第68話 温泉宿で夕食

 トイレを済ませて部屋に戻り、温泉に向かうことにした。


「部屋へ備え付けの露天風呂もあるけど、まずは大浴場だね」

「そうだな。食事前に風呂に浸かろうか?」


 夕食前に温泉を楽しむことになり、スミレがとってくれた部屋は混浴ができるように、檜で作られた湯船に天然温泉が注がれている。


 だけど、せっかく温泉にきたなら大浴場は試したい。


 仲居さんは俺たちの関係を想像したのか、ニヤニヤしながら見られた時の目が何とも言えない。

 楽しそうにしているので、俺がどこぞの金持ちと勘違いされないか不安だ。


「……寂しいな」


 温泉に浸かりながらそう呟いた。

 一人で風呂に入ることに寂しいと感じるようになってしまった。

 当たり前のようにスミレとお風呂に入るようになり、週末にはユミがきて一緒に入っている。


 ふと視線を向ければ、家族連れや友人ときている人々が温泉を満喫していた。……俺にもあんな頃があったんだろうな。

 両親にもっと親孝行をしてやればよかった。


 サウナに入り汗を流して整えた。

 体がしっかりと温まった俺は外に出た。

 二人もゆっくりと入っていた様子で現れれば、お風呂上がりの美女の姿ってのは凄まじいほどの色気を放っている。


「ヨウニイ、お待たせ〜」

「ヨウイチさんお待たせしました」

「全然まってないよ。サウナに入ってゆっくりさせてもらったからね」


 二人からいつもとは違うシャンプーの香りがして鼻孔をくすぐる。

 ……浴衣から見える白い肌が少し赤く染まって良いなぁ〜。


 旅館で良く見るタイプの浴衣だけど、二人が着ると特別に見える。


「ヨウニイ、いつもと違う匂いだね」

「そうなの? なら」


 ユミが俺が思ったことと同じことを思い。

 スミレがそっと近づいて匂いを嗅ぐ。


 美女に匂いを嗅がれるってどんな羞恥プレイだよ。

 二人からお風呂上がりの温かみを感じるとともに、そっと甘い香りが帰ってくる。


 周りの目が痛い!



 それから俺たちは部屋で食事をするために戻ってきて席についた。

 二人に挟まれるように並んで食事をとる。


「おいしいね!」

「うん。このお肉も、天ぷらも美味い」


 夕飯の時間、テーブルに並べられた豪華な食事を口に運ぶ。

 美味しさにユミは幸せそうな表情をして、同意してしまう。


「ヨウイチさん。あ〜ん」

「……あっ、あ〜ん」


 スミレは隙あらばお世話をしたがるので、応じるように心がけている。


「良いなぁ〜私も! あ〜ん」


 ユミはすぐにスミレの真似をしたがる。

 俺は二人から食べさせてもらい、美味しい料理に美しい二人。

 幸せを感じながら旅館ならではの郷土料理はいただいた。


 この時期は秋の味覚で、山の幸が多いそうだ。


「この煮物も美味しいよ」

「なら、あ〜ん」


 俺はユミに食べさせてあげて、スミレにはお肉を食べさせる。


「はい、どうぞ♪」


 スミレがお返しに煮物を箸で掴み、零さないようにと手を添えて俺に差し出した。


「あむっ……美味しいな」

「はい。今度家で作れるかな? 参考にしますね」


 スミレは家での再現をするように考えているようだ。

 どんな料理もスミレが作る物は美味しいから楽しみだな。


「やっぱりいいもんだな。こうして旅行に来るって、スミレありがとう」

「姉さん、ありがとう。すっごく幸せ」

「どういたしまして、二人に喜んでもらえてよかったわ」


 スミレは嬉しそうに微笑んでくれる。

 彼女は本当に誰かの世話をするのが好きなんだな。


「ヨウイチさん、せっかくですからお酒も飲みますか?」

「そうだよ。ヨウニイ、美味しいご飯にはお酒だよ」


 二人に勧められて、瓶ビールを注がれる。

 まあ、最近は飲むことも増えたから良いんだけど。


「ヨウニイ、注いであげる」

「うん。ありがと」


 ユミがコップにビールを注いでくれる。

 しゅわっとした音を立てて、アルコールの匂いがする。

 ユミも飲めるようになったら、一緒に飲めたらいいな。


「……美味しい。なんだか雰囲気が違うからかな、いつもとは味が変わったように感じるな」


 ゴクゴクとビールを飲んでいく。


 温泉から上がって体の火照りが冷まされていくようだ。


「ヨウニイ、少ししか飲んでないのに顔が真っ赤だよ」

「お酒は好きだけど、弱いんだよ。知ってるだろ?」

「ヨウイチさんはそう言いながら量は飲めますからね」

「そうかな? う〜ん、自分じゃわからないや」


 でも、本当に美味しい。


 旅館の素晴らしい雰囲気に、美味しい食事、それに美女に注がれるお酒。


 ここまで揃っていて、お酒が美味しくないわけがない。


「ハァ……」


 酒が体に回ってつい、息を漏らしてしまう。

 ふぅ……、どうやらもう酔っ払ってしまったな。


 俺の手は横にいるスミレへと伸びる。

 さわさわと太ももを撫でる。


 スミレは浴衣の帯を緩めた……。


 いや、緩めた帯びはすぐに着崩れて俺のされるがままに差し出される。

 俺は片方の手とスミレの太ももを撫でながら、天ぷらを取ろうと膝立ちになったユミの尻を撫でる。


「きゃん、もうヨウニイ。酔ったの? ふふ、仕方ないなぁ〜」


 ユミは妖艶な笑みを浮かべる。


「……ヨウイチさん」


 スミレの甘ったるい声が脳に沁み込んでくる。

 どうしてこんなにもこの姉妹は、エロいのだろうか? 俺は不適な笑みを作って二人を受け入れるのに抵抗はないがな。


「ご馳走さまはちゃんとしような」

「は〜い。ご馳走様」

「ご馳走様です」


 俺たちは、奥の部屋へと消えていった。

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