第52話 俺だけのメイドさん

 家に帰りつくとスミレさんは、ちょっと失礼しますと寝室のドアを閉めてしまった。


 正直なことを言えば、ドキドキしている。

 メイド服を購入してから、いや、その前から上機嫌だったスミレさんが帰る道を急ぐほどに楽しそうにしていた。


「お待たせしました」


 スミレさんの声で振り向いた。

 俺の目に飛び込んできたスミレさんの姿は特級品だった。

 

 最近見たばかりの狐狸相先生のゴスロリコスプレをイメージしていた。


 だが、全然違う。

 確かに、狐狸相先生は可愛らしい美少女風の女性で、ゴスロリが似合っていた。


 だが、スミレさんはメイド服が一番似合っているのではないだろうか? 服装がメイド服という衣装に身を包んだだけで、世界が変わる。


 ここが豪華な邸宅で、そこに仕えるメイドのように気品に溢れている。


 長いスカートにフリルの装飾が多い胸元。

 清楚なイメージが強いメイド服だった。

 

 街にいるような、メイド喫茶のメイドさんとは違う。

 本格的な給仕をしてくれそうなメイド服なのだ。

 実際にこんな間近で見たことはない。

 可愛さで言えば、あちらの方が短いスカートに胸元が開いていて可愛く見えるだろう。 


 だが、目の前では隠された長いロングスカートにメイド服を着ていてもわかるほどの豊満な胸元がボタンを押し上げて肌が見えている。


「えっ! 肌?」


 俺は驚いきで声を出してしまう


「ふふ、ただいま戻りました。ご主人様」


 そう言って頭をスカートの裾を持ち上げて清楚な雰囲気を漂わせるスミレさんは間違いなく美しい。


 そのお辞儀に連動するように、胸元の大きな膨らみも揺れて先ほど見えた素肌を見ようと釘付けにさせられる。


「ヨウイチ様のお世話をするのにはこれからこちらの方が良いかもしれませんね。いかがですか? ヨウイチ様。もしかして嫌いですか?」


 美しい黒髪を揺らしてスミレさんが俺の目を覗き込む。メイドさんに見惚れてしまっていた。


「……可愛いです」


 好きか嫌いかではなく、すみれさんに対しする答えを言ってしまう。

 スミレさんはニヤニヤとイタズラが成功したように笑みを浮かべて、薄っすらと頬を染める。


「嬉しいです。ヨウイチ様に褒めてもらえて……」


 二人で気恥ずかしくなってしまう。


「どうですか? 似合っていますか?」


 クルッとその場で回れば、スカートが綺麗に舞い上がる。


 ただ、バランスを崩してしまったスミレさんを慌てて抱き止める。

 柔らかくて軽い。それでいて抱き止めると凄くいい匂いがする。


「大丈夫?」

「……はい……ありがとうございます」


 腕の中に抱き留める形になり、かなり近い距離にスミレさんの顔がある。

 スミレさんは俺の胸に額を付けるように抱き着いてきた。


「ヨウイチ様に抱きしめられてしまいました」

「……ああ」

「ヨウイチ様も心臓がドキドキしています」

「うん。スミレさんが出てきてからずっとだよ」

「……実は…私もです」


 スミレさんが俺の手を取って、自身の胸に押し当てた。


「スミレさん!!」


 先ほど見え隠れしていた肌色。

 

 メイド服の生地の上からでもわかってしまう。

 柔らかな感触は硬い下着の感触が何もない。


 彼女本来の豊満な胸は早音を打ち、心臓の音が伝わってくる


「……えっと、スミレさん……?」


 服の生地のみしか隔てるものを感じさせないこの感触はつまり、スミレさんはブラを着けていないことになる。

 それを考えてしまうだけで体は熱くなり、手に力が入っていく。


 ぎゅむっと沈み込んだ五本の指にスミレさんの感触と、首元にスミレさんの「ハァ〜」という艶かしい吐息が当たる。


「寝室の用意はできていますよ」


 首筋から耳元へ移動したスミレさんの口元が囁いた。


「……失礼します」

「……キャ」


 俺はスミレさんを寝室まで抱き上げて連れて行く。


 理性が止められない。


「お待ちになってください」

「えっ?」

「見て」


 そう言ってロングスカートの裾を持ち上げていく

 スミレさんはいつも以上に背徳的な情緒を発している。


 スカートが上がっていくだけの光景がこんなにもそそられるなど誰が想像しただろうか? 俺は生唾を飲み込んでいた。


「……ゴクッ!」


 メイドさんのスカートの中にはタイツが落ちないように止められたガーターベルトが見えて……。


「ヨウイチ様」


 スミレさんを抱きしめた。

 俺の顔を優しく抱きしめてくれるスミレさんは甘い香りがして、優しく、温かく、安心させてくれる。


「私のヨウイチ様、お好きにお召し上がりください」


 もう、理性を保つことはできなかった。


 ……俺はただスミレの中に溶けていく。


 ドロドロに脳内がスミレで満たされて、何も考えることができなくなる。


「私たちに全てを委ねてください。身も心も思考も全て、あなたの全てが欲しいから……。ヨウイチ様、私にください」


 入り込んでくる言葉は決して甘美な響きを放ち。

 やんわりと滲み込んでくる甘い蜜のようだ。

 そこに溶け込み、溺れて、温もりと優しさにドロドロに溶かされていく。


 理性など存在しない。

 壊れていく音が聞こえるような気がする。


「ヨウイチ様、いっぱいご奉仕をさせてくださいませ。私はあなただけのメイドですよ」


 愛おしく狂おしく、ただただ俺はスミレさんの全てに惹かれていく。

 どうしようもないほどに……この温もりを手放すことはできない。


 むしろもっと求めてしまう。

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