第66話 sideラノベ作家 終
《side狐狸相》
私の恋は勘違い? 彼に送ったはずのコスプレ写真を持って、カスイさんが会いに来た。カスイさんの話では、彼は私のコスプレ衣装を見て喜ぶのではなく資料と誤解してしまったそうだ。
だけど、それは私の望むことではなくて、彼が喜んでくれると思ってした行為だった。
「狐狸相先生。申し訳ありませんが、今後はイラストレーターさんのストリングさんと会うことはできません」
「どうして?」
「ストリングさんの個人情報なので、あまり言えることではありませんが、ストリングさんにはお付き合いされている女性がおります」
「なっ! 騙されているの?」
「違います。どんな思考回路をしたらそうなるんですか? 私なりに狐狸相先生について考えました。ですが、これだけは言えます。優しくされたからと言ってストリングさんが狐狸相先生に惚れているわけではありません」
「なっ!」
バカな! あの人はこんな私に優しくしてくれた男性なのだ。
つまり、私たちはお付き合いしていて、彼は私のコスプレを見て喜んだはず。
「全ては、狐狸相先生の妄想です」
「そんなはずはない!」
「……私も断言はしたくありません。では、こうしましょう。本が出るまでは会うことはできません。その間に一度でも、ストリングさんから狐狸相先生に会いたいと連絡が来たら私の負け。ストリングさんから連絡が来なければ狐狸相先生の判断が誤りだったとしましょう。もちろん、強引に狐狸相先生から会いたいというのはなしです」
ストリングさんは私を好きだから、すぐに会いたくなるはずだ。
そんなの私が勝ったも同然。
「わかった。本はいつ頃出るの?」
「ストリングさんはイラストを描かれるのが早いので、ほぼ挿絵も完成しています。校正も二度目が入りました。あとは二週間ほどで本として完成します。発売までは一ヶ月ほどです。ですから、一ヶ月以内にご連絡がこなければでいかがでしょうか?」
「いいよ」
一ヶ月なんて長すぎるぐらい。
ふふ、ストリングさんはすぐに私を求めてくる。
そう思っていた。
一週間が過ぎても連絡が来ない。
そうだ。私の連絡先が来ないからいけないんだ。
カスイさんが、ストリングさんに私の連絡を教えて欲しいと伝える。
だけど、それはできないと断られた。
もちろん、ストリングさんから聞きたいと言われた場合は、狐狸相先生から許可ももらっているから教えると言われた。
二週間が経って、全く連絡が来ない。
そこで、ストリングさんを検索した。
だけど、見つかるのは前回調べたPixivだけだった。
DMを送れるようだけど、送ってもいいのだろうか? というか何を送ればいいのかわからない。
あなたに会いたい? どうして連絡をくれないの? 私たちは恋人同士で好き同士ですよね?
三週間が過ぎて、我慢ができなくてDMを送った。
《どうして私に会いに来てくれなんですか? 私はあなたに会いたいです! 会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい》
私は気持ちが溢れ過ぎて思っていることを綴ってDMを送った。
次の日、カスイさんから連絡が来た。
「どうやら約束を守れなかったようですね」
「……どうしてストリングさんは連絡をくれないの?」
「ストリングさんから、ご丁寧な返信をいただいております」
《狐狸相先生に、そのように想われていたこと嬉しく思います。ですが、私には心に決めた女性がいます。そのため狐狸相先生の気持ちにはお答えすることができません。今回の件で仕事がしずらいということもあると思います。今回の仕事を終えた時点で、私はイラストを辞退させてもらおうと思います。狐狸相先生とお仕事ができたこと嬉しく思います。それでは失礼します》
カスイさんに告げられた言葉を聞いて、私はへたり込む。
涙が溢れ出して流れることを止められない。
私は失恋したんだ。
それに最高のイラストを描いてくれる人を失った……。
「ごめんなさい」
カスイさんに声を発すると、カスイさんは深々と息を吐かれました。
「いえ、狐狸相先生の気持ちもわかります。ストリングさんは素敵な男性でしたからね」
「はい」
「狐狸相先生」
「はい?」
「こんなタイミングですが、コミカライズが決まりました」
「えっ?」
「悲しいことをと嬉しいことは同時にやって来るのかもしれません。コミカライズは人気漫画先生の伊地知先生が担当してくれます。イラストを見て、この話なら描いてもいいと言っていただけました。ストリングさんからの置き土産です」
コミカライズはとても嬉しい。
それも女性漫画で有名な伊地知先生が担当してくれるなら、絶対に注目も集まる。
ストリングさんからプレゼントに私はもう一度心の中でお礼と好きだと思う気持ちを認識させられることになる。
罪な人。
だけど、やっぱり好き。
それでも私は仕事をしよう。
彼が最高の仕事をした続きを書かなければいけない。
私は作家なのだから。
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