第35話 side編集者 3
《side仲介》
意外な人物から電話がかかってきて驚いてしまう。
紐田陽一さんからの電話を受けて、私は急いで新宿御苑に向かいました。
もしかしたら私が到着した時には伊地知先生はいなくなっているかもしれない。
そんな淡い期待を持っていた。
たまたま手が空いていたから、私は5分ほどで到着することができて、言われていた中央広場に辿り着くと地面に座って泣いている伊地知先生を見つけてしまう。
「ハァー」
紐田さんも罪なことをしてくれる。
二十八歳初恋をした拗らせ女子を、放置して編集に任せるなんて、なんて罪作りなんだから。
「伊地知先生」
私が声をかけると、伊地知先生は肩を震わせて泣き顔で私を見た。
仕方なくハンカチを差し出して、お水を渡す。
「まずは落ち着きましょう。泣きたいなら側にいますので」
「どうして?」
「紐田君から連絡が来ました。詳しくは聞いていませんが、伊地知先生がいることを教えてくれました。いつもそうでしたね。伊地知先生が家出すると、紐田さんが一番に見つけてくれて」
「……」
これは決定的なことを言われたんだろうな。
ハァー、振られた女性を慰めるのは同じ女性でも難しいのよね。
「伊地知先生、辛いと思いますが、人生色々です。今は楽しいことをして気分を変えるしかないんです!」
「楽しいこと?」
「はい。美味しいものをいっぱい食べて、買い物をして、気分転換に旅行に行って」
ハンカチがグショグショになって、水を頭から被る伊地知先生。
奇行に走ったかと思ったけど、その顔は泣き顔から少しだけスッキリしていた。
「全部やろ!」
「えっ!」
「全部やりに行く! 美味しい物食べて、買い物いっぱいして、気分転換に海外旅行行く! 仲介さんついてきて!」
「えっ?! 私ですか?」
「うん! 私友達いないから、高校生の時から漫画描いてたから!」
「あ〜そうですね。わかりました! なんとかします!」
私は編集長に連絡を入れて事情を通す。
伊地知先生は、デビューからまとまった休みを取っていなかったので、この機会に一ヶ月間の長期休暇を取ってもらうことになりました。
「伊地知先生。何からしますか?」
「いっぱい泣いたからお腹空いた! 肉食べる!」
「ふふ、なら焼肉から行きましょう」
「行く! お金はいっぱいあるから、銀座の良い店連れてって!」
「最高です!」
私は早速銀座の時価ばかりの焼肉屋さんを予約して、ご馳走になりました。
今まで食べたことないほど美味しくて、こんなにも違うんだって実感しました。
「美味っ!」
「本当に美味しい! 先生本当に感動です!」
「うん。良い! 高いだけあるし! 美味しい!」
もう語彙力なんて知りません。
美味しいしか出てこない。
「ハァー食った!」
「ええ。ええ。もう最高ですね!」
「お腹いっぱいになった。次は服を買いに行く!」
「お供します!」
伊地知先生の気分が晴れるまでは、全部付き合うつもりで行く!
「全然流行りがわからない!」
「ですね! 流石に私も最近のはちょっと!」
年齢が近いからこそ、同じ悩みにぶつかる。
後輩ちゃんを呼んでも良いけど、ここは伊地知先生の精神を優先しましょうか!
「先生、私たちに買い物は向いていないので、私の趣味に走っても良いですか?」
「趣味?」
「はい! こっちです!」
私は都内にある老舗の銭湯を訪れました。
「銭湯?」
「はい! 温泉に今すぐ行くのは難しいですが、大きなお風呂に入るだけで幸せですよ!」
「うん! やる!」
今日の伊地知先生はやる気に満ちている。
私はいつも通りの銭湯に入るルーティーンを実践してもらって、体を洗ってサウナ。水風呂、整えて、もう一度サウナ、水風呂、体を洗ってお風呂!
「ハァー整った!!!」
私はもうこれだけでいつも整えて気持ちと体を整えている。
「はぁ〜」
「先生?」
「うっうんんん」
湯に浸かりながら、先生は涙を流す。
いくら女性が気持ちの切り替えが早くても一日じゃ十年分の想いは拭えない。
だけど、男性よりも女性の方が気持ちを切り替えることができるはずだ。
「よしよし! 先生も大人の女に仲間入りですね!」
「大人の女?」
「ええ、女は恋愛をして振られて始めて大人の女です! 振られない女は幸せしか知らないから、相手の気持ちがわからないかもしれません。私調べです!」
断定なんてできないからね。
「まぁ子供を産んだらお母さんになってそれも大人の女ですが、子供を産んでない私たちが大人の女性になるためには、心から好きな人に振られることなんですよ! そこから立ち上がって大人って辛いなぁ〜て知れたら大人です。大人は辛くて苦い物です」
私だって何度も恋愛をして振られてきましたからねぇ〜。
それに私だって紐田君のこといいなぁ〜と、思っていたのになぁ〜。
ちょっと私も泣けてきたや。
「うう〜」
「なんで仲介さんもなくの?」
「なんだか私ももらい泣きです!」
きっと私も振られたんだろうな。
告白もしてないけど。
だけど、伊地知先生と乗り越えよう!
「先生! 本物の温泉行きましょう!」
「うっうん。行く!」
「絶対ですよ!」
私はお風呂から上がってすぐに予約して、先生と旅行に行こう。
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あとがき
どうも作者のイコです。
ツギクルと言うサイトに登録をした記念に2話目投稿です。
いつも読んでいただきありがとうございます!!!
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