第59話 絡み合う糸

 自分が何をしていたのか、自分が何を望んでいるのか、俺はただ、彼女と幸せになる未来を望んでいたはずだった。


「えっ?」

 

 目が覚めた俺の目の前を出迎えたのは肌色だった。

 俺の眼前にあるのは柔らかそうで弾力のある小さな物体……そう、目を覚ました俺の前にあったのはおっぱいだった。

 小ぶりながらも手に収まらない程よい弾力と暖かさが伝わってきて。


「んん……」

「はっ!」


 離さないと! そう思って体を動かそうとして気づいた。

 背中にスミレさんがいる。


「……これは……マズいかもしれい」

「ぅん……ヨウニイ?」


 俺の声に反応するように、ユミさんが甘い声を発した。

 いや冷静に状況を判断したいとけど、何がどうなってそうなっているのか分からない。目を覚ましたら何故かこうなっていたんだ?


「……………」


 昨日はコスプレ撮影会をして、二人がペットになるというから、一緒に食事をしてスミレさんがお酒を出してくれて、酒を飲んだ後から記憶がない。


 ユミさんは泊まったのか? 姉妹二人が隣に寝ている。

 俺をサンドイッチするように良く寝れたものだ。

 起きたらこうなっているなんて誰も想像出来ない。

 全く記憶がないんだから仕方ない。


 俺と向かい合うように至近距離で寝ているのはユミさん。

 シャツが捲れ上がって、二つの膨らみあしっかりと見えてしまっていた。

 俺はゆっくり体を離そうとしたのだが、背中にはスミレさんがいて、さらにユミさんの足がガッツリと俺を抱きしめて離さない。


 逃がさないと言わんばかりに抱きしめてきた。


「うぅ〜!?」

「……んん~♪」


 抱き枕だと勘違いしているのかな? 寝ているユミさんが胸元に俺を抱き寄せる。柔らかくて良い匂いがしてクラクラする。

 この状況、どうやって抜け出せばいい? 少し体を動かそうとすればギュッと抱きしめてくる腕に力が込められてしまい抜け出せない。


「……どうしようか?」


 一先ず状況を整理してゆっくり抜け出そうと試みる。

 だが、背後からまさかの伏兵が現れた。


「……すぅ……すぅ」

「スミレさん?」


 正面からユミさんに抱きしめられて、背後からスミレさんに寄り添われている。二人にサンドイッチされて身動きがますます通れない。


「……う〜」


 声を出すと顔面を抱きしめるユミさんの力が強くなり、スミレさんも近づきいてきて柔胸が背中に伝わる。

 そして二人から放たれる甘い香りに脳がクラクラしてしまう。

 

 目を閉じて眠ってしまおうかと思うが、こんな状況で寝られるはずがない。


「……?」

「……あ」


 ふと、ユミさんの体が動いた。

 ユミさんの顔が動いて、俺の頭を見下ろした

 見上げた俺と目を合ってしまう。


 この状況、どうすればいいんだろう。


 彼女の妹の胸で眠る彼氏って、最悪な想像しかできない。

 もしかしたら悲鳴を上げられて、スミレさんにも嫌われるかも知れない。

 

 そんなことを心の中で叫んでも助けてくれる人はいない。


 ユミさんがどうやって判断するのかわからないまま審判を待った。


 ユミさんの瞳が怪しく光り微笑んだ。


「おはよう。ヨウニイ」

「……うん。おはようユミさん」

「もっと抱きしめていい?」

「……えっ」


 かけられた言葉に俺はどんな反応を返せばいいだ?

 顔を上げて見つめてくるユミさんの表情は……何というか、とても優しい笑顔をしていま。


 スミレさん慈愛に満ちた眼差しとも違う蠱惑的な瞳に見惚れてしまう。

 ふと、朝ということもあり生理現象というものは起きてしまう。


「……あ」

「……………」


 頭を抱きしめていたので、彼女の太ももからお尻が絡みあって触れている。

 気づいて少し体を引いてくれたが、頬を真っ赤に染めた彼女に俺は何も言えない。


 妹さんに欲情した変態だこれでは!


「……はぁ……うぅん!!」


 心なしかユミさんが俺に体を密着させるのを強めた気がする。それに息が荒くなって離れられない。


 この状況でスミレさんが目を覚ましたら!


「……ヨウイチさん?」

「すっ、スミレさん、おはよう」

「はい、おはようございます」


 やっと離れてくれると思っていると、スミレさんにギュッと抱きしめられた。


「ユミばかりズルいです」


 スミレさんが耳元で囁く。

 そんなこと言われても! てか、怒ってないの?


「姉さんはいつもしてもらえるでしょ。ほら、ヨウニイのために朝ご飯作るって言ってたじゃん。用意をお願い!」

「……仕方ないわね。その前に」


 スミレさんがもう一度俺を抱きしめて耳元で囁く。


「おはよう。ヨウイチさん愛してるいるわ」

「……うん。ありがとう! スミレさん」


 スミレさんは頬にキスをしてベッドから出ていった。

 やっと解放されたと俺も起きようとしたところで抱きしめられる。


「おっぱい、見たんだから責任とってね! 強引なヨウニイ」


 ユミさんは服を直して、スミレさんとは反対の頬にキスをした。


 俺はとんでもないことをしてしまったんじゃないだろうか? スミレさんとユミさんに囲まれて食べる朝食は味がしなかった。


 姉妹は仲良さそうに話しているのが、俺にとっては不安を感じてしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る