第38話 甘々な日々

《side瀬羽菫》


 私を求めヨウイチさんの腕が背中に回される。

 その腕に私は幸せを感じてしまう。

 ヨウイチさんを受け入れたい。

 愛を受け取りたい。

 我慢したくない。


 お世話をして温もりが欲しいと求められたことが、とにかく嬉しい。


「ハァ……ヨウイチさん」


 求めてくれて、抱きしめてくれたヨウイチさんは可愛らしい。


 ただ、その背中に回された腕の力強さは、正に男の人だった。


「……んん」


 何度ヨウイチさんに抱きしめて欲しいと想像したことか。

 二人きりになると、私はヨウイチさんに対して女の顔になってしまう。


「スミレさん……」

「私は本当に……」


 ご奉仕したい!


 ヨウイチさんを思いっきり受け止めたい。

 彼を甘やかしたい! 

 ありとあらゆる欲求が脳裏を掠めては消えていく。


 私の気持ちをヨウイチさんは知ってくれた。


 私自身もこれから先、この自分が抱える気持ちをもっと高めていきたい。


 私は全てを持ってヨウイチさんを愛することを決めたのだから。



《side紐田陽一》


 俺はベッドに来ていた。


「ほらヨウイチさん。きてください」

「……うん」


 あれ、おかしいな。


 確かにスミレさんに流されるように体を拭かれて、背中を押された。


 何から何までお世話をしますという、雰囲気を纏うスミレさんにどんどん流されていく。


 寝かされた俺の上にスミレさんが……。


「ふふ、そんなに見つめられては恥ずかしいです。私は逃げませんから大丈夫ですよ」

「っ……」


 ついつい見惚れてしまっていた。

 大きすぎる胸が呼吸をするかのようにたぷんと揺れた。

 

 一糸纏わぬ。


 スミレさんのその破壊力は見惚れてしまう。


「その……!」


 俺の方が経験済みなはずなのに、圧倒されてしまう。


「私、初めてなので緊張しないでくださいね」


 いやいやいや、それって俺の方がいう言葉じゃ! うああああああ!! 恥ずかしい!!!


「あっ、あの……」


 スミレさんの体は年下なのに、大人の魅力に溢れていた。

 スタイルは言わずもがな、くびれもしっかりとあって無駄な肉は全く付いていない。

 むしろ、胸は大きいのに腰は引き締まって美しいぐらいだ。


「……ゴクっ!」


 俺が歳をとったからか、若々しい女性の肌は輝きを放っている。

 気を抜けば即座に意識を背徳の坩堝に沈められてしまいそうだ。


 本能でスミレさんを求めてしまう。


「いつでもいいですよ」

「なっ!」


 俺の心が読まれたような言葉に、意識が奪われていく。


「ヨウイチさん」


 体を動かさない俺を見て、スミレさんはただクスッと笑った。

 童貞のような態度をとってしまう自分が情けない。

 そんな俺にスミレさんが、しょうがないなと子供を見るような態度でそっと近づく。


「なら、私が」

「っ!?」


 二本の腕が伸びて、二つの大きな胸が俺を包み込む。


 ギュッとスミレさんが俺を抱き着いた。

 この世のものとは思えないほどの弾力が顔に当たっている。


 顔全体がスミレさんの胸に包まれる。

 鼻腔に充満する甘い香りが脳を痺れさせた。

 ヤバい! 幸せすぎる。


「ヨウイチさん、私はどんなあなたでも受け入れますよ。色んなことをしたい欲求は確かにありますが、私はとにかくあなたをお世話をしてあげたいのです」

「んんんはぁ!」

「ヨウイチさんの傍にいたいです、触れられる距離に居ますよ」


 少し顔を横に向ければ至近距離に美しいスミレさんの瞳が俺を見つめている。

 相変わらず安心させてくれるような笑みを浮かべるスミレさん。


「何度だって言いますよ。ヨウイチさんをもっとお世話したいです。これからずっと傍に居るのです……遠慮なんてしないでくださいね? 愛していますよヨウイチさん」

「あっ、ありがとう」


 スミレさんはどんどん感情表現が直接的になっていくんですね!



 目が覚めた俺はリビングでボーっとしていた。

 スミレさんはまだ寝ている。


 目が覚めたというよりも仮眠をして、一時間ほどで目が覚めてしまった。


「ハァ……。あぁ、これは現実なんだよな?」


 まだ夜の明ける気配はない。

 暗闇の中で、水を飲んで、目を閉じると何度も蘇ってくる。


 スミレさんの美しい肢体に体が熱くなる。


 どこまでもスミレさんという沼にハマっていくのだろう。

 

 抜け出したいとは思えない。

 引き摺り込まれることを自ら望んでしまう。

 もう彼女がいなければ、俺はどうしようもなくなってしまう気さえする。


 ふと、寝室の方へ目を向ければ、初めての行為に疲れて眠るスミレさんがいるだろう。


 行為の云々よりも結ばれたことが嬉しいと思う。


「ハァ、これは現実なのかな? こんなオッサンになってあんなにも美人な年下女性が俺を受け入れてくれるなんて……はは、現実なんだよな」


 自分の手に残る感触が、あまりにも幸せすぎて現実とは思えないところがある。


 こんなにも甘々な日々を送れるなんて幸せすぎだ。


「絶対に手放したくないな」


 だけど、執着しすぎてもキモいって思われそうだからな。自分は自分のできることを頑張るしかない。


 絶対に彼女を守ろう。


 さて、全然眠くないから仕事でもしようか? いや、スミレさんが起きた時に横にいないのはダメだな。


 寝れなくてもスミレさんの横にいよう。


 俺はそう思ってベッドへ戻った。

 ベッドでは美しいスミレさんが、眠っている顔がとても可愛くて見惚れてしまう。


 

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