第39話 依頼帰りに人助け。

 DMを頂いた編集の方と、一度顔合わせをしたいと言われて、近くのカフェへと出向いた。


「いや〜私編集の花穂カスイと申します」

 

 元気溌剌な女性編集さんで、小柄ながらも活発に動く雰囲気のある人だった。


「どうも紐田陽一です。今回はDMいただきありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ仕事の依頼を受けて頂きありがとうございます」

「どういった内容なんでしょうか?」

「はい。こちらの話なんですけどね」


 異世界ラノベが流行っているのは、知っていたが。

 俺としては女性の主人公が描いてみたい。

 

 内容は異世界恋愛のジャンルで、女性が主人公である悪役令嬢物の内容だった。


 内容をパソコンのデータとして送ってもらう。


「これは!」

「今は流行っておりまして、女性を描かれているのを見てお願いしたいと思いました!」

「ありがとうございます。要望に応えられるのか分かりませんが、やらせていただきたいと思います」

「いいんですか?! ありがとうございます! なかなか決まらなくて困っていたんですよ!」

「そうだったんですか?」

「はい。作家さんの要望が、ちょっと厄介で」

「えっ?」


 物語のデータとは別に、送られてきたキャラデザインのデータを開くと、冒頭に色々と要望が書かれていた。


「ああ〜、色々と要望があるんですね」

「はは」


 乾いた苦笑いするカスイさんが、困った顔をしている。


「どれだけ期待に応えられるか分かりませんが、やってみます」

「どうか! お願いします!」


 カスイさんはいい人だった。

 だけど、作家さんのこだわりも強そうなので、どれだけできるのか楽しみではある。


 俺は夕方の渋谷を通り過ぎようとして、路地に入る。


「あの、本当にやめてください」

「いいじゃんかよ。こんなところにいるってことは遊びにきてんだろ?」


 明らかに嫌がっている女の子に男が絡んでいた。

 逃げたいと思っても腕を掴まれて、逃げることも出来ない様子だ。

 通行人も関わりたくないんだろうな。

 誰もが見て見ぬふりをしている。


 女の子の顔は見えないが、スミレさんが襲われていたときのことを思い出して、俺は一歩を踏み出した。


「お願いですから離してください!!」


 女の子が大きな声を出して腕を振り解いた。


 チッと舌打ちをした男の顔に怒りが見える。

 もしかしたら暴力に訴えかける恐れすらある。

 女の子が恐怖で身を強張らせた。


「このクソアマ……っ!?」

「いやっ!?」

「やめっ!」


 男が振り下ろした拳が俺の頬を殴った。

 女の子を庇うように身を差し出したせいで、殴られてしまった。


 だが、これでいい。


「おい! 良くも殴ってくれたな! 正当防衛成立だぞ!」

「な、なんだよてめえ」

「なんだ? まだやるのか? 警察を呼んだ。お前はすでに俺を殴っているから傷害事件として捕まるぞ」

「チッ! クソが!」


 まだ人通りがある時間だったこともあり、男はすんなりと引き下がってくれた。


 でも、イッテェ〜!!!


 左腕を刺された方が痛いが、殴られるのも痛いよ!


「大丈夫? もういなくなったから」


 俺はカッコ悪い助け方になってしまったが、助けられてよかった。

 

「ヨウニイ?」

「えっ?」


 ヨウニイと言われて心当たりがある人物は一人だけだ。


 路地で薄暗い中で顔が見えなかったが、明るいところに出てユミさんの顔がハッキリする。


「ユミちゃん?」

「やっぱりヨウニイだ!!! あ、あの……ありがとう! ヨウニイが来てくれてよかった!」


 ユミさんは俺だとわかると抱きついてきた。


「えっえっえっ? やっぱり怖かったよね」


 不安な女の子を引き離すこともできなくて、優しく背中をポンポンとしてあげる。

 スミレさんやハズキさんとは違ってボリュームはないが、腕の中にスッポリと納まる小柄なユミさんは可愛い。


「ありがとう! 本当に怖かったの!」

「うん……、よく頑張ったね。大丈夫だよ」


 いくら路地でも、助けた女の子といつまでも抱きしめあっているのは、外聞が悪い気がして、ポンポンと背中を叩いて、離れるように促す。


「よかったら家まで送るよ」

「いいの?」

「うん。もしも家が一人で不安なら家にくる? スミレさんもいるから安心できると思うよ」

「ヨウニイの家がいい!」

「うん。なら」


 ユミさんが不安そうだったので、家に連れて帰ることにした。

 またハズキさんに車で迎えきてもらった方がいいかな。


 ユミさんが不安だというので、手を繋いで帰ることにした。


「……ねぇ、ヨウニイ?」

「うん? どうかした?」

「姉さんを助けた時も……、ううん。なんでもない」

「そう?」


 ユミさんは何かを言いかけたけど、何も言わないまま言葉を詰まらせて、胸を押さえていた。


 その後は夕日に照らされている道を家へと帰って、スミレさんに出迎えられる。


 事情は、ユミさんからスミレさんに話してくれた。

 スミレさんはユミさんを抱きしめていた。

 姉妹で抱き合う姿は尊い姿でした。


「ヨウイチさん、ユミを助けてくれてありがとうございます!」

「ヨウニイ! 私からもありがとう! ヨウニイが来てくれて助かったよ!」

「あっああ。無事でよかったよ」


 二人はソファーに座る俺の左右に座ってお礼を言ってくれるが、姉妹に挟まれて俺は緊張してしまう。二人とも物凄く近いので顔が熱い。

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