第61話 カフェデート

 打ち合わせをして、スミレさんのお父さんに会ってから二週間の時が流れた。

 一枚の挿絵を作るのに、一日をかけているので、基本的なラフ絵が完成した。


 カスイさんにラフ絵を送ったら、OKがもらえたのでそのまま完成させるだけだ。


「ヨウイチさん」

「はい?」

「最近、仕事で篭りきりなので、そろそろ外に出ましょう」


 集中癖を意識して、朝晩は必ず手を止めてスミレさんと話すことを心がけている。そのおかげが体調を崩すことなく二週間を過ごすことはできた。

 ユミさんは、学校があるそうなので、週末だけやってくるので、一緒にご飯を食べたりをする。


「ふぅ、そうですね。一旦一段落できたので、休息はします」


 挿絵はラフまで完成して、表紙と口絵に関してはOKをもらった。


 挿絵に関しては色を塗ることもないので、少しぐらいは休憩しても問題ない。


「はい! たまには美味しい物を食べに行きませんか?」

「美味しいもの?」

「はい!」


 嬉しそうな顔をしたスミレさんに手を引かれてやってきたのはカフェだった。

 フワフワのセーターにロングスカートがふわっと揺れ、ブーツもリズム良く靴音を立てている。


 銀座駅から歩いて10分くらいの所にある、クラッシクな店構えのカフェ。

 落ち着いた雰囲気でに、話をしている人たちもどこか大人っぽい雰囲気を出している。


 大人女子が大勢いるような素敵カフェに少し圧倒されてしまう。


 店には何語で書かれているのかわからない店名が記されて、可愛い黒猫の置物が置かれていた。


 店内は、意外に若い人が多くてもっと重厚感があるように見えたギャップで緊張しなくても良さそうだ。

 家族連れで楽しそうにしている姿も見える。


「昔は、家族でよく来ていたんです。ここのフルーツサンドが大好きなんです」


 パフェやパンケーキでもいくのかと思えば、フルーツサンドで、大きい物ではないんだけど甘さ控えめのクリームに、季節のフルーツが挟まれていて上品な味わいがする。


「美味しい」

「ですよね。うちの家族もみんな大好きなんです」


 銀座にくるのも初めてに近い俺では絶対に知らないカフェだな。


「家族の味なんだね」

「はい!


 上機嫌なスミレさん。

 コスプレ撮影会やお父さんが会いにきた話をしてから、機嫌が良い日が多い。

 最近は大学に復帰して、朝から家を空けていることも増えた。


 この二週間は朝と夜しか時間を取れていなかった。


 俺も仕事に集中できていたので、丁度良い距離感を保ってくれていたのがわかる。


 ふと、スミレさんの手を見れば、綺麗にネイルがされていた。

 記憶の中ではシンプルに塗ってはいた。

 だから、装飾はしていなかったように思う。


「私の手に何かついてますか?」

「うん。可愛いネイルをしているんだなって」

「気づいてくれてありがとうございます。実はユミがしてくれたんです」

「えっ? ユミさんが?」

「はい。あの子大学に行くのが面倒だからって、美容系の仕事に就きたいそうです」


 美容系でネイルか、やっぱり俺とは考えることが違うなぁ……。

 ユミさんも将来のことを考えているんだな。


「スミレさんは弁護士、ユミさんはネイリストか凄いね」

「ヨウイチさんの才能も十分に凄いですよ」


 ふと、メニューが見えたけど値段が書かれていない。


「喉乾きましたね。コーヒーを飲まれますか?」

「うん。そうだね」 

 

 フルーツサンドと一緒に頼んだコーヒーは飲み干してしまった。

 味は確かに美味しいんだけど、クリームを食べると喉が渇いてしまう。


「あっ、ヨウイチさんはお金を出しちゃダメですからね」

「えっ? どうして?」

「まだまだ私はヨウイチさんのお世話が足りないので、最近はヨウイチさん仕事ばかりで、私も学校でお世話をして上げられませんでした。これぐらいは私がしたいんです」


 う〜ん、お金に関することは俺も出したいって思うんだけど、スミレさんはこういう時に俺がお金を出そうとすると拗ねてしまうから、引く方が正しいな。


「ここのフルーツサンド。最近、有名な方がSNSでアップしてしまって、昔よりもお客さんが増えてしまっているんです」


 SNS……、全然今の文化についていけてない。

 TUitterはとPixivは仕事のためにやっているけど、プライベートでは全然見ない。

 

 若いからスミレさんはやっているのかな? NINsutaとか、TeXtoltukuはわからないけど、おしゃれ女子はやってそうだな。


「スミレさんもSNSをやってるの?」

「はい。と言っても自分では全然上げていないので見る専門です」

「それでも凄いね。俺は全然わからないや」

「見るだけなら誰でもできますよ」


 そうやってオシャレなカフェでSNSのレクチャーを受けながら、二人で凄く休日はとても楽しくて、今まで味わったことない幸せに思えた。


 ただ、お会計の際にスミレさんがブラックなカードを出して、四桁の会計を見た時に、果たして自分はまたここにくる勇気があるのか、考える時間が発生したことは言うまでもない。

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