第50話 スミレさんに晩酌を

 本日は狐狸相先生にお会いして、改めてイラストをお願いしますと頼まれた。

 

 単純に嬉しい。


 初めて自分の力で仕事が決まった。

 やっと自信を持つことができたんだ。


「今日は正式にお祝いをしますね! 腕によりをかけて作ります」


 スミレさんに嬉しくて連絡を入れると、またまた嬉しい返事を送ってくれる。


 心の中でウキウキとしながら酒屋に向かう。


 普段はお酒は飲まない。

 単純に弱くてあまり飲もうと思わない。

 だけど、今日ぐらいはいいよな。


 ビールの缶を二本と、昔に仲介さんが教えてもらって飲んだ時に、美味しかった銘柄を探した。


《一ノ蔵 発泡清酒 すず音》


 お酒が弱い俺でも美味しく飲める。

 名前を忘れることなく買うことができた。

 一本当たりが量が少ないので、今後も飲めたらと思って十本ほど購入した。


「ただいま帰りました」

「お帰りなさい。うん? お酒ですか?」

「はい。飲みやすいお酒なので、スミレさんと一緒に飲めたらと思って」

「ふふ、そうなんですね。ヨウイチさんのオススメは楽しみです」

「絶対に美味しいと思います」


 食卓にスミレさんが作ってくれた料理が並んでいく。

 ローストビーフやチーズフォンデュなどのおしゃれな料理だ。


「メインはアヒージョです」


 ニンニクの香りが漂う料理に食欲がそそられる。


「それではいただきましょう」

「はい!」


 スミレさんがキンキンに冷えたコップを出してくれて、そこへビールを注いでいく。


「よく用意していましたね」

「ふふ、今日はお祝いだと思ったので、用意していたんです。もしかしたらヨウイチさんがお祝いでお酒を飲むかと思って」

「凄すぎです!」


 俺の世話をすることに特化したスミレさんの能力が異常だな。


「ふふふ、それではどうぞ」


 スミレさんも小さなコップにビールを注いで乾杯した。


「仕事が決まっておめでとうございます。乾杯」

「乾杯」


 グイッと一気に飲み干して、半分ぐらいなくなる。

 お酒はあまり強い方ではないので、ほどほどにしないといけないのだが、それでも今日は気分がいい。


「ふぅ、さていただきましょう」

「はい」


 ホクホクとしたブロッコリーのアヒージョを口に含むとニンニクの香りが口の中に広がりビールを一気に飲み干していく。

 熱々の口の中が、冷えてさっぱりとしていくのがとても合う。


「ハァー美味しい」

「よかったです」

 

 どんどん料理のおいしさに舌鼓を打ちながらお酒が進んでいく。


「ふぅ〜、確かに美味しくて飲みやすいですね」


 チーズフォンデュの濃厚な味に、すずねのスッキリとした甘みのある味が飲みやすい。

 どうやらスミレさんも気にいってくれたようだ。


 どんどん飲んでいきましょう。



《side瀬羽菫》


 珍しくヨウイチさんが、お酒を購入してきた。

 一緒に暮らし出して、初めてのことだったと思う。

 だけど、それぐらい嬉しいことなんだと思う。

 そう思うと私も嬉しい。

 

 だから、私も慣れないお酒を一緒に飲んで、気分が良くなりました。


「スミレ」

「えっ?」


 お酒が進み、食事もほとんど食べ終えたぐらいで体が火照り出していました。


 そんな私にヨウイチさんが名前を呼びました。


 それもいつものさん付けではなく、初めて呼び捨てです。


「はっ、はい」


 スッと立ち上がったヨウイチさんは目が座っています。

 ゆっくりと私に近づいてきて、椅子に座る私の前でしゃがみました。


「どっ、どうしたんですか?」


 普段はしないような行動と言動に、私は戸惑ってしまいます。

 頼りないのに頑張っている小動物のようなヨウイチさん。だけど、今は雰囲気が違います。


「スミレ」

「はい!」


 また呼び捨てにされて背筋が伸びてしまいます。

 ヨウイチさんが上目使いに私を見上げました。


 普段、こんなにも見つめられることがないので、ドキッとしてしまいます。


 塩対応というわけではないですが、恥ずかしくてベタベタしないヨウイチさん。


 どこか遠慮しているヨウイチさんは、私を呼び捨てにしてそっと寄り添ってくれるのです。


 可愛い!


「ありがとう」


 そっと優しくヨウイチさんが私の手を握ってお礼を伝えてくれます。

 その手は暖かくて、大きな手が私の手を包み込んでいました。


「スミレが、俺を支えてくれたから仕事に戻ることにできた。一人だったら俺はどうしたらいいのかわからないまま、伊地知のところに戻っていたかもしれない。ありがとう。俺には君が必要だ」


 これはお酒の影響だと思います。


 ヨウイチさんが私に対してこんなにも素直に気持ちを伝えてくれるなんて、思っていないから先ほどから胸がギュッと掴まれたような感動があって熱くなります。


「スミレ」

「はい」


 ヨウイチさんが私の座る腰にそっと腕を回して私に抱きついてこられました。

 私はヨウイチさんを迎えるために足を開いて受け入れます。

 

 ヨウイチさんは私の胸へ顔を埋めてギュッと抱きしめてくれました。


「好きだよ」

「ハウっ!」


 こんなにも直球でヨウイチさんが気持ちを伝えてくれるなんて、しかもいつもは塩対応のヨウイチさんが甘々に私に甘えてきています。


 こっ、これは私はどういう対応が一番正解ですか?!


 ダメです!


 いつもはこちらからお世話をするのに、甘えに来るとこんなにも幸せなのですね。

 身体も火照っているので、ヨウイチさんがしたいことなら全てを受け入れたいです。


 なんなら、このまま赤ちゃんを作ってもいいです。


「ヨウイチさん!」

「ぐ〜」

「えっ?」


 ヨウイチさんは私を抱きしめたまま寝ていました。


 なんでしょうか……盛り上がった気持ちを返して欲しいです。

 だけど、寝顔を見せてくれるヨウイチさんは可愛いですね。


「もう」


 私が肩を叩くと、ヨウイチさんの目が開いて立ち上がりキスをされました。


「風呂にいくぞ」


 ヨウイチさんはそのままお風呂に向かってしまいました。

 私は、食器を食洗機に入れてお風呂に向かいました。


 今日は手抜きしてもいいですよね。

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