのわかっているので断られるつもりで声をかけた。


「仕事が見たい? うーん、少し人手不足で私が向かわないければいけない仕事があるから、そこに同行するってことでどうかしら?」

「ありがとうございます!」


 タイミングがよかったようだ。

 人手不足の年末だったため、 仕事に同行させてもらえることになった。

 この時期に入ると忘年会や、飲み会が増えて悪さをする者が増える。


 犯罪も増えるので、警備会社に警備の強化を依頼する会社が増える。


 俺はお客さんをボディーガードする仕事はできないので、路上や監視カメラなど裏で働くジュリアさんの仕事に同行を許された。


 今の時期のジュリアさんはかなり多忙を極めており、スミレやユミの護衛も必要最低限になってしまう。


 クリスマスまでは残り二週間ほどしかないので、1日だけでインスピレーションを持てるのかわからないが、それでも何もしないよりはありがたいとお願いした。


「そっちの荷物を運んで!」

「はい!」


 警備用の道具は俺が思っているよりも多い。

 ジュリアさん警備服を着て、俺も男性用の警備服を借りて、管理を頼まれたビルの見回りに向かう。


 誰もいなくなったビルの中というのはどうしてこうも怖く感じるのだろうか? 


 本日のジャリアさんは、午前中は書類の整理や、新人さんとの組み手など、体を鍛えることもしていた。


 その後に、夕方からこうやって見回りをしているのは頭が下がる。


 だけど、誰かがやらなければいけない仕事をジュリアさんたちがやってくれているのだ。


「今日はバイト扱いで特別なことはさせないから」

「はい! よろしくお願いします!」


 イラストレーターとしては安定した収入は得られていない。

 そのままバイトとしてたまに駆り出される就職扱いでも嬉しいが、やっぱりイラストレーターか漫画家として仕事にしてお金を貰いたい。


「ふん。1日で何ができるっていうのよ」

「ごめんなさい」


 プリプリとしているジュリアさん。

 俺のことを嫌っているのかも知れない。

 それでも、こうしてお願いを聞いてくれるので優しい。


 自分の従姉妹が年上のオッサンに、二人も恋人として紹介されれば胡散臭いと思う。


「とにかく、今日はここの見回りで最後だから、しっかりやってね」

「はい!」


 1日ジュリアさんの後ろで仕事の観察をさせてもらった。

 ジュリアさんが仕事に対して真剣に取り組んでいる姿を見ることができた。

 

 それはイメージに足りなかった仕事をしている姿であり、かっこいいジュリアさんの姿を見ることができた。


 ガタッ!


 見回りをしている際に、物音がしてジュリアさんと顔を見合わせる。


「紐田さんは、ここにいて!」

「いえ! 一緒に行きます!」

「うーん!! 絶対に危険だと思ったら近づかないようにね!」

「はい!」


 俺たちは物音をした場所へ向かってゆっくりと向かう。

 走って迎えば、誰かいた場合に逃げられてしまうかも知れない。

 もしも、逃げているならそれはそれで仕方ないと思える。


 ただ、警備を任されている以上は侵入者がいた場合は捕まえなければならない。


「シー。誰かいる」


 俺にはわからないけど、ジュリアさんは何かに気づいたようだ。

 ゆっくりと扉を開いていく。


 俺からは見えないが、フロアの中で光が動いたように気がする。


「そこで何をしているんですか!」

「!!」


 誰かが息を飲む声が聞こえる。


「大人しくしなさい!」


 ジュリアさんが中に入っていくと、人影が立ち上がって襲いかかってくる。


「テイッ!」


 襲いかかってくる相手を冷静に対処をして制圧する。


「ウラー!」


 相手は強引に力を込めて、ジュリアさんの腕を振り払った。

 吹き飛ばされたジュリアさんが机にぶつかってしまう。


「うっ!」

「女がでしゃばってんじゃねぇ!」


 太った男性が怒鳴り声をあげているのが見えて、頭の中が熱くなる。

 女性に対して乱暴な態度を取る男を見て、俺の中で何かが外れた音がする。


 プツン


「お前がでしゃばってんじゃねぇ!」

「はっ?!」


 俺は近くにあった椅子を持ち上げて太ったおっさんの背中を殴りつけていた。


「うわっ!」


 おっさんが椅子で殴られた痛みで倒れる。


「ジュリアさん! 大丈夫ですか?」 

「うっ」


 背中を強く打った様子で、ジュリアさんがうめき声を上げて意識を朦朧とさせていた。


 俺はスマホを取り出して、警察に連絡を入れて立ち上がる。


「ハァハァハァ」


 太ったおっさんが這って扉から逃げようとしている。

 俺は警察に事情を伝えながら先回りして扉を閉めた。


「不審者です! 〇〇ビル七階です!」


 警察に場所を伝えて、扉の前で太ったおっさんを妨害する。


「きっ、貴様! ワシが誰なのかわかっておるのか?!」

「しらねぇよ! 知らないが、女の人を傷つける失礼なやつに敬意を払うつもりはねぇ!」


 必要以上に近づきはしない。


 だけど、扉は開かせない。


 俺は鍵をかけて、椅子をおっさんの前に置いて近づけないようにバリケードの代わりをする。


 そうやって時間を稼いでいる間に、警察がやってきて太ったおっさんを捕まえてくれた。


 ジュリアさんは意識はあるようだけど、背中を傷つけてしまったので立てない様子だった。


 警察に事情を話して、ジュリアさんをお姫様抱っこして医務室へ運んだ。


「うん?」


 一瞬だけ、ジュリアさんが目を覚ましたようにも見えるが、痛みで辛いのかまた目を閉じてしまった。


 医務室でジュリアさんを寝かせた後に、そちらで詳しい話をすることになった。


 太ったおっさんは、この会社をクビになった元課長で、情報を盗みにきていたそうだ。

 年末のこの時期ならば、人手が少ないことを知っていて、もし見つかっても女性の警備員一人ぐらいならば、どうにでもなると判断したようだ。

 

 俺が共にいる日だったのは、太ったおっさんの運が悪いと言えばいいのか、すぐに会社の偉い人に連絡がいって会社側で対応してくれるようになった。


 警備員の仕事としては成功したことになり、ジュリアさんの会社の信用は守られた。


 ジュリアさんはそのまま病院へ救急車で搬送されて、背中と腰部の怪我がひどい様子で1週間の入院を伝えられた。


 

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