第41話 依頼とお世話
異世界悪役令嬢は、中世ヨーロッパを舞台に貴族社会の衣装や街並み、キャラクターの作り込みが勝負になる。
「作家先生の要望が強いのかと思ったけど、時代背景や細かい服のセンスなんかを調べてくれているんだな。なるべく先生の要望に応えるようにしたいな」
データを何度も読み込んでまずは、主人公からデザインを作っていく。
♢
《side瀬羽優実》
パソコンに向かうヨウニイは、真剣な顔をして私が部屋に入ったのに気づいていない。
「いつもなのよ」
「……え? そうなの?」
姉さんは俵おにぎりを持ってきていた。
朝ご飯に誘いにきたはずなのに、ヨウニイの口元におにぎりを差し出す。
「えっ?」
ヨウニイは姉さんが差し出したおにぎりを無言で口を開いて食べている。
「ふふ、可愛いでしょ」
ヨウニイのとなりで姉さんが自慢しているような顔をしている。
「ユミ、今日は譲ってあげるわ」
そう言って姉さんが俵おにぎりを乗せたお皿を渡してくれる。
「……ふふ、楽しんで」
姉さんが部屋から出ていってヨウニイと二人きりになる。
パソコンに向かって、読んでは描いて、私が差し出すとおにぎりを食べている。
「……ヨウニイ?」
「……………」
呼びかけても反応はない。
ヨウニイはそれでも食べてくれる。
隣に座って、ヨウニイを見つめる横顔は絶好のポジションだった。
「……あはっ♪」
良い事思いついちゃった。
私はヨウニイの隣で顔を見つめて、ついつい自分の顔を近づけていく。
気を抜いたらキスしてしまいそうなほど近いて、何なら匂いくらいなら嗅ぎまくってもおかしくない。
「……ヨウニイが気づかないなら」
小さく深呼吸をして私は心を落ち着けようとする。
姉さんもいない、ヨウニイと二人きり、こんなに早くヨウニイの傍に居られることになるとは思わなくて、幸福感に包まれていく。
「……ヨウニイってやっぱり、すてきだなぁ〜!」
ついつい蕩けた声が出てしまう。
ヨウニイに助けてもらって、抱きしめられてから、ずっとヨウニイのことが頭から離れない。
「……あ」
ヨウニイの頬に米粒がついてる。
ふふ、可愛い……。
私は舌を伸ばして取ってあげる。
「……ふふ」
ヨウニイの頬に舌が触れた。
手を握るのとは違う背徳感、なんだかお世話をするのが楽しい姉さんの気持ちがわかる。
注意深くヨウニイが私に気づかないように確かめながら私は自分の体を見た。
姉さんや母さんとは違ってボリュームがあまりない。
世の中の男性が好きな体は、姉さんたちのような美しい肉体だと思う。
私はまだまだ発展途上で、それでもヨウニイに触れられたらと思うと潤んだ瞳で見つめてしまう。
集中するヨウニイの横顔を見つめながら、小ぶりな胸元に自分の手を押し当てた。
「……っ~~!!」
ヨウニイに触れられているような錯覚を覚えて体が震える。
ヨウニイの横で私は何をしているんだろう。
一気に体が熱くなって恥ずかしくなる。
♢
《side紐田陽一》
ふと、考えがまとまってメインのキャラが書き上がったところで集中力が途切れる。
「……あっ!」
真横から声が聞こえてみると、ユミさんが座っていた。
「ユミさん?」
状況が理解できなくて上手く頭が働かない。
どうしてここに居るのだろう?
「……??」
何やら隣から視線を感じたので俺は何も考えず視線を向けた。
「ヨウニイ、朝ご飯食べ終わったら、ごちそうさまだよ♪」
「ごちそう……さま……?」
美しい笑顔を浮かべるユミさん。
俺と彼女の距離はかなり近く、どうして彼女がここに居るんだと疑問が浮かぶ。
だけど、手元にもったお皿を見て、スミレさんの代わりにお世話おさせてしまったのかな?
「えっと! ありがとうございます?」
「ふふ、なんで疑問分なの? ヨウニイ面白い」
楽しそうに笑うユミさんに戸惑いながら、どうしたものかと考える。
「凄く綺麗な人だね」
「ああ、主人公の悪役令嬢なんだ。だけど、元々王子の婚約者として一通りの教育を受けていて、相手のお世話ができるほど綺麗なキャラだから、気合いを入れて描いてみたいんだよ」
「なるほど。まるで姉さんみたいだね」
ユミさんに言われて、確かにそうかもしれないと思えた。
「そうかも」
「真剣だったね。凄く新鮮♪」
俺の近くにいても嫌がられるわけでもなく、嬉しそうに笑顔を浮かべてくれる。俺としては嬉しいけど戸惑う。
「スミレさんは?」
「姉さんは家事をしていると思うわ。私にヨウニイのお世話を任せて」
「そう」
いつもはスミレさんがいてくれるので少し違和感を覚えてしまう。
「むぅ、もしかしてスミレ姉さんじゃないから、嫌なの?」
「いやいやいや、お世話してもらうだけでも申し訳ないだけだよ!」
「申し訳ない?」
「うん。こんなおじさんのお世話なんか嫌だろうし」
俺の言葉にユミさんが大きく顔を横に振る。
「嫌なんてないよ! ふふ、ヨウニイはかっこいいよ」
「えっ! かっこいい? それはないと思うけど」
俺は時間を確認したら、いつの間にか三時間ほど経ってしまっていた。
「キャっ!」
「えっ?」
小さく悲鳴を上げるユミさん。
「ユミさん? 大丈夫?」
「う、うん……」
なんだか腰がプルプルしてる? どうしたのだろう?
「一度、立ち上がるけど一緒にいく?」
「ふぁ……っ……」
肩に触れるとユミさんの体は熱い。
心配する俺に気づいたのかユミさんが立ち上がる。
「……大丈夫?」
「うん! 大丈夫だよ!」
「ならいいけど。あ、あはは……」
本当かなぁ? ちょっと心配だけど、これ以上問いかけても意味はないかな?
なんだか距離が凄く近く感じるんだけど。
それにユミさんが立ち上がった椅子にシミ? そんなのあったかな?
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