第49話 sideラノベ小説家 2
《side狐狸相》
私は編集さんから送られてきた。
二枚のラフ絵に感動して、泣いてしまった。
私が送った資料の中から、物語に合わせた主人公を作ってくれるだけでも感謝していた。
だから期待をしていたのは事実だが、今回送られてきたラフは、期待以上の出来栄えの物が送られてきたのだ。
作者である私のイメージに合わせて、主人公のポーズと背景が合わさることの難しさは、自分自身が一番わかっている。
それだけじゃない。
私は二枚目の絵を見て、胸を締め付けられた。
主人公が断罪されるシーン。
読者からすれば、テンプレと言われるシーンだと思う。だけど、自分の主人公が断罪される。
それを見るというだけで、胸が締め付けられるような感覚を覚えてしまう。
それがイラスト化されて、見ることができる感動を、なんと表現していいのかわからない。
それは言葉にならない感動があって涙が流れ落ちた。
自分の主人公が悔しそうな顔をしながらも、毅然とした態度を取るこのシーンは、自分の想いが込められている。
それが明確な絵として表現されている。
何度も何度も見返しては、泣きそうになってしまう。
「……カスイさん。ありがとうございます。最高です。このまま進めていただいて大丈夫です。どうかストリングさんによろしくお伝えください!」
ふと、カスイさんにお礼と感想を伝えてから、直接ストリングさんにお礼が伝えられないかと思いました。
ネットで調べるとSNSをあまりやられていないようでした。
私はライトノベルの作家になるにあたり、Xを使うようになりました。
イラストレーターさんは、pixivに多くいらっしゃるので、そちらでしょうか?
そう思って調べると、イラストを四つほど掲載していました。
その一つ一つが違う背景や女性を表現されていて、その美しさに感動しました。
もしも、こんな背景が自分の作品に描かれるなら感動です。
「あっ、DM」
送れるなら送ってもいいのでしょうか? それとも作家から連絡が来るのは嫌でしょうか?
「カスイさんに一度確認をとってみましょうか?」
私はカスイさん宛に、イラストレーターさんへメッセージを送っても良いのか? もしもよかったら一度会ってお礼伝えたいことを踏まえてメッセージしました。
「えっ! 会われたいのですか? うーん、一度イラストレーターさんに聞いてみます」
私は心躍る思いで、返事を待ちました。
「イラストレーターさんが大丈夫ということで、会えるそうです」
「ありがとうございます!」
私は自分でもびっくりするぐらい気持ちが高揚するのを感じました。
ですから、一番お気に入りの衣装を身に纏って、約束の場所へと赴きました。
「お疲れ様です。狐狸相先生」
「カスイさん。今日はセッティングしていただきありがとうございます」
「いえいえ、先生のモチベーションを上げられるお手伝いができてよかったです」
しばらくカスイさんと待っていると一人の男性が近づいてきました。
私に会うために、綺麗な格好をしてきてくれたのがわかる姿です。
フォーマルな格好で、ジャケットにパンツ姿が真新しいことが伝わってきます。
少し頼りなさそうな見た目をされていますが、優しそうな方でした。
歳は私よりも上ですね。
ただ、なんでしょうか? そのしぐさ一つ一つが可愛いと思えました。
「改めまして、こちらがライトノベル作家の狐狸相先生です」
「初めまして狐狸相です。この度はとても素敵なイラストを描いていただきありがとうございます!」
私は深々とお辞儀をすると、ストリングさんは照れくさそうに笑っておられます。
「いえいえ、こういう仕事を受けるのは初めてで緊張しておりますが、いい物が描けるように頑張ります。ストリングです」
先ほどまでは頼りなさそうな人だったのに、描くと言ってくれた時の瞳が真剣で胸の中が暖かくなるのを感じました。
「えっと、狐狸相先生は、いつもその衣装で仕事をされているんですか? とてもお似合いなので可愛いですね」
多分、話の流れで言ってくれたことはわかる。
だけど、今日のために気合を入れてきたことが伝わったようで、恥ずかしいような嬉しいような変な気持ちになった。
「狐狸相先生は所謂、ロリータ系ファッション。通称ゴスロリで、地雷系メイクをして仕事をされると集中できるそうなのです。実際に似合っておられていいですよね?」
私が恥ずかしがっていると、カスイさんが説明してくれました。
「そうなんですね。そういう衣装って着こなすのが難しそうですから、狐狸相先生は似合っていて素敵ですね」
キュン!!!
年上で、オジサンに手がかかりそうな殿方に抱くなど不思議な気持ちです。
私は胸の奥が熱くなり、受け入れてくれたような気がして嬉しくなってしまいました。
顔が熱いです。
「それではこのまま進めさせていただきます」
何を話したのか、全然覚えていない。
ただ、とてもいい人で。
今後も私の作品を担当してくれるので、楽しみでしかない。
最高のイラストレーターさんだった。
帰っていく際もこちらに何度もお辞儀をして去って行かれた。
「どっ、どうでした狐狸相先生? お嫌〜とかではないですか?」
「はい! むしろ、お会いしてますます描いてもらうのが楽しみになりました」
「ほっ! よかったです! それではこのまま進めていきますね」
「よろしくお願いします」
私は深々とカスイさんにお礼を伝えて、自分も家へと向かう。
その途中でふと立ち止まる。
「あ〜私はあの人が好きなんだ。ふふ、きっとあの人も私が好きよね? だって私のことを褒めてくれたんだもの! ふふ、近いうちに愛を誓い合わなくちゃ。あ〜楽しみだなぁ〜」
私は頭の中で妄想を捗らせて、先ほど会ったばかりの男性と結婚式を挙げる妄想を作り上げていた。
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