第77話 集中した彼は

《side瀬羽菫》


 ヨウイチさんが、クリスマスプレゼントに何かを作成すると言い出した。


 彼が私たちにプレゼントするために作成すると言えば、絵だと思う。それは凄く嬉しいことだ。


 これはもしや、いつもの集中タイムに入るのではないだろうか? ヨウイチさんは集中すると周りが見えなくなってしまう。


 周りが見えないだけでなく、食事も食べなければ何をされてもほとんど気にしない。


「だから」


 今日は大学もないので、ヨウイチさんのお世話をします。


 いつもご飯を作って、お風呂も一緒に入っているのに、すごく久しぶりな気がします。

 

 基本的にヨウイチさんはお世話をさせてくれません。

 いえ、お世話はさせてくれるのです。

 ご飯を作れば、いただきますとありがとうございますを毎回言ってくれます。

 お風呂に入ると、ご馳走様となぜか手を合わせてくれます。


 だけど、そうじゃないのです。


 私は何もできないヨウイチさんのお世話をするの好きなのです。


 ですから、ヨウイチさんが仕事モードになっている際の、今がチャンスなのです。


 ふふふふ、私はこの時を待っていたのかもしれません。

 もちろん、お酒を飲んで獣と化すヨウイチさんも大好きです。


 ですが、やっぱり身動きが取れなくて、何もできないヨウイチさんのお世話をするのが最高なのです。


「ヨウイチさん」


 私は一応声をかけて部屋の中に入ると、ヨウイチさんはパソコンの前で集中して私の声に気づいていません。


 ふふふ、この姿です。


 この姿が見たかったのかもしれません。


「ヨウイチさん。どうしてあなたはヨウイチさんなのですか?」


 私は彼の横に座って真剣な顔を眺める。

 何かに取り組む彼はとても可愛くて、かっこいい。


「はぁ〜ヨウイチさん」


 先ほど作ったおにぎりとお茶を置いておく。

 彼は勝手に手を伸ばすけど、時間が来たら食べさせてあげる。


 おにぎりを口元に差し出すと口を開いて、パクリと食べてくださいます。

 

 ふふ、可愛い。


 今度はお茶の入ったコップを差し出すとこぼさないように飲んでくれる。


「ふふ、美味しそう。は〜い。おにぎりですよ〜」


 そのまま三つのおにぎりを食べて、お茶を飲んでくれました。私は片付けをして自分のお昼ご飯を食べる。


 ヨウイチさんの横顔を見ながらご飯を食べると幸せな気分になります。


「そろそろ五時間ですよ〜」


 朝からずっと書き続けているヨウイチさんも、そろそろ五時間が経つので、休憩させなければいけません。


「ヨウイチさん」


 私は彼の肩に胸を乗せて目隠しをして抱きしめます。


「うわっ! 見えない! あっ、スミレさん!」


 強引なやり方だけど、これが一番ヨウイチさんに効果的なのだ。


「そろそろ休憩にしましょう。もう長い間集中しているので」

「あっはい。すみません」


 私はヨウイチさんの目を解放してあげて、手を握って立ち上がらせる。


「散歩に行きましょう。ついでに夕食の買い物をするので荷物持ちをしてください」

「えっ? あっはい」


 こうでも言わなければヨウイチさんは、ちゃんと意識を覚醒させてくれないので、危ないのです。

 ふふ、手を繋がないとどうしようもない人です。


 ヨウイチさんのお着替えを手伝って、一緒に外へ連れ出す。


「今日は寒いね」

「部屋にいると、そういうこともわからないですよね」

「うん。部屋の中が凄く暖かった」


 寒そうにしているヨウイチさんに腕を組んで体を寄せる。


「暖かい」

「ふふ、暖かいですね。今日は寒いので、暖かい物にしましょう」

「うん」


 いつもの買い物ルートからズレて、駅前から公園に向かいます。

 大きな公園ではないので、人は少なくて誰もいません。


「こんな道もあったんだね」

「ヨウイチさんはあまり外に出ませんからね」

「うん。用事がないとね。だけど、知らない道を歩むのは好きだよ」

「私もです。ヨウイチさんと一緒に行くのはもっと嬉しいです」


 スーパーにたどり着いて、ヨウイチさんが全ての買い物袋を持ってくれます。

 いつもはもう少し軽めの買い物にするんですけど、ヨウイチさんがもっと買ってもいいというので、持ってもらいました。


 こういうのっていいですね。


 私がお世話をしてあげて、ヨウイチさんが私を気遣ってくれて、彼氏彼女なんだって思えるのか嬉しいです。


「ふぅ、歩くだけで結構暖かくなるね」

「そうですね」


 家を出てから一時間ほど歩いたところでヨウイチさんが暑そうにマフラーを外しました。私はヨウイチさんのマフラーを受け取って自分の首に巻きます。


 ヨウイチさんの汗の匂いがして、ふふ幸せ。


「汗臭いでしょ。持たなくてもいいよ」

「全然臭くないです!」


 むしろ、幸せです。


「ヨウイチさんは私たちに絵を描いてくれるんですよね?」

「う〜ん、絵ではあるんだけど、ちょっと物語をつけようと思ってるよ」

「物語?」

「うん。楽しみにしててね」

「はい! 凄く楽しみです。だから、ヨウイチさんもクリスマスの日は楽しみにしててくださいね」


 私もヨウイチさんが喜んでくれるプレゼントを用意しよう。


 ふふ、絶対に喜んでもらうんだ。


 ああ、楽しみだなぁ〜。 


 

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