第21話 side編集者 2
《side仲介》
私たちの仕事は、多岐に渡る。
雑誌の刊行をしている編集であれば、常に雑誌のネタを探し、毎日が情報収集と雑誌作りをしていく。
小説家の編集なら担当している小説家さんと話を考えたり、文章のための打ち合わせをしたり、新人を探すためにコンテストやウェブ小説ランキングを見たり、持ち込みが来られたらそれを読んで答えを返す。
他にも様々な手段で小説家さんの新人を探して、売れる新たな題材を探すことになる。
私は漫画家を担当する編集で、担当させてもらっている漫画家さんとイラストレーターやアシスタントを顔合わせさせたり、漫画さんの話を打ち合わせして考えたり、編集会議で部数を相談したり、営業に売りポイントを話したり、印刷会社にお願いしたりと本当にやることが多い。
しかも、通常業務をしながらも新人発掘や、新しいアシスタントやイラストレーターさんの確保をしておかなければ、常に人手不足に陥りやすい業界なのだ。
「おや? これはまた凄い!」
「どうしたんですか? 先輩」
「後輩ちゃん。見てごらんよ」
私は自分が見つけたpixivの画像を見せる。
まだ、投稿は二枚だけ。
一枚は異世界転生小説などに描かれていそうなメイドさんが紅茶を入れている。
なんの変哲もない絵に見えるが、その背景の異常な上手さとディティールの素晴らしさ。
それに負けないキャラクターへの愛情が窺えるイラストレーターの力量は素晴らしい。
「ハンパねぇです!」
「だね。このイラストレーターさんはこれから引っ張りだこになるだろうね」
「アポを取るんですか?」
「最近はDMだけっていう人も多いからね。会ってくれたら口説き落とすけど、どうだろうか?」
「絶対に確保するべきっす!」
「だね。私もそう思うよ後輩ちゃん」
私はもう一枚の絵を見た。
そちらは現代のビル群を舞台に背景が描かれており、その中央の道路にワンピースを着た黒髪の女性が後ろ姿で立っている。
なんて細かい作業をする人だろうか? 私はこれだけの仕事をできる人間を片手で数えられるほどしか知らない。
そのうちの一人を先日失ってしまった。
紐田陽一さんは、将来が楽しみなイラストを描く人だった。
彼の存在は編集の総力を上げて探してみたが、足取りすら見つからなかった。
最悪なのが、彼は住民票を消失していた。
ご実家に帰ったのではないかと思って、司法書士の先生にお願いして、住民票をお取り寄せてもらおうと思ったのだが、消失していることがわかった。
しかも、紐田さんの両親は亡くなっていて、ご兄弟もいない。
ご友人たちの連絡先は、スマホに登録されていたのを復元して連絡を取ってみたが、誰にも連絡を取っていなかった。
いったい、紐田さんはどこに消えてしまったのか? 一時期、事故に遭われたなどの死亡説や、行方不明になったのではないかという怪奇現象説まで囁かれた程だ。
だが、なぜか私は彼が生きているように感じる。
それこそ道路で家無し子になっていれば、私が拾って家に連れ帰りたい程だ。
相変わらず、伊地知先生は塞ぎ込んでいて、原稿は書いてくれるが、これまでほどの迫力が無くなってしまった。
元々の背景による迫力もあったので、紐田さんの丁寧で細かい仕事がなくなり、伊地知先生本来の画力だけでは見劣りしてしまうのだ。
キャラはいい。
だが、背景や細かな描写がどうしても物足りなくなる。
「ふぅ、本当にどこにいったのかしらね? とにかく新しいイラストレーターさんを見つけて、伊地知先生のアシスタントになってくれないか交渉してみないと。それがダメでも、何かの作品のイラストを担当してもらうのもありですね。とにかく新人の間に捕まえておきたいからね」
私は早速DMを送ることにした。
まずは、伊地知先生のところへのアシスタント依頼を出して、それを断られたら小説家の編集サイドに売り込むのはありだな。
とにかく、編集である私のことを覚えてもらってやり取りができるようにしておきたい。
「おや、すぐに返事が来たようだね。うん?」
pixivに直接DMをさせてもらった。
どこの出版社で仕事内容なども含めて、送ったのだが。
返信は芳しくない。
「うーん、アシスタント業は一切しないかぁ〜残念。これだけ描ける人ならお願いしたいのに。イラスト依頼は、DMで仕事が埋まっていなければ受けるか。くぅ〜抱え込むことは難しそうね。最近はイラストレーターさんのレベルが上がっているから、一人でも多くイラストレーターさんや漫画家さんは抱えていたいのに」
それでも私のチェックボックスに、謎めいたイラストレーターさんの名前は刻まれた。
上手くて綺麗なイラストレーターさんは今の時代にとても貴重だ。
それも、文章などを読んで新たなキャラクターを生み出せるなら、漫画家としての才能まで生まれてくる。
そうなれば、原作を誰かに頼んでコミカライズを担当してもらうこともありだ。
「ふぅ、今からの時代に必要な人材の確保は何よりも大切ね」
私は、気に留めながら次の新人さん発掘に向かう。
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