第26話 イタズラな妹

 意識を失ってしまった不甲斐ない俺が目を覚ますと、スミレさんではない顔が俺を見下ろしていた。


「あっ、お兄さん。目が覚めた?」


 そう言って顔を覗き込む美しい少女。

 まだ、あどけなさを残す顔はどこか、スミレさんに似ていて、姉妹であることが伺える。


「おはよう、お兄さん。ユミだよ。瀬羽優美です。気絶しちゃったからお世話をしてたんだ」


 情けない姿を見せてしまった。

 ただ、状況がまったくわからない。

 なぜ、ユミさんにお世話になっているんだろ?


「お母さんと姉さんは買い物に行っちゃったんだよ。だからね、私がお留守番をして。お兄さんのことを見ててあげてたの」


 俺の世話をするさいの、スミレさんは優しさと慈愛に満ちた表情をする。


 それとは違う朗らかにで陽だまりのような笑顔。 

 セミロングの髪を小さく束ねた髪は、可愛らしい尻尾に見えて。

 小柄な体は、スミレさんやお母さんとは違って、まだまだ発展途上な印象を受けると共に柔らかさと膨らみが女性らしさを強調している。


「あっ、ありがとう」

「ふふ、ねぇお兄さん」

「えっと、俺は紐田陽一だよ」

「ヨウニイだね。ヨウニイは、姉さんと付き合ってるの?」

「えっと、うん。告白をして受け入れてもらえたよ」

「そうなんだ〜。そうかそうか、それはいいね。私、お兄さんがいないから、お兄さんができて嬉しいよ」


 今更ながら、彼女が俺を覗き込んでいる姿勢の違和感に気づいてしまう。


 俺の頭があるのは、彼女の膝の上なのだ。


 何故か? そこに頭が乗っており、気絶した時にはソファーだったはずだが? どうしてこんな体性になっているのか、検討もつかない、


 だけど、ユミちゃんの太ももは柔らかくて、人生二度目の膝枕を体験してしまった。


「えっと、どうして膝枕?」

「え〜、だって頭が痛そうだったから! なんだか、そのまま寝かせておくのが、可哀想だなって思って」

「そう、ありがとう。もう大丈夫だから。起きるね」

「あっ! ダメだよ!」


 俺が起きあがろうとすると、上から覆い被さるようにギュッと小柄な体が頭を抱きしめる


「えっ?!」


 スミレさんとは違う甘い匂いに包まれる。


「姉ちゃんが、起きても寝かせておいてくれって言ってんたんだよ。だから、ヨウニイは私の膝枕で寝ていないとダメなんだよ。それにまだ頭が熱いよ」


 言われてみれば、確かに今も目が回っている。

 だけど、それは美少女女子高生に頭を抱きしめらているからで、男なら誰でも頭が熱くなると思う。


 もしかしたら、この子もスミレさんと同じで、お世話をすることが好きなのかな? だとしたら無理に起きるのは逆効果で意地になってしまうかもしれない。


「わっ、わかったよ。大人しく寝ているから頭を抱きしめるのはやめてくれると嬉しいな」

「あっ、そうだよね。息がしにくいもんね」


 そういう問題ではないんだけど、せっかくスミレさんと付き合えたのに、その妹であるユミさんに抱きしめられている姿をスミレさんに見られたくない。


「ふふ、お兄さんの髪の毛ってふわふわだね」


 抱きしめるのはやめてくれたのだが、頭を撫でられる。

 この間ツーブロックに切った頭もすぐに生えてきて、ジョリジョリとしてところが、少し伸びてフワフワ毛に変わりつつある。


「あっ、ありがとう」

「男の人の頭を撫でてあげるのって初めてだけど、なんだかドキドキするね」

「えっ?」


 ユミさんほどの美少女なら、彼氏の一人や二人、何十人からでも告白をされていそうだ。


「私ね。今まで末っ子でお母さんとお姉ちゃんがなんでもできちゃう人たちだから、人に甘えるような感じだったんだ。だけど、こうやって誰かに甘えさせてあげるって、初めてだから凄く新鮮で嬉しいな」


 俺の選択をミス!!!


 スミレさんとお世話が好きな子かと思ったら、初めてするお世話に加減がわからなかっただけだ。

 なら、ちゃんと説得すれば、起き上がってお話ができるかもしれない。


「ユミさんのおかげで大分良くなってきたよ。ありがとう」


 まずはお礼だな。それをすることで安心してくれるはずだ。


「そう? お姉ちゃんに比べると足も細いし、胸も小さいから柔らかくないかなって心配だったんだ。でも喜んでくれて嬉しいな」


 あっ、ダメだ。


 物凄く素直な子だ。


 嬉しくてまた頭を抱きしめられてしまう。


 これは嬉しいのだが、物凄く罪悪感に襲われる。


「ただいま」

「帰ったわよ」


 マズイ! ユミちゃんが頭を抱きしめているタイミングで二人が帰ってきた。


「ふぅ、結構買い込んだわね」

「お母さんが来てくれたなら、甘えないと」

「もう、この子は! ユミ? 何しているの?」


 マズイマズイマズイ!!!


 絶対にお母さんに変に思われる! 


 それにスミレさんに嫌われるかもしれない。

 だけど、善意でしてくれているユミさんを払いのけて起き上がることもできない!!!


「ふふふ、ユミ。何をしているの?」

「お姉ちゃん。あのね、ヨウニイが寝ていると苦しそうにしてたから枕になってあげたの」

「そう、ユミは優しいわね」

「それで、目が覚めたけどまだ熱があるみたいで顔が熱いから起きちゃダメって、ギュッとしてたら、なんだか頭を抱きしめるって気持ちよくて、ついしちゃった」

「ユミ……」


 これはマズイのか? 俺も、ユミちゃんも怒られる流れなのか?


 お母さんも先ほどから何も言わない。


 呆れているのかな? ユミちゃんの胸が目の前にあって、二人の顔が見えない。


「凄くわかるわ! ヨウイチさんのお世話をするのって幸せよね」

「やっぱりそうなんだ! お姉ちゃんが幸せそうでいいなぁ〜。私もヨウニイ欲しい」

「それはダメよ。あなたもいつかお世話する相手が見つかるはずよ。だから、今だけね」

「うん。ありがとう。お姉ちゃん」


 何故か、俺はスミレさんのお墨付きで、ユミちゃんに貸し出されてしまった。


 むしろ、怒るか、救出してください!

 

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