第47話 姉妹の話

《side瀬羽菫》


 お母さんに相談して帰ってくると、ユミに抱きしめられるヨウイチさんがいた。


 その姿に、私はホッと胸の中が熱くなってしまう。

 私もユミと一緒に抱きしめたい。

 後ろから抱きしめて、ヨウイチさんを姉妹で挟んで抱きしめたい。


「ヨウニイ、寝ちゃったね」


 最近、イラストを描くために寝ていても眠りが浅くなっていたヨウイチさん。

 パソコン画面を見れば、メールの送信画面になっていた。

 PDFも送付されているので、仕事が一段落したのかもしれない。


「多分、安心したんでしょうね」

「安心?」

「うん。ずっと仕事のことで悩んでいたみたいなの。仕事が終わって、私たちに抱き締められてホッとしたんだと思う」

「そっか、ヨウニイの役に立てたならいいかな」


 ユミは抱きしめていたヨウイチさんの頭をベッドへ寝かせてあげる。


 私も腰から腕を離して、足を持ち上げて寝かせていく。布団をかけてゆっくり寝てもらう。


「ユミはご飯食べたの?」

「ううん。ヨウニイにおにぎりを食べさせてあげてたんだ」

「ふふ、羨ましいわね」

「でしょ。ヨウニイの食べる姿って、なんだか可愛くて好きだな」


 私はユミとリビングに出て夕食を作ってあげる。

 簡単なパスタを作ってあげたら、ユミは美味しく食べてくれた。


「姉さんはヨウニイにもだけど、私の世話をするのも好きだよね」

「そうね。誰かの世話をしてあげるのは好きよ。もちろん、好きな人じゃないと意味はないけどね」


 私はヨウイチさんが好き。

 ユミのこともお母さんのことも好き。


 これまでの人生では男性は苦手だった。

 ずっと同級生の男たちから向けられる視線や、幼稚な行動も、全てが嫌悪感の対象だった。


 だから、今までは家族だけにしてきたことをヨウイチさんにしたい。

 

 男性をここまで甘やかしたいと思ったのは、本当に初めてのことで幸せを感じている。

 大学を卒業して弁護士になったら、もっといっぱい甘やかしてあげたい。

 

 私が養ってもいいと思ってる。


 ただ、母さんが言うように、今だけ好きなのか? これからもずっと好きでいられるのか、自分自身初めての気持ちだからわからない。


 だけど、今は幸せだと思えてしまう。


「ふふ、またヨウニイのこと考えてたでしょ?」

「わかる?」

「わかるよ。姉妹だもん。姉さんがヨウニイを考えている時の顔って母さんが父さんを見ているときそっくりだよ」

「ふふ、そうかもね」


 ユミはまだ幼くて子供だって思っていたけど、ヨウイチさんに触れ合うようになって一気に成長しているように感じる。


「それで? 姉さんは母さんと、どんな話をしてきたの?」

「それはね……。うーん、ヨウイチさんとの未来についてよ」

「未来? 結婚とか?」

「そうね。それも視野に入れた話だったわ。ただ、今の私は恋に恋しているって言われたわ」

「恋に恋してる? どういう意味?」


 私はお母さんの言葉を思い出して、ユミを見る。


「人はいつまでも熱を帯びたまま恋をしてはいられない。好きなことが半年続いて、一年続いて、それが五年も続くなら、それは恋を超えた愛情になるんですって」

「なるほどね。今だけ好きじゃダメなんだ。ずっと好きが続くことで証明するんだね」


 やっぱりユミもわかってくれるのね。


「私はヨウイチさんがいてくれて幸せ。それがずっといてくれたきっと幸せだと感じている。だけど、永遠に熱を帯びた恋のままではなく、愛に変わって初めて私はヨウイチさんを好きだと言えるの」

「ふふ、なんだかいいね。それ」


 ユミはやっぱり私の妹で、母さんの子供だと思う。


 言葉を重ねるたびに気持ちが通じ合えているような気がするから。


「今日は泊まって行ってもいいです?」

「ええ、いいわよ。久しぶりに一緒にお風呂に入る?」

「ふふ、いいよ。姉さんのナイスバディーを堪能させてもらおうかな。ヨウニイを悩殺する方法を教えてもらわないと」

「コラ、甘やかすのはいいけど、取っていくのはダメよ」

「は〜い。私もいい人ができるまでだよ。それまではヨウニイにたくさん甘えさせてもらうからね」

「ええ。それはいいわよ。二人でいっぱいヨウイチさんを溶かして、溺れさせてみせるわ」


 裸で向き合うユミは私と違って可愛くて、女の子らしい。


「誰もいなかったら、私もヨウニイのお嫁さんに貰ってもらおうかな?」

「ふふ、そうね。それもありかも」

 

 本当にそれはありに思えてしまう。

 私はヨウイチさんをお世話して、愛情をいっぱい注いであげた。

 だけど、一人では手が足りないこともある。

 もしかしたら、赤ちゃんができたときにヨウイチさんを甘えさせてあげられないかもしれない。


「本当にいいの? 嫉妬しない?」

「嫉妬はするわよ。だってヨウイチさんが誰かと心を通じ合わせるだけで不安になるんだもん」

「姉さん可愛い!」


 湯船の中でユミにギュッと抱きしめられる。

 私の胸に顔を埋めるユミは可愛くて優しく頭を撫でてあげる。


「ムフ〜、ヨウニイも姉さんの胸を枕に眠りたいだろうね」

「そうかしら? 今度やってみようかな」

「喜ぶと思うよ。私ももっと胸が大きかったらよかったのに。お尻なら自信あるんだけどな。ヨウニイも膝の上に乗って抱きしめてあげると喜んでたし」

「あら、私もしたことがない抱きしめかたね。それも今度やってみるわ」

「ふふふ、姉さんはお世話をしてあげるのは得意だけど、甘えるのは私の方が得意だね」


 私たちはお風呂の中でヨウイチさんが喜びそうなことの情報交換を行った。


 ユミの甘え上手は私にはないので、勉強になるわね。


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