第76話 不思議な男性

《side瀬羽ジュリア》


 私は叔母である葉月姉さんから、スミレとユミの護衛の依頼を受けた。

 危ないストーカーにでも狙われたのかと心配になった。


 昔から、我従姉妹たちは見目麗しく、私の目から見てもとても美しくて、可愛らしい。

 従姉妹から見ても愛らしいので、可愛くて可愛くて構ってあげたくなる。


 私は子供の頃、両親の影響で格闘技や運動ばかりをしていたから、彼女たちのような女性らしさを持ってはいない。

 綺麗だと告白されたことは数あれど、弱い男になど興味はない。


 それに私の外見ばかりに気をとらえて内面を見ない男も嫌いだ。


 確かに、私も両親から見た目が良い姿をプレゼントしてもらった。

 それにずっと鍛えてきたことで、プロポーションも悪いとは思っていない。


 だけど、それは全て私であって私ではない。

 両親からのギフトであり、長年の習慣でしかない。


「男なんて所詮……」


 私の中でどこか男への嫌悪感を持つようになっていた。


 だから、私が従姉妹を守るんだと思っていたのだが、葉月姉さんから詳しく事情を聞けば。


 二人同時に彼氏ができたそうだ。

 

 しかも、同じ男性を……、そんなことが許されるのだろうか? いや、許されるはずがない。


 絶対に私がそんな軽薄な男と別れさせてやる。 


 彼女たちに近づく男たちを鬱陶しく感じていた。

 向けられる視線でスミレが傷ついているのも知っていた。

 それに、ユミは明るくしているけど、本当は心の中でいつも男性に対して怯えている。


 ふぅ、そんな時に彼氏ができたか……。


 葉月姉さんから、二人が好きになったキッカケも聞いた。

 

 スミレは私が心配していた通り、ストーカー被害を受けた時に助けられたそうだ。

 そしてユミもナンパで絡まれたのがきっかけとなり、接している間に好きになっていったそうだ。


 最後にユミのクラスメイトの話も聞いた。


「ハァー、見極めるしかないよね」


 二人を助けてくれたことには感謝したい。

 だから、会いに行くことにした。

 会ってみれば、少しだけ幼く見えるおじさん。

 年上で頼りなさそうで、だけど不思議な人だった。


 私を見て綺麗だと思っているのが伝わってくる。


 見つめると顔を赤くして、まるでウブな少年のようだ。

 もう二人と彼氏彼女になって、そういうことをしているだろうに、どうしてそんなにも挙動不審なのだろう?


 二人で話し合いをした時も、「むしろ、見極めてください!」と逆に言われてしまった。


 私は挑発するように言ったのに、自分からもっと見てほしいとか頭がおかしいと思ってしまう。

 本当なら、嫌な顔をされると思っていたのに、しかも二人の従姉妹だと伝えると、人懐っこい顔を向けてきて、お願いまでされてしまった。


「モデル?」


 こいつも私の見た目が……。


「はい! ジュリアさんはかっこいいですから、主人公に向いていると思うんです!」


 おい! これでも私は女だぞ! 男の主人公って、しかも二人のための漫画を描きたいからだと?! 説得するように自分で描いたという二人の絵を見せられた。


 その絵は……。


 不思議なほと温かみがあり、二人がとても綺麗に描かれていた。


 そして、この絵を描く人のモデルに自分もなれる? そう思うと羨ましいと思ってしまった。


「絵ができたら一番に見せるので、お願いします! ジュリアさんの絵を描いてプレゼントしてもいいです!」


 熱心に説得されて、私はモデルをすることを受け入れた。

 体を動かしている姿を見たいと言われたので、会社のトレーニング施設を借りて、いつもの運動スタイルできたのは間違いだったのかもしれない。


 体に張り付く運動ウェアは、体のラインがわかってしまうので、とても恥ずかしい。

 それをこんなにもジロジロと見られるなんて聞いてない。

 

 だけど、一つ一つの視線にエッチな要素が全くないのも腹が立つ。

 

 他の男なら、私がこんな姿で現れたら、いやらしい目を向けてくるのに、真剣な目をして私の体を細部まで見極めようとしてくる。

 集中しているのか、私が動くたびに、筋肉を見るために近づいてきて、蹴ってしまいそうになる。


 ダメだ当たらない。全て避けられる。

 

 最初は気を使っていたのに、こっちも意地になってきた。

 どうして攻撃が当たらないの?! 

 

 観察するように不規則な動きをされているから判断できないのもある。

 だけど、それだけじゃなくて、私の動き一つ一つを読み取って自然に最小限の動きで避けていく。


 避けた先で、何かをメモって……。


 降参。


「もう、危ないでしょ!?」


 いくら当てようとしても当たらないから、声をかけて苛立ちを解消する。


「あっ! すみません」


 私が動きを止めて声を発したことで、やっと気付いたようだ。


 なんなのこいつ? 真剣な目でじっと私を見て、しかも私の攻撃を全て避けるとかちょっとおかしくない?


 それにスミレとユミを変な男から助けてくれるとか、そんな……。


「もういいから」

「あっ!」


 急に顔を赤くする。


 今更、私の服装がタイトな服だって気付いたようだ。


 もう、こっちの方が意識しすぎていたことを思い知らされる。


 ハァーダメだ。今までの男の人と違いすぎる。


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