第30話 交差

《side瀬羽菫》


 私の家族とヨウイチさんの出会いは、思っていた以上に家族の反応が良くて、私は満足しました。

 母もユミも私と同じで愛に飢えているヨウイチさんの心に気づいたはずです。


 ヨウイチさんはご自身では気づいていないかもしれませんが、どこかで自分自身を大切にすると言うことに欠落が見られます。

 

 冴えなくて頼りなさそうに見えますが、包丁を持ったストーカーに立ち向かえるなど、普通はできることではありません。


 それはどこかで自分を大切にしていないように見えて、私は歯痒いのです。


 ご両親から受けた愛はあるのかもしれません。

 ですが、そんなご両親を失い。

 一人で孤独に生きることにしかできなかった。

 その全てを才能に注ぎ込んだが故に、あれほど人を感動させられる絵が描けるようになったのかもしれません。


 では、ヨウイチが愛を知れば、もっと素晴らしい作品が作れるはずです。


「ねぇ、スミレ」

「何? お母さん」

「ヨウイチ君を大切にしなさいね。彼は凄いわ」


 モデルをしてもらった日のマンション出口で、お母さんとユミが私を見つめました。


「そうだね。すっごく不思議な人。別に凄いイケメンじゃないけど、放って置けないっていうか……。可愛いって思っちゃう。もしも、姉さんがいらないなら私がほしいぐらい」

「ダメよ。ヨウイチさんは私を救ってくれた恩人で、私が見つけた人だから」

「わかってるよ〜! あ〜あ、救ってもらったのが私なら、ヨウニイを私の大切な人にできたのに」

「いつかユミにもそんな人が現れるわよ」

「うん。そうだね」


 うちの家族は愛を与えることを、お母さんから教えてもらった。


 そして、自分の愛を注ぎたいと思える相手をみつけたときは全力で愛を与えたい……。


 ずっと同級生たちの男性から向けられる視線や行動が嫌だった。

 それは愛を求めていると言うよりも、飢えた獣が餌に群がっているようで、人とは思えなかった。


 それはストーカーにも言えることで、その目は私に愛を求めるものじゃなくて、私の体や別の物を見ていた。


 だけど、ヨウイチさんは私の体に興味を持ちながらも、心はどこかで諦め、自分では無理だと顔を背ける。

 

 多分、私がした行為の数々は普通の男性であれば理性を失ってしまってもおかしくない行為だと思う。

 だけど、自分に自信がなくて諦めて、自分のことなどと卑下するヨウイチさんは、体を求めながらも愛がなければ獣のように相手を求めない。


 私は二人を見送って、部屋へと戻る。


 ヨウイチさんは、モデルをしてくれた二人の絵を仕上げるために数日は、細かい作業を始めていく。


 私の大好きな真剣で、ヨウイチさんが輝く顔が待っている。これだけはお母さんにもユミにも見せてあげない。


 ふふ、二人はヨウイチさんが頑張って描いてくれたことに喜んでくれた。


 だけど、ヨウイチさんが素敵なことは、その才能ではない。描いている間の集中力と、集中した時にだけ見せるだらしない姿だ。


 それは私にだけ心を許してくれているから、見せてくれている姿。


 食べやすいように一口サイズの手巻き寿司を作って、口に差し出してあげる。

 集中しているのに、私の手からご飯を食べてくれる。


 あれだけお母さんやユミがいたときは、自分で食べられると拒否していたのに。今のヨウイチさんは私だけに見せる無防備さがどうしても愛らしい。


「私がいないと死んじゃいますよ」


 集中してしまうとご飯も食べない。

 飲み物も飲まない。

 トイレも行かない。

 お風呂にも入らない。


 本当に凄い集中力。


 何かが欠けてしまったヨウイチさんは、素晴らしい才能と集中力を発揮して、私にお世話をされる。


 無防備な姿で全てを受け入れる。


 そして、私は気づいてしまった。


 この時のヨウイチさんは、お世話をしたい放題なのではないか?


 食事ができたなら、あとは何ができるだろう?

 抱きついて、声をかけると意識を取り戻してしまう。


 では服を脱がすのはどうだろうか?


 そう思ってボタンを外して全てが外れたところで……。


「あっ、お風呂ですか? 俺の左腕が不自由なのですいません」


 どうやら服を脱がす行為は、お風呂に入ると誤解されたようだ。


「そうですよ。そろそろお風呂に入ってください」


 私はそのままの流れでお風呂に誘いに来たことにした。


 次は睡眠だ。


 放っておくと何時間でも集中してしまうので、ベッドへ誘導する。


 仕事場から話すと意識はあるのだが、集中していたことで、脳は呆然としている。

 強い刺激を与えなければ誘導に応じてくれる。


 ベッドに入ってキスをすると……。


「んんん!!! きっ!キス! あっ! ベッドに! もう寝る時間だったんですね。おっ、おやすみなさい」

「はい。おやすみなさい」


 恥ずかしそうに背中を向けて眠るヨウイチさんが可愛い。


 左腕が痛いからか、すぐに正面に眠り直すのだが、ヨウイチさんは寝つきがすごく良い。

 睡眠薬の影響もあるのかもしれないが、決まった時間にベッドへ誘導するとすぐに寝落ちする。


「ふふ、ここからは私の好きにしてもいいですよね?」


 だから、私はヨウイチさんに抱きついて、匂いを嗅いで、ヨウイチさんの成分を心ゆくまで堪能する日々を過ごせている。


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あとがき


どうも作者のイコです。


本日はおねだりあとがきです(๑>◡<๑)

レビュー⭐︎が、もう少しで1000に到達できそうなので、もしも、面白い、レビューを入れてもいいよって方で、まだ押していない方がいたらよかったらお願いします(๑>◡<๑)


今後も、楽しく読んでいただけるように頑張ります!!!



 

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