第46話 妹は可愛い生き物?

 ギュッと抱きしめてあげると、ユミさんはスッポリと腕の中に収まってしまう。

 小柄な妹だと自分の心で念じながら、抱きしめなければ邪なことを考えてしまいそうだ。


「ねぇ、ヨウニイ」

「うん?」

「ヨウニイは、姉さんが好きだよね?」

「えっ、うん。まぁそうだね」


 俺の邪な考えを見透かしたような質問に思えた。


「なら、ヨウニイは感情が乏しくなんてないよ。ちゃんと姉さんを好きなこと、伝わってくるもん」

「そうかな? ありがとう」


 ギュッと腰に回された腕に力が込められる。


 彼女の細い腕は俺を抱きしめて、温もりが伝わってくる。

 誰かに抱きしめられることは、とても幸せなことだ。

 温もりを感じて、抱きしめ返してもらえて、その行為が俺にとってかけがえのないことに思える。


「ねぇ、ヨウニイ」

「どうしたの?」

「私ね。ヨウニイの匂いも、ヨウニイの胸のドキドキも全部好きだよ」


 素直でストレートに告げられる言葉に、ドキッとさせられる。スミレさんも素直だけど、どこかでお世話をしてくれるという俺への配慮が窺える。


 それに対して、ユミさんは素直に甘えてくる。

 守ってあげたくなるような声で、甘くとろけるような囁きで、脳を溶かしにかかってくる。


「ありがとう。そんなことあまり言われたことないよ」

「そうかな? 姉さんも絶対ヨウニイの匂いが大好きだと思う」

「そうなのかな? 自分じゃ匂いなんてわからないよ」


 自分の匂いなんて気にしたことがない。

 むしろ、加齢臭が出ていないか気になる年頃だ。

 まだ大丈夫だと自分に言い聞かせてはいるが、不安であることは間違いない。


「よいっしょ」

「えっ!」


 俺はユミさんに押されて、一人で寝るために用意してあるシングルベッドへと腰を下ろした。

 ユミさんは俺の膝の上に乗ったまま抱きついていた。


「座れば目線が同じになるね。私がお膝の上に乗っているから、上かな?」


 そう言って膝立ちになったユミさんが俺の顔を抱きしめて胸に押し当てる。


「えっ! 何を?」

「ヨウニイの頭を抱きしめてるの。あのね、確かに胸の匂いも好きだけど、ヨウニイの頭の匂いが好き。前に膝枕してあげたときに頭を抱きしめてあげたら、凄くいい匂いがしたの。頭ってね。結構匂いがするんだよ」


 えっ! 自分の頭の匂いなんてわからない。

 一度、スミレさんの頭を撫でた後に、自分の手からいい匂いがしたことはあるけど。


 おっさんの頭なんて嗅いでも、いい匂いのはずがない。


「凄く落ち着くの。男の人の匂いなんだって思うよ」


 小ぶりながらも柔らかさを感じる胸の感触が頬に当たり、彼女の細い腰が丁度腕を回せる高さにある。


「ヨウニイ。ギュッとして」

「ああ」


 白昼夢に犯されるように、意識が朦朧とする。

 ユミさんの甘くていい香りが、俺の鼻腔を満たして頭が彼女のことしか考えられなくなる。


「あら、ユミ。お楽しみだったかしら?」

「姉さん。お帰りなさい。早かったんだね」

「ええ。お母さんに色々聞いてもらっちゃった」


 ユミさんの腰に腕を回そうとしたところで、扉が開いてスミレさんが入ってくる。

 浮気現場を見られたような冷や汗が流れる。

 俺はどうしていいのかわらないまま、腕を宙に浮かせて固まってしまう。


「ヨウイチさん。ユミにお世話を任せてしまってごめんなさい。ちゃんとご飯も食べてくれたんですね。嬉しいです」


 シングルのベッドへと上がってきたスミレさんが、俺の後ろに回って腰へと腕を回した。


 背中に豊満な胸の感触が感じられる。

 

 顔には小ぶりながらも甘くて美味しいそうな果実。

 背中には、大きくて柔らかな肉圧。


 ここは天国で……。 


 俺はもしかしたらもう死んでいるのだろうか? 美人姉妹に抱きしめサンドされているのは現実なのか?


「姉さん。今は私の順番じゃないの?」

「ごめんなさい。母さんに悩みを聞いてもらったら、どうしてもヨウイチさんを抱きしめたくなってしまったの」

「もう仕方ないなぁ〜。なら、一緒に抱きしめてあげよ。ヨウニイは感情が乏しいことを気にしているんだって」

「あら、そうなの? そんな話を私は聞いたことがありません。ヨウイチさん。ユミにだけそんな話をするなんてズルイわ」


 ゾクっとするような声が耳元から聞こえてくる。

 妖艶な香りが、耳から入ってくるようだ。


 二人から強く強く抱きしめられて、何が何やらわからなくなりそうになる。


「いいんですよ。たくさん甘えてください」

「そうだよ、ヨウニイ。ヨウニイは今。二人から甘える権利を手に入れたんだよ」


 前門に小柄可愛い系女子高生。

 後門にグラマラス美人系女子大生。


 これを現実と捉えるには、俺は歳をとり過ぎてしまっている。


 そう、意識とは簡単に手放せるものだ。


 ただ、一言だけ言いたい。


 我が生涯に一遍の悔いなし!


 こんなの幸せすぎるだろうが! 

 これで幸せを感じない奴は男じゃねぇ!


 俺は彼女たちに何を返せるかな? 少しでも彼女たちが満足できるような自分でいたい。


 ただ、今は意識と共に幸福な夢を見よう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る