第48話 side噂話

《side見知らぬ誰か?》


 とある有名大学で、囁かれる噂。


 今年のミスコンクイーン候補として上がっていた女性に、彼氏ができたのではないかという内容だった。


 しかし、ミスコンクイーンに選ばれるはずだった彼女。大学でも有名な才女であり、成績もトップクラスで、性格は明るくて穏やか。


 その姿は男を魅了して、10人の男たちが10人とも、彼女が通り過ぎれば見入ってしまうほどの魅力を爆発させているた。


 だが、彼女には致命的な欠点があった。


 昔から男性から受ける視線のせいで、男性のことを恐怖して、苦手に思っているそうなのだ。


 大学に入学してからも、その雰囲気と容姿に叶わぬ恋を夢見て涙を流してた男は数知れず。


 あまりにも男子を寄せ付けないことで有名だった。


 近寄れる男性といえば、すでにご年配で男性を引退しているのではないかと言われる教授ぐらいだ。

 

 若い男性には見向きもしていなかったと言われている。


「なぁ、あの噂知っているか?」

「噂?」

「ああ。鉄壁のスミレ嬢のことだよ」

「あ〜、男ができたんじゃないかって奴か?」

「ああ、なんでも1ヶ月ぐらい前に、一人の男子が猛烈にアタックしたらしいだよ。文字通り警察沙汰になるくらい」

「マジかよ! そいつも思い切ったな」


 密かに噂は流れていた。

 警察に捕まった学生がいるのだと、強姦をしたんじゃないかという噂だ。


「マジかよ! それで、まさかその男が彼氏に?」

「さすがに、そんなことはないけどさ。なんでもその時に助けに入った男がいたそうなんだよ」

「へぇ〜ならそいつと付き合ったのか?」

「まぁ、噂だけどな」

「もしも、それなら運がいい奴がいるもんだな」


 二人の男子生徒がしていた話は、食堂、教室など、大学校内の多くで誰彼構わず噂として流れていく。


 そんな彼女が久しぶりに大学にやってくると聞いて、注目が今まで以上に集まっていた。

 彼女は男性に対して距離を取るタイプだと思っているものたちは視線を意識していた。


 だが……。


「スミレ。おはよう、珍しいね」

「アンちゃん。おはよう。うん。もう二年生の間は単位を取っちゃったから」

「凄いよね。まだ十月なのに」

「今回は課題をクリアすればいいだけだったから」

「そ・れ・で〜」

「うん? どうかしたの?」

「もう〜あんたが学校に来てない間に色々と噂がね」

「噂?」


 彼女が首を傾げ、彼女の友人の問いかけに、誰もが親指を立てて同じ言葉を思い浮かべる《グッジョブ》と……。


「そうそうスミレに彼氏ができたっていうんだよ。スミレって昔から男嫌いでしょ?」


 男嫌いという言葉を聞いた男子生徒たちの胸には太い剣が突き刺さるほどの痛みが走る。


「うーん、嫌いではないけど。少し苦手かな」


 剣を突き刺した男子生徒たちの胸に刺さった剣が抉られる。


「やっぱりね。噂は結局、噂か〜」


 沈む男子生徒たちが暗い雰囲気を生み出している中で、男子生徒たちは一気に体を沸騰させるほどの思いをすることになる。


「えっ? 何その顔! めっちゃ顔真っ赤だけど」

「えっとね。アンちゃんだけだよ」


 彼女の表情を見た男は悩殺され、男子だけでなく女子まで恥ずかしくなるほど美しい顔をしていた。

 そして、友人にだけ聞こえるようにそっと耳打ちした仕草に、男女関係なく胸を撃ち抜かれる。


《可愛い!!!》


 人を惹きつける魅了ある彼女が見せた、恥ずかしそうにしている姿に悩殺される。


「えっ! それ、マジ?」

「うん。誰にも言ったらダメだからね」


 彼女は恥ずかしそうに友人に伝えたが、それを聞いた友人は驚きすぎて口を開けて周りを見渡す。


 彼女が知り得た情報は、この場に集まる者たち全員が欲しい情報であることを瞬時に察知した。


 彼女は思ったことだろう。


《あれ? 今日って私、ヤられる? この情報、知っちゃダメなやつじゃん》


「それで〜、うん? アンちゃん聞いてる?」

「えっ? あ〜うん。聞いてるよ。うん聞いてる。だけど、スミレさ。今日は何か用事があってきたんでしょ? それをしなくてもいいの?」

「うん。来年度の履修課題を今年に前倒しできないか聞きに来たの。教授がいいって言ってくれたから。一年はやく卒業できるかもね」

「それは凄いね。おめでとう!」

「うん。それに来年には司法試験も受けようと思うの」

「えっ! 早くない?」

「早くないよ。司法試験は在学中でも通ることができるんだから、やらないとむしろ損だよ。今なら時間もあるんだから」


 話題が最重要ポイントではなくなったことで空気は弛緩するが、彼女の会話が終わり席を立つ。


「そろそろ帰らないと」

「えっ! あ〜そうだね。うん。気をつけてね」

「うん。アンちゃんもたまには遊びに行こうね」

「うんうん。その時はよろしく〜」


 席を離れていく彼女とは別に、友人である女性は逃げようと荷物をまとめながらも、自分には逃げ場など存在しないのだと思い知らされる。


 半径二十メートルの間にいた人間が彼女を囲んで包囲網を作り出した。


 それは噂の真相を知れるという甘美な答え合わせのためならば、彼らは普段顔を見たことのない相手でも結託できるのだ。


「ヒッ!」


 彼女は友人の秘密を守り通した。

 帰宅したのは次の日だったとしても……。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る