第25話 お母様と妹さん
スミレさんに告白をして、OKをもらった俺はバラ色気分だったが、すぐに絶望に打ちひしがれることになった。
「えっ?」
先ほど椅子から落ちた際に、痛いと思いながらも放置していた左腕の傷がパックリと開いていた。
「えええ!!!!」
タオルで傷口を押さえながら、救急病院へ飛び込んで七針ほど縫われてしまうことになる。
「しばらく左腕は使わないようにお願いします」
夜勤を務めてくれた女性の先生に怒られながら、左腕にはガーゼと包帯が巻かれて、一週間後に糸を取りに来るように言われました。
「はは、またやってしまいました」
「もう、仕方ないですね」
自分のバカさ加減に本当に悲しくなる。
せっかくOKしてもらって、これからは恋人としてイチャイチャできると思っていたのに、最初に逆戻りになってしまった。
「仕方ないですから、また私がお世話してあげますからね」
でも、なぜかスミレさんは嬉しそうだった。
♢
《side瀬羽菫》
病院の帰り道、私は不謹慎であることはわかっているけれど、彼の左腕に巻かれた包帯を見て、笑顔を浮かべてしまう。
「痛いですか?」
「えっ! はい。やっと治りかけていたのにバカなことをしました」
「でも、これでまたお風呂は一人で入れませんね」
「えっ?」
ヨウイチさんの包帯が取れてからの日々が、とても不満でした。
だって、これまでお風呂も私が入らせてあげていたのに、ヨウイチさんが執筆を開始して、一緒に過ごす時間も減ったのにお風呂に入る時間も減ってしまった。
とても寂しい思いをしていたのです。
せっかく告白をしてくれたんですから、もう何も我慢する必要はないのですよね?
「なっ! なんでバスタオル一枚なんですか?!」
「えええ、だってお付き合いしているのですから、裸を見せ合ってもいいではありませんか?!」
「まっ、まだ体が不自由で」
「だからお世話をしてあげるんです。ふふ、やっと元通りですね」
私は包帯を濡らさないようにビニール袋で、ヨウイチさんの左腕を包み込んで座っているヨウイチさんの背中を洗ってあげます。
「ぜっ、絶対にタオルを取ってはダメですよ」
「えええ、どうしましょうか?」
私はそっとタオルを取りました。
本当は私も少しだけ恥ずかしいので、まだ水着を着ています。
だけど、少しだけ面積が少ない水着にリニューアルしました。
「ヒャッ!」
胸につけた泡でヨウイチさんの体へ抱きつきます。
「まっ! まさか裸?!」
「どうでしょうか?」
戸惑う姿が可愛くて、ついつい揶揄いたくなります。
もしも、ヨウイチさんに襲われたら? ふふふ、もう付き合っているんですからいいですよね?
「けっ、結構なお手前で」
ヨウイチさんはあまりこういうことに慣れていないのか、体を熱くして顔を真っ赤にしています。
ですが、あまり悪ノリをしてはいけませんね。
前回もそうですが、あまりやりすぎると熱が上がってしまうので、これぐらいで。
「すっ、スミレさん!」
立ち上がったヨウイチさんが振り返ってギュッと私を抱きしめました。
「あっあの、これ以上されると本当に我慢ができなくて、キス。してもいいですか?」
「えっ、はい。もちろんです」
触れるような優しいキス。
ヨウイチさんからしてくれる初めてのキス。
ふふふふふふっふふふふふふふふふふふふふふふふっふふふふふふふふふふふふふふふふふふふっふふフッっっふっふふふふふっふふふふふふふふハァー。
もう離さない。
♢
病院にいった日から、スミレさんは上機嫌だった。
俺のベッドへ狭いので、その日からスミレさんの部屋にあるダブルベッドで眠ることにした。
ケガと熱が出て何もしてない。
ただ、スミレさんが横にいてくれるだけでドキドキしながら、そして睡眠薬の効果で眠りは深くなる。
そんな日々を過ごしている間に週末になって、スミレさんのお母さんと妹さんがやってきた。
俺はソファーに座って、緊張しながら待っていた。
スミレさんが玄関に行って出迎える。
リビングの扉が開いて入ってきたのは、スミレさんに似た美しい三姉妹でした。
スミレさんのお姉さんと言われてもおかしくない年上女性は、スミレさんに輪をかけたほどグラマラスで迫力ある豊満な胸元に、ユルフワパーマの茶髪が似合う大人の魅力が溢れるスーツ美人。
妹さんは、セミロングの髪を小さく結んだ女子高生。制服を着た小柄で可愛らしい印象の受ける美少女です。
「はっ、初めまして。紐田陽一と申します」
俺の自己紹介に二人がニコニコとした顔をする。
「あなたがヨウイチ君なのね」
「へぇ〜お兄さん。結構イケメンじゃん」
二人の反応に戸惑っていると、スミレさんが割ってはいる。
「二人とも、ヨウイチさんが困っているでしょ」
「ヨウイチさんだって」
「ヨウイチさんだって」
二人はイタズラっ子のような顔でスミレさんを揶揄う。
顔は似ているけど、三人ともが別々の魅力を発していて、美人ばかりが集まるとこんなにも良い匂いがして、緊張するのだと初めて知った。
しかも、まだ体は熱が出やすいので、立っているのが辛い。
「あらら、顔色が悪いわね」
誰よりも早く気づいたお義母さんが俺をソファーに座らせる。
優しく額に手を当てられて、冷たくて気持ちい。
「あら? まだ熱があるようね」
「えっ! もうヨウイチさん無理をしてはいけないって言ったじゃない」
「お兄さん大丈夫?」
美人三人から覗き込まれてますます目が回る。
俺はそのまま意識を失ってしまった。
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