第62話 家族?
ふと夢を見た。
家族がまだ生きていて、幸せだった頃の記憶。
父さんはいつも俺を応援してくれる人だった。
母さんは優しくて、一番俺の絵を褒めてくれた。
両親の記憶は俺にとって幸せの象徴で、両親の元に生まれて幸せだった。
朝、目が覚めた俺は久しぶりにゆっくり寝た。
仕事が一段落したのだ。
だから気を抜いていたかもしれない。
リビングに出て、スミレさんとは違う後ろ姿を見て、
「……母さん?」
と口に出してしまった。寝ぼけていたんだと思う。
「まだ義母になってはいないけど、ふふ、そう呼んでくれるのは嬉しいわね」
エプロンをつけた美しい女性に優しく寝ぼけた俺を包み込むような抱擁をしてくれる。
「はっ、ハズキさん?」
「ふふ、おはようございます。ヨウイチ君。今日はスミレに頼まれて」
「頼まれた?」
「ええ、あの子が朝早くに出かけるから、朝食を作ってあげてほしいってね。ユミも今日は部活があるそうなの。それならって来ちゃった」
来ちゃったって、娘の恋人に朝食を作りに来てくれる義母って……。メチャクチャ優しすぎる。
「あっ、ありがとうございます」
「いえいえ、ヨウイチ君には家族全員がお世話になっていますからね」
「家族全員?」
「ええ。スミレに、ユミに、私に、この間はあの人までお邪魔してしまってごめんなさい」
手を合わせて謝る素振りが、年上の女性とは思えないほど可愛くて、つい大きく柔らかな胸元へ視線を向けてしまう。
先ほどまであの胸に抱きしめられていたんだと思うと体が熱い。
「あら〜肩にホコリが付いているわよ」
「え?」
ハズキさんの手が伸ばされて。俺の肩に触れる。
僅かに髪の匂いが鼻腔をくすぐり、触れらために近づいた顔が、まるでキスをするのではないかと思う距離に接近する。
「はい♪ とれた。ご飯ができているから食べてね」
朝食を作りに来てくれたのはわかっているのに、美人な義母と二人きりでドキドキしてしまう俺は変なやつだ。
いや、一番歳が近いということもあるが、スミレさんやユミさんのような年下とは違う、魅力が心臓を早くする。
「美味しいかしら?」
「あの、そんなに見られていると恥ずかしいです」
「そうね。ごめんなさい。私もお茶をもらうわね」
「ありがとうございます! 凄く美味しいです!
「……ふふ♪ こちらこそ、美味しそうに食べてくれて嬉しいわ」
ごめんと言いながら、見つめるのを続けている。
「ねぇヨウイチ君」
「はい?」
「食べさせてあげようか?」
「ぶっ!」
「ふふ、私ね。お世話をするのが大好きなの。本当は夫だけにしかしないんだけど、ヨウイチ君を見ているとしてあげたくなっちゃって」
スミレさんの世話好きは遺伝なんだ。
「あ〜ん」
義母に食べさせてもらう朝食は恥ずかしい。
「私たち家族は、ヨウイチ君に感謝しているの。スミレの命を救ってもらったこと、本当に恩返ししたいってね」
「……ぁ」
スミレさんだけでなく、義父も義母も、ユミさんも恩返しでお世話をしようとしてくれているのだ。
本当に家族とは似るんだな。
ただ、先ほどから見つめる姿勢も悪い。
テーブルに乗っている。
何がとは言えないが、視線を向けないでいられる自信がない。
美味しいはずのご飯も喉を通っていかない。
ハズキさんの瞳に嘘はないと思う。
その瞳には、優しく家族を見つめるような慈愛が含まれている。
「だから私は、スミレだけでなく、ユミもヨウイチ君と仲良くさせてもらっていることはいいと思っています。あまりヨウイチくんが困らない程度に甘えてね。ただ、ヨウイチ君が困るようなことはさせない。スミレを助けてくれた人が困るのは嫌でしょう?」
「……わかりました。」
ハズキさんはいいお母さんだな。
彼女たちが優しく育っていったのが伝わってくるようだ。
この人たちを裏切らない自分でいたいと思う。
「それとね。もしもユウイチ君が良ければユミももらってあげてね」
「なつ! あはは、揶揄わないでくださいよ! 確かに仲良くはさせてもらっていますが、二人もなんて」
「私はそれでもいいと思っているわ。娘たちが心からお世話をしたいと思う男性が現れて、たまたまかぶってしまうことなんてあると思うの」
ユミさんには責任をとってと言われているが、スミレさんと別れとは言われていない。もしかしたら、優柔不断として嫌われてしまうかもしれない。
だけど、二人も同時になんて……。
「もちろんユミが望めばよ。どうか叶えてあげて欲しいの。スミレには話を通してあるから。ただ、すみれも神経質なところがあるが、気をつけてね」
何をs言われているのか理解できないまま。
親公認で姉妹と付き合ってあげてと言われました。
もちろん、そんなことはと否定したいけど、俺の心はユミさんとの間に傾いていた。
だから、ハズキさんの言葉が夢の中で見た両親とかけ離れすぎていて、戸惑いながらもハズキさんの公認で認められて知ったようだ。
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