第58話 撮影会 後半
《side瀬羽菫》
彼が仕事部屋から出てきて、ユミと二人で彼の目の前に立つ。
ヨウイチさんは困ったように視線を彷徨わせて私を見つめた。
正確には私が着ている衣装に視線が向けられる。
頭に付けられているウサギの付け耳。
白くフワフワとしたドレスについた、フワフワの尻尾
メイド服を着た時は思わなかったけど、とても恥ずかしい格好をしている。
「撮るよ」
ヨウイチさん前でポーズを取る。
恥ずかしさと見つめられる快感でもっと見られたいと思ってしまう。
ヨウイチさんが望んで購入してくれたプレゼント。
全身が彼に包まれている所有物。
まるでペットにされた気分になる。
「ヨウニイ似合ってる?」
私の横で妖艶な笑みを浮かべるユミは生き生きとしてヨウイチさんに見つめられることを望む。
「凄く可愛いよ……。少しずつポーズを変えてみて」
ファインダー越しに見つめるヨウイチさんの瞳は、次第に真剣な者になって私が抱える恥ずかしさを取り払う。
プロの視線。
ヨウイチさんは何かに集中すると、凄い力を発揮する。
余すところなく全てを見つめられるような不思議な感覚。
全てを見透かされるような全身に視線を感じて囚われる。
この姿にドキドキしてくれていたのは最初だけ。
それはそれで凄く嬉しいことだけど、私は知っている。
一度、ヨウイチさんが世界を展開すれば、手のひらの上で転がされるのは私。
「ヨウニイ」
ユミも知ることになるだろう。
ヨウイチさんの魔性の力を。
リビングという広い空間にいるはずなのに、狭い空間に閉じ込められたような感覚。それは私たちを縛り付けて捕らえて離さない。
四つん這いになった私たちがヨウイチさんの顔を見上げる。
コスプレしている胸元は開き、スカートが捲れて白いストッキングと下着のハザマが見えてしまう。
あの視線に見つけられると、私の体はおかしくなる。
獣のように見られることを求めてしまう。
「ヨウニイ、もっと〜!」
「……ああ、スミレさん。ユミさん。いいよ」
熱い、体が火照ってくる。
実を言えば、いつでもこの体に手を出してもらっても構わない。
ヨウイチさんが酔って私を求めた日から、私は気づいてしまった。
ご奉仕にしたくて卑しくも色目を使う。
このウサギをどうか躾けてください。
強く鋭い口調で命令されたい……。
「スミレさん……」
「……はい」
「もしかしてその恰好気に入ってるのかな?」
「えぇ。ヨウイチさんがくれたプレゼントですから」
服自体にそこまでの思い入れはない。
だけどこんなにも私をみてくれるなら、私の心と体を熱くさせてくれるならいくらでも好きになれる。
ヨウイチさんが喜んでくれて、ヨウイチさんのお世話をしてあげたい。
ふふ、いいことを思いついた。
「ヨウイチさん。ご主人様とペットさんごっこはいかがかしら?」
「姉さん。それいいね」
「なんですかそれ……?」
ヨウイチさんが不思議そうな顔をして可愛い。
ユミが賛同してくれたから、私は今言葉にした趣旨を説明した。
単純にヨウイチさんが私たちのご主人様になり、私とユミがご主人様のペットとして接するのだ。
ヨウイチさんは私たちをペットして可愛がり、私たちはヨウイチさんに甘える姿を見せる。その姿をヨウイチさんが撮影していく。
「……えっとそれじゃあ……髪でも撫でさせてもらおうかな?」
「はい」
「ゴロニャ〜」
ウサギの鳴き声がわからない私が普通に返事をすると、ユミがネコの真似をしてヨウイチさんの膝に甘えにいく。
ヨウイチさんはユミの頭を膝に乗せて頭を撫でてもらう。
気持ちよさそうな顔を見せて、それをヨウイチさんが撮影した。
私も負けていられない。
後ろからヨウイチさんを抱きしめてサラサラの髪を差し出した。
「えっと、サラサラだね」
「ええ、凄く気持ちいいわ」
あぁ……その言葉がとても嬉しい。
もっとお世話したい。甘えたい。かまってほしい。
もっとヨウイチさんが喜ぶことをしてあげたい。
「ヨウニイ次は?」
「こっちにお尻を向けて壁に手をついて」
私たちを甘やかすだけじゃない。
ヨウイチさんは仕事モードで私たちの背中からお尻を撮影していく。
ネコが伸びをするように、背中をそらすユミ。
私は壁に手をついてお尻を横に振ってみる。
「いいよ! 二人とも獣のようだ」
連写音が聞こえてきて、ヨウイチさんの調子が上がっていく
「なんでも言ってもいいのかい?」
「ええ、もちろん」
そう私が言った瞬間、ヨウイチさんの纏う雰囲気が少し変わった。
「ちょっとこっちにきて」
「……はい」
ヨウイチさんに呼ばれて、私たち振り返る。
少し低くなった声にドキッとしてしまう。
逆らう気はないけれど逆らえない。
私の女がヨウイチさんの、いえご主人様の声に屈服してしまう。
とても気持ち良くて……いい。
「……仰向けに寝て」
二人を寝かせるように命令をする。
並んで私たちが寝ている姿をヨウイチさんが見下ろしてくる。
チラッと見えた鏡に映る私の頬は赤くなって瞳が潤んでいる。
目の前の雄に従属したい雌のようだ。
あぁいやらしい、いやらしくていやらしくて自分が情けない。
「お前たちは可愛いなぁ〜二人とも俺のモノだ。一生傍に居ろよ」
「っ!? ハァ〜……あ、あぁ……はい!」
「……うん」
私の横でユミがモジモジとして、荒く息を吐く。
それを最後に撮影会は終わりを告げた。
ただ、終わった後のヨウイチさんは、いつも以上に疲れていたので、たくさんお世話をしてあげなくちゃ。
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