第64話 酔うと記憶が

《side瀬羽優実》


 私は知っている。

 ヨウニイはお酒を飲むと、豹変することを……。


 姉さんが、ヨウニイにお酒を進める理由は、お酒を飲んで豹変したヨウニイが好きだからだ。


 いつものように三人で夕飯を食べ始め。

 

 ヨウニイのお酒が進んでいく。

 もちろん、私も姉さんと一緒にお酒を進める。


「ふっ、今日は酒が美味いな。スミレ」

「はっ、はい!」

「お前は俺が好きか?」

「……大好きですよ」


 ヨウニイは酔うと、私たちを呼び捨てにする。

 普段からそうしてくれたらいいのに。


「ユミ」

「はい!」

「お前は俺を愛しているか?」


 愛って! わっ私、彼女じゃないよ。

 まぉ、ヨウニイのことはいいなぁ〜とは思っているけど。

 姉さんを見れば頷いている。

 いいのかなぁ〜。


「うん。愛してるよ」

「そうか」


 ヨウニイは立ち上がって、私たち二人の間にやってくる。

 腰に手を回されて、ギュッと抱き寄せられた。

 ヨウニイの体は男の人らしい筋肉があって、引き締まっている。

 お酒の香りとヨウニイの体臭が混ざって嫌いじゃない匂いが私の頬を赤くする。

 

 普段は学校で男子が近づいてきても、距離をとって自分の空間を保っていたい。

 それなのにヨウニイが側にいて、近づかれるだけで嬉しいって思ってしまう。


 コスプレした時もヨウニイはお酒を飲んで豹変した。

 大胆なポーズを要求したり、お布団で一緒に寝るときに私の体を触ったり、だけど全部嫌じゃない。


 普段お酒を飲まないヨウニイが、お酒を飲んだところを見たいと言ったことで、そんなことをされると思わなかった。

 

 だけど、今回の私は知っていた。

 ヨウニイが酔えば人格が変わることを。


「ユミ、何を考えている」

「えっ? 前に一緒にお酒を飲んだ時のことだよ」

「昔のことはどうでもいい。今の俺をみろ」


 なっ! ヨウニイ、変わりすぎだよ! かっ顔が近い。暑い。


「スミレ、ユミ、二人を捕まえたぞ。もう二度と離さない」

「ふふ、私はヨウイチさんのものですよ」


 姉さんがすごく嬉しそうな顔している。

 

 だけど、多分……。


 私も同じ顔をしていると思う。


 ヨウニイの手が服の中へ入ってきてギュッと掴まれる。

 まるで心臓を鷲掴みにされたように、ドキドキしてもっと触れて欲しいと思ってしまう。


「……ヨウイチさん! 強引です!」

「嫌か……?」


 姉さんも同じようにされているんだ。

 私たち二人に、それは確かに強引……。

 

 だけど、ヨウニイの顔が、瞳が私の顔を見つめていた。


「ユミは嫌か?」


 その声に首を横に振ってしまう。


 私が首を横に振ると、ヨウニイは私の耳元に口を近づける。


「良い子だ」


 褒めてくれてカプッと耳を甘噛みされた。


 私は体が震えて背筋がゾクッとした! 何っ! 今の! 全身に電気が走ったような感覚に戸惑う。


「よっ、ヨウイチさん! まだお酒も、おかずも残っていますよ。あ〜ん」


 この状態のヨウニイをさらに酔わすの? どうなっちゃうの!


「スミレ、愛しい奴め!?」


 ヨウニイが姉さんが差し出したおかずを食べて口移しでお酒を飲む。

 私にはできないことだけど、姉さんがいつもよりも大胆になってる?


 先ほどからドキドキが止まらなくて顔が熱い。

 お酒は飲んでいないのに、まるでお酒を飲んだみたいに雰囲気に酔ってしまう。


 正直なことを言えば、幸せすぎて嫌ではない。

 このままずっとヨウニイが私の体を触り続けたらどうなるの?


「ユミ? お前は可愛いな。雰囲気も色気が溢れてくるようだ」

「クウン……!」


 姉さんやお母さんに比べれば、色気なんてないって思っているのに、ヨウニイから言われるだけで嬉しい。


 ヨウニイの表情が頬が赤くなって目がトロンとしていて、私なんかよりもエロい。

 お酒の力を借りて、普段抑えられている魅力が上限突破している。


 普段は小動物のような見た目と態度なのに、今のヨウニイは豹変して肉食獣だよ。


「うふふ♪ ヨウイチさん」


 姉さんが静かだと思えば、姉さんもほんのりと酔って顔を赤くしている。


 ヨウニイの首に両腕を回して抱きしめて、体を震わせている。


「はぁ……はぁ……スミレ!!」

「あはぁ……ヨウイチさん」


 姉さんとヨウニイの体が熱くなっていくのが伝わってくる。二人が激しくキスをする。

 お酒を飲んでいないはずなのに、私も……。


「わっ、私もヨウニイと引っ付いていたい!」

「……ああ。いくらでも」

「ふふ♪」


 ヨウニイが二人を抱きしめたまま引っ付いて、服の中で指を当ててクリクリとしてくる。

 絶妙な力加減、男の人から溢れる普段とは違う色気がヨウニイはお酒を飲むと尋常じゃない。


「ヨウイチさんはテクニシャン……」


 テクニシャン……。


 ヨウニイにされるがままにマッサージを受けて。

 私もその手を望んでしまうことに、この関係に染まっていく自分がいる。


 こんなことされたら、もうヨウニイのことしか考えれないよ。


 私たちはお風呂に一緒に入る約束して、なんとか夕食を食べ終えた。


「さぁ、ユミ。服を脱ぐんだ」


 ヨウニイに脱がされていく服を、私は恥ずかしがりながらも、両手をあげて受け入れる。


 その横で姉さんが羨ましそうな顔をしていた。


 私たちは二人でヨウニイの体を洗っていく。

 前に見られたことはあったけど、見るのは初めてでこれが男の人の体なんだ。


 私は初めての時を絶対に忘れない。

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