第70話 観光地を巡りましょう

 二人が起きて、服装を着替えてから朝食を食べにいく。

 朝食はバイキング形式ということで、ホテルが用意してくれた食堂へと移動する。


 結構な人が泊まっていたんだと思うほど、朝食には人が集まっていた。


「ヨウイチさんはこちらで待っていてください」

「うん。私たちがとってきてあげる」

「いや、俺も」

「いいですから。席をとっておいてください」


 二人に座らされて、景色が良い席に座って待つことになった。


 ふと、目についたのは、高校生ぐらいの男が三人でいる姿だ。

 他にも同じテーブルには女子が三人いるようだが、険悪な雰囲気を作り出している。

 

 高校生ぐらいに見えるので、休みを利用して泊まりに来たのかな? 学生同士でくるというのは珍しいように感じるが、今どきはスマホがあれば旅行の予約など簡単にできるようになった。


「お待たせしました」

「ヨウニイ、お腹すいたね」

「二人ともおかえり」

「ヨウイチさんは朝はコーヒーでよかったですか?」

「ああ、ありがとう」

「ヨウニイは朝は食べない方?」

「う〜ん、そうでもないよ。だけど、あんまり食べすぎると後でしんどいって思うだけだよ」


 スミレは俺の好みをよくわかってくれている。

 ユミがコーヒーをとってきてくれて、食パンとスクランブルエッグとベーコン、それにコーンスープをとってきてくれた。

 

 サラダが少し欲しいかな? 朝はそこまで食べないけど、こういうところだと食べたくなるんだよな。


「ありがとう。朝はこれでも十分に多いけど、なんでか食べられるんだよな」

「そうそう、止まらなくなっちゃうんだよ」


 ユミのお盆には、和定食が乗っていた。

 朝からガッツリと食べるユミを見ていると、意外に食欲旺盛なんだと思う。


 昨日の夕食もユミが一番食べていた。


「ユミは結構食べる方なんだな」

「そうかな?」

「そうね。ユミは食べるの好きだと思うから、太らないようにしないとね」

「あ〜! 姉さんが意地悪いう! 私だってまだまだ育つんだからね」


 スミレの一部分を見て宣言する、ユミの未来をついつい想像してしまう。


 そんなやりとりをしながら楽しい朝食を食べる終える頃には高校生たちにグループはいなくなっていた。


「ユミ、高校生って、今の時期は受験とかじゃないのか?」

「もう11月も後半だからね。終わってる子は終わってるよ」

「そういうものなんだな」


 彼らもユミと同い年で、すでに受験を終えているのかな? やんちゃな印象を受ける男子たちと、同じく朝から化粧をしたギャル風の女子たちだった。


 卒業前に旅行に来たのかな? まぁ他人のことを考えても仕方ないがな。


「どうかしたの? ヨウニイ」

「いや、色々な人が泊まっているんだなぁ〜と思っていただけだよ」

「そうだね。色々な年齢層の人がいるよね」

「ふふ、私たちは皆さんからどう見えているんでしょうね?」


 俺が歳の離れた兄とか、おじさんだから二人の保護者的な感じかな? それならしっくりくるかも。


「そんなことよりも今日は江ノ電乗って、江ノ島に行くんでしょ?」

「そうだな。せっかく天気が良い日に来れたんだ」


 今日は湘南から江ノ島の観光をしようと思っている。

 お昼にはしらす丼を食べられたらいいかな? サーフィンはできないけど、二人をしっかりと守れるように頑張らないとな。


「ヨウニイ! 海が綺麗だよ」

「本当だな」


 サーフィンをする人が沖に見える。

 流石に海水浴に来ている人は11月になるといないが、それでも大勢が砂浜を歩いている。


「人が多いですね」

「ああ、観光地って感じがするな」

「ヨウニイ、タコセンが売ってるよ。はい」

「ああ、ありがとう」

「えびせんもあるんですね。どうぞ」

「ありがとう」


 お土産屋が多く存在する中で、二人が俺に何かを食べさすように買い与えてくる。

 俺が買ってプレゼントしたいのに、彼女たちは見つけては買って俺と分ける。


 自分たちで食べるのではなく、俺に一口食べさせて自分たちで食べるから、間接キスさせられているようだ。


「橋から見える海もすごいね」

「ああ、雰囲気があるな」

「帽子が飛ばされてしまいそうです」


 江ノ島からの帰りを徒歩で歩いていると、強い風が吹いて、スミレの帽子を飛ばす勢いだ。

 11月の海沿いは風が強くて、少し肌寒い。


 日差しが強いから完全に寒いとは思わないが、気を使わないと危ない。


「きゃっ!」


 帽子を掴んで前が見えずにいたスミレが、誰かにぶつかってしまう。


「すみません」

「おいおい、凄い美人じゃん」


 それは同じ宿に泊まっていたヤンキー君だった。

 一緒にいた五人はいないようだ。


「ぶつかってきた詫びがわりだ。俺の相手をしろよ」

「やめてください。謝ったじゃないですか」

「いいだろ。お前みたいな美人を連れて行けば、あいつらを見返してやれるからさ」

「やめて!」

「おい、いい加減にしろ」


 俺はスミレに絡むヤンキー君の手を払いのけて、スミレの前に出る。


 どうして俺はいつもこういう場面に出くわすんだろうな。


「なんだおっさん! 関係ねぇだろ?!」

「関係あるから出てきたに決まっているだろ。俺のスミレにちょっかい出すな」

「はぁ? おっさんとそんな若い姉ちゃんが付き合っているわけねぇだろ? はっ、まさかパパ活ってやつか? おいおいマジでキモイな。金を払って女を買ってんのかよ」


 声を大きくしてヤンキーが騒ぎ始める。

 ああ、面倒だ。人が多い橋の上で騒ぎを起こしたくないのに。


 躊躇う俺の横をユミが通り過ぎる。


「ねぇ、あなた三島龍二君だよね?」

「うん? お前? 瀬羽か? おいおいどうしてお前がここに?」


 どうやらユミの知り合いだったようだ。


 俺がユミに任せればいいかと安堵しかけたところで、ユミはグーパンチでヤンキーを殴り飛ばした。


「グエッ!」

「私のヨウニイをパパ活呼ばわりしないで! ちゃんと愛し合ってるんだから!」


 ユミの宣言に唖然とするヤンキーだったが、周りに集まり始めていた人たちが、ユミの啖呵に拍手を送る。

 その光景にヤンキーは恥ずかしくなったのか、逃げるように去っていった。


「ユミ」

「はは、手が痛〜い」


 言われて手を見れば赤くなっていた。

 俺は持っていたペットボトルを当てて、その手を包み込んだ。


「ありがとう」


 そう伝えるとユミは怖かったのか、俺の胸で少しだけ泣いて。その光景に集まった人たちも気を遣って離れていく。

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