第53話 sideラノベ小説家 3

《side狐狸相》


 私はストリングさんに挿絵を作ってもらうために様々な資料を集めた。


 仕事が一段落ついたところで、注文していた商品が届いていることを思い出した。

 表参道のお気に入りの店に新しいデザインの服が入荷したと連絡が来ていたはずだ。

 

 そろそろ取りに行きたい。

 だけど、こちらの方も終わらせなければならない。


「狐狸相先生。最近、煮詰めすぎなので少し時間を空けてもらっても大丈夫です。今は、イラストレーターさんを待ってください。先生には校正の修正だけお待ちいただければ大丈夫ですから」


 カスイさんからのメールを思い出して、資料集め以外は時間ができていることを思い出した。

 そうだ。今なら表参道に行く時間はある。


「ふふ、今日は気分がいいから、新しい服を購入してあの人に見せようかな? 私の姿も一緒に送付すれば、喜んでくれるよね?」


 やっぱり取りに行こう。


 資料は十分に集まっているはず……。

 だから綺麗にして、あの人に喜んでもらおう。


「ストリング様……。ふふ」


 一度会っただけのお方ですが、心奪われるほどの魅力的な人。


 私を優しく見つめる瞳、私の考えを反映した絵の数々、そして何よりも私の全てを肯定してくれた言葉。


「ふふ、もう私は妄想の中であの方の子供を妊娠してしまいそうです」


 表参道に到着して、大好きなお店で注文していた服を受け取りました。


 この瞬間が一番テンションが上がる。


 ふと、遠くにストリングさんに似た人を見つけました。ですが、遠くてはっきりとはわかりません。

 帰って新しい服の撮影会をしたい。

 だけど、気になる。

 もしかしたら会えるかもしれない。


 そんな思いで表参道に戻って歩き回りました。

 ですが、どこにも彼の姿はありません。


 やっぱり見間違いだったんだ。

 ふふ、私は彼を思いすぎて幻覚まで見てしまっているのね。

 

 ダメダメ、早く帰って彼に写真を送ってあげないと。

 きっと彼も私の可愛い写真をほしいと思っているはずだわ。


 私は最後に衣装を購入したお店に立ち寄って、彼がいないことを確認する。


「あっ狐狸相さん。忘れ物ですか?」

「いえ、知り合いの男性を見かけて挨拶しようかと」

「男性ですか? うーん、先ほど来られたカップルは、いましたけど」

「カップル?」


 お店を出ようとした私にいつも馴染みの店員さんが話しかけてきた。


「はい。最初は歳が離れていたので、ご兄妹とかかなって思っていたんですけど、彼女さんの方が男性のことが大好きで。彼の方は恥ずかしそうにしながらも小動物系の可愛い系男子でした」


 それなら私が知っているストリングさんも小動物系で可愛らし男性だから、私とお似合いだ。


「そうなんですね。珍しいですね」

「ええ、だけど、彼女さんが幸せそうにしてたから、帰ったらメイド姿を見せてあげるんだと思うといいなぁ〜と思うですよね」


 店員さんも可愛いメイド服を着ているので、誰かに見てもらいたいと思っているんだろうな。


 私もあの人に見てもらいたい。


 こんな気持ちになるのは初めて、もうすぐハロウィンもあるから、ダーク系の衣装も用意しておこうかな?


「悪魔系の衣装ってありますか?」

「今の時期って人気なんですよ。小悪魔系って女の子が可愛く見えますからね」


 あの触覚とか、尻尾が可愛くて、ふわふわな黒のフリルがチャームポイントになる。

 あとはメイクで可愛く見せられるかによるから、結構腕の見せ所でもある。


「今は無理?」

「う〜ん、狐狸相さんはSSサイズだから、これならいけるかも?」


 そう言って出してもらったのは黒ではなくて真っ赤なサキュバスタイプのコスプレ衣装。

 普段なら絶対に着ないけど、今の私はストリングさんを悩殺したいからありかもしれない。


「可愛い」

「えっ! 結構きわどいですよ! お腹も出てるし、ハイレグですよ。しかも胸元もバンドしかないですし」

「大丈夫! 悩殺したい」

「おお! 狐狸相さんにもとうとうそんな相手が! ふふふ、聞かせてくださいよ〜。どんな人なんですか?」


 店員さんは女性だから、恋愛話に興味があるのは仕方ない。

 だから、今日は仕方なく聞かせてあげるした。


「あの人は年上の人」

「へぇ〜、狐狸相さんは年上さんが好きなんですね」

「年齢は気にしない。だけど才能があって、私を見て肯定してくれる人がいい」

「才能って難しいですよね。それって狐狸相さんが認めるほどのってことでしょ?」

「当たり前! 私が認める才能がないとダメ」

「う〜ん、そんな人がいるのかなって思うけど、今の話ならいるんでしょうね」


 私の頭の中にストリングさんの顔が浮かぶ。

 あの慈愛に満ちた瞳は暖かくて、オジサンって雰囲気ではなく、年上なのに可愛いと思う。


 あの人を私が養ってもいい。

 私が創作した話をあの人が絵にしてくれたら最高。


「いる。しかもとびっきりの才能を持ってる」

「いいですねぇ〜。先ほどきたカップルさんもいいなぁ〜と思いましたけど、狐狸相さんの恋愛もいいなぁ〜。私も恋愛したい!」

「恋愛はいい。創作意欲を掻き立ててくれる。商業とは別に恋愛の話を書きたい。web投稿してもいいかな」


 そうだ。ストリングさんとの幸せな結婚生活を小説にしたら面白いかもしれない。


 私たちを邪魔する障害に、ストリングさんに付きまとう女を作って、ストリングさんは勇気があるから、女の子を助けてストーカーとして付き纏われるようになる。


 結婚の約束をしている私は、そのストーカーと戦うことになる。


 ふふふ、いい。すぐに帰って書こう。


「お買い上げありがとうございます」


 私は思いついた話を書くために、すぐにカフェに飛び込んで創作を開始した。

 

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