第74話 見極め

 ジュリアさんを家に招き入れて、ユミがお茶を淹れてくれる。

 その間もジュリアさんが俺の前に座って、話しかけてきた。


「紐田陽一さん。年齢は三十二歳? ふ〜ん、見た目は童顔だからもう少し若いように見えたわ。スミレの彼氏で、ユミの彼氏なのよね?」


 お茶を沸かしているユミを見て、確認をとってくる。


 俺は頷いてから、高身長のジュリアさんを見た。

 座っていてもスタイルの良さはわかるものだ。

 百六十八センチあるそうで、スタイルが良いだけでなく護身術で格闘技をやっているということで引き締まった体をしている。


 スミレやユミとは違ってカッコ良い美人だ。


「……はい」


 若そうだと言われても年齢が変わることはないので、俺としては微妙な感じしか受けない。


「そうね。まずは、スミレをストーカーから救ってくれてありがとうございます」

「あっ」

「会ったらいおうと思っていたことなの、それにユミもお世話になったって聞いたわ」


 二人よりも年上なジュリアさんは、二人のことを心配していたんだろうな。

 こちらが警戒していたこともあって、お礼を言われると思っていなかった。


「いえ、たまたま通りかかっただけで」

「それはスミレたちの運が良かっただけよ。そこからの行動は紐田の勇気だわ。襲われている女性を助けられる人はそんなにいないから」


 ジュリアさんはボディーガード関係の仕事をしているそうだ。

 親御さんがセキュリティー関係の会社をされているそうで、子会社の一つを任されている関係で、部下を持っているという話を聞かせてもらった。


 現在、無職の俺としては立派な社会人女性にタジタジになってしまう。


「本当にたまたまで……。今は俺の方が二人に助けられて生活してます」

「ふふ、それは仕方ないわ。瀬羽の女は、お世話をしたい男を見つけたら、世話をしたくなる習性を持つって母様がいっていたもの」

「あっ、そういえば、瀬羽の姓を名乗っているのはどうしてなんですか?」


 てっきり、瀬羽の姓はスミレたちのお父さんの姓だと思っていた。

 だけど、瀬羽葉月さんのお姉さんに当たる瀬羽双葉さんも瀬羽の姓を名乗っているようだ。


「うちは父が瀬羽に婿養子に入ったからね。母に世話をされて惚れ抜いてしまったの。オジ様も同じだと思うわ」


 なるほど、俺もスミレかユミと結婚したら瀬羽の姓を名乗るかも。

 両親はもういないから、彼女たちと同じ姓に揃えたい。


「さて、ここからは本題なのだけど、ユミ」

「何?」


 ユミがお茶を入れて、席に座ったところでジュリアさんが声をかける。

 俺は、せっかく入れてくれたお茶なので、冷ましながら口をつけた。


「少し紐田さんを借りてもいいかしら?」

「え〜、ちゃんと返してよ!」

「もちろんよ。あなたのラブは伝わっているから」

「もう」


 少しだけお茶を飲む間だけ談笑をして、俺たちは家を出た。


 ここからが本題だということは、スミレやユミの二人と付き合っていることを責められるのかな? いくらハズキさんが許していても、家族としては俺が二人と付き合っていることは、やっぱり許せないと思っているのかもしれない。


「ここまで来ればいいかしら?」

「……はい」

「そう落ち込んだ顔をしないで、別にあなたを責めるつもりはないの」

「えっ?」

「あなたがスミレとユミ、二人と付き合っていることはハズキ叔母様から聞いています。だけど、それは無理やりではなく、二人が選んだことだとも。恋愛なんて、私がどうこういうことではないと思っているわ」


 ジュリアさんの言葉は大人の女性のもので、優しい言葉をかけられて気持ちが軽くなる。女性なら二人と付き合っていることを嫌われるかと思っていた。


「ただ、二人の女性を侍らせている男ってことには変わりはないから、私としてはどんな人なのかは、見極めたいって思ってはいるの」

「それは当たり前のことだと思います! 俺自身も、今は夢現の世界にいるところがあるので、第三者の目で見極めてもらうのはありがたいです」


 むしろ、今の関係が未来永劫続かせたいと俺は思っているから。

 第三者の目で見てもらって、判断を聞きたい。


「意外ね」

「意外ですか?」

「ええ、てっきり嫌がると思っていたもの、人はやましいことがなくても疑われると嫌な気分になるでしょ? だけど、あなたには嫌な顔になる素振りも見せなかった」


 今の環境のほうが信じられないと思っているからな。

 このまま上手くいけばいいが、それが難しいなら、改善をしたい。

 それを教えてくれるなら望ましいぐらいだ。


「それぐらい、今は幸せなんです。その幸せを継続させる方法を教えてくれるなら、むしろ歓迎だと思っています」

「そう……。あなたがどんな人なのか少しわかった気がするわ。これからあなたたちが出かけるときなどはボディーガードをさせてもらうかもしれないからよろしくね」

「はい! よろしくお願いします」


 前回の旅行で、俺は彼女たちを守れなかった。

 ジュリアさんにお願いして格闘技を習うのもありかもしれない。

 時間だけは、たくさんあるんだからな。 

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