第31話 デートに誘う

 ハズキさんとユミさんの絵を仕上げるのに十日ほどかかった。

 その間もスミレさんが何かとお世話をしてくれたので、順調に絵を仕上げることができた。


「どうですか?」


 やっぱり完成した作品を一番にスミレさんに見てほしい。


 今回のハズキさんはスーツ姿に似合うようにオフィス街をバックにして、スマホを片手に仕事をしている風景を描いた。

 

「ふふふ、お母さんがかっこいいです」

「そう見えるならよかった」


 ハズキさんは綺麗なだけでなく、魅力的なかっこよさを持っているから、それを表現したかった。


「こっちはユミですね」


 ユミさんは、制服で元気に笑っている姿が浮かんだので、教室の風景を描いた。

 机の上に座って窓際で友達と笑い合っている光景。


「ユミ、とても元気に見えますね」


 細かなところは、スミレさんの時よりも大雑把な部分を残している。

 それでも陰影や表情にはこだわった。


「よかった。変じゃないですかね?」

「もちろんです!」


 そのまま人物を描くんじゃなく、キャラにしていることで変なところがあれば目立ってしまう。


 背景とのバランスが大事なんだ。


「どっちも同じ角度で光が当たっているように見えますね」

「あっ、気づいてくれましたか? そこはちょっとこだわっていて、スミレさんのメイドさん姿の時にも同じ角度で入れてて……あっ」

「ふふ、ヨウイチさんが生き生きと話されているのを聞くのは楽しいですよ」

「あっ、はは。すいません。話すぎました」


 マニアックで、細かな部分を語るのは悪い癖だ。

 相手が理解してなくても、ついつい楽しくて話してしまう。


「そういえば、最近はお仕事の依頼は見てないんですか?」

「ああ〜見てはいるんですけど。どうしても自分がしたいことを優先してしまって。今までは渡された物をやり切らないといけない仕事だったので」


 つい、自分のしたいことを優先してしまって、後めたさがある。

 仕事よりも趣味に走っていた。


「ふふ、そうですかそうですか」


 なぜか、スミレは嬉しそうな顔をして手を伸ばしてきた。

 俺の頭を優しく撫でてくれる。


「えっと、どうしました?」

「いえ、なんだか嬉しくて。ヨウイチさんが前よりも元気になっているなぁ〜と思って」


 スミレさんの優しさが、頭を撫でらながら、手から伝わってくる。


 最近は、スミレさんに甘やかせられる日々になれつつある自分がいる。

 年下であるスミレさんなんだけど、その包容力に甘えてしまう。


「これも全てスミレさんのおかげです」

「私のおかげ?」

「はい。好きに絵をかけて、美味しい食事を食べさせてもらって、生活ができているのはスミレさんのおかげなので」

「ふふふ、ならもっとお世話をさせてくださいね」

「今までも十分にして貰っているのに?! えっと、ちょっとだけお返しがしたいのですが」

「お返しですか?」


 俺にできることなんてあまり多くはない。


 左腕が使えるようになれば、マッサージなども一つの方法だったが、今は指に力が入らない。

 イラストレーターとして、パソコンに向き合っていると肩コリと腰痛がひどくなる。

 アシスタント同士でやり合ったりしたので、マッサージには自信がある。


 それに伊地知のとこでは結構いい椅子を使わせてもらっていたので、椅子は大分マシだが、今はちょっとだけ辛い。


「どこかにデートに行きませんか? 彼氏彼女になってから、ちゃんと出かけていないので」


 病院や買い物には出かけたけど、デートらしいデートをしていない。


「その費用を俺に出させてくれませんか?」

「それはとても魅力的な発案ですね! 私お弁当を作ります!」

「それなら、気持ちよくお弁当が食べられる場所がいいですね」

「ふふ、なんだか楽しみです」


 ずっと部屋に篭りきりだったので、お出かけするのは俺にとっても気分転換になるので、ちょうどいい気がする。


 スミレさんに出会って、そろそろ三週間が経とうとしている。

 

 その間に一緒に出かけたのは数えるほどで、ほとんどが病院で申し訳ない。


「それにスミレさんの好きなものとか教えてくれませんか?」

「私の好きなものですか?」

「はい? スミレさんって、お世話好きですよね? だから、猫カフェとかイヌカフェとか?」

「ふふふ、実は私は好きなものがあるのです」


 意外に、スミレさんの食いつきが良い話題だったようで、目をキラキラとさせている。


「じゃ、じゃあそこへ行きましょう」


 伊地知のところを飛び出した頃は、暑さの残る季節だったけど、イラストを描いている間に肌寒い季節になっていた。


「ヨウイチさん、秋用のパジャマを買ってきたので、これを着てください」


 そう言って薄手の上下長袖を渡してもらう。

 左腕の抜糸も終わって包帯も取れたので、もう少しで怪我も完全に治りそうだ。


「ふぅ、いつの間に買ってきてくれたのかわかりませんが、いつもありがとうございます」

「ふふ、ヨウイチさんは、いつもお礼を言ってくれますね」

「えっ? そうですか? 意識してなかったです」


 スミレさんに何かしてもらうたびに感謝しか思いつかないから、簡単に言いすぎて軽くなっていたのかもしれない。


「いつも言ってくれるので凄く嬉しいです」


 スミレさんは、パジャマに着替えた俺に抱きついておやすみのキスをしてくれる。


 もう、包帯が取れたからそろそろいいのでしょうか?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


どうも作者のイコです。


昨日はおねだりして、たくさんのいいねとレビューをありがとうざいました!!!

一気に増えて驚きと、感動で、本当に感謝しかありません。


楽しんでもらえるように頑張りますので、どうぞ今後もよろしくお願いします(๑>◡<๑)

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