第20話 モデルに
スミレさんは俺の願いを聞いて、モデルになってくれることになった。
早速、俺の仕事部屋に来てもらってポーズを取ってもらう。
服装はいつものメイド服をお願いしたのだが。
「なっ、なんで脱ごうとするんですか?!」
「えっ? モデルは裸では?」
「違います!」
ヌードモデルと勘違いされてしまった。
「メイド服を着て座っていてくれるだけで、最初は十分です」
「そうですか? 体の細部まで見ないと細かいところは描けないのではないでしょうか?」
「今は下書きの段階ということもありますが、キャラクターとして作成させてもらうので、デッサンとは違います! そこまでの細部への細かさは、こちらの想像と偶像を合わせます」
「なるほど」
なんとか納得してくれたスミレさんにメイド服で座ってもらって正面から描いていく。
下書きが、1枚できれば、次は横から。
次は立ち上がってもらって、ポーズをいくつか変えてもらう。
「モデルって結構大変なんですね」
お昼になってスミレさんが作ってくれたパスタランチを食べていると、スミレさんがポーズを取って疲れた話をされてしまう。
「すみません! しんどかったですよね?」
「いえ、そういう意味ではなく、ずっとヨウイチさんに見つめられ続けていたので、少し恥ずかしいと感じてしまって」
「えっ?」
「次はどんな衣装にしますか?」
「またしてくれるんですか?」
「ええ、もちろんです。裸はいらないということですが、細部を見ることがあるなら水着などでも?」
なぜそこまでノリノリなのだろうか? もちろんありがたい。
可愛い女性の絵を描きたい。
そこにはメイドや水着がやっぱり人気である。
他にもチャイナ服やコスプレなどたくさん存在する。
「えっと、まずはメイド服のキャラクターを完成させて、色を塗りを終えてから次の絵に写ろうと思います。一枚完成したら見てくれますか?」
「もちろんです」
紙に書き込む訳ではないので、記録としてちゃんと保存されていく。
俺は早速パソコンに向き合って、黒髪メイドの美女をモチーフにしたキャラクター作成に入る。
今まで味わったことがないほどのインスピレーションが湧いてくる。
ここまで刺激を受けたのは初めてかもしれない。
今までの俺は背景を専門にアシスタントとして働いてきた。
舞台は、貴族の屋敷、メイドとして務める彼女が俺のためにお茶を入れてくれる。今流行りの転生した主人公をストーリーの主人公にしてヒロインにお茶を淹れてくれる献身的なメイドをイメージする。
「ヤバっ!」
自分でも自信がある背景から書き出した、一枚の絵はかなりいい。
1日ではラフしか描けなかったけどヤバい! すごく楽しい。
絵を描いててここまで面白いって思ったのは、学生以来かもしれない。
美大に入ってからは課題に追われていて、技術を高めることばかりに力を入れてきた。
だけど、それよりもずっと前に技術も商業も関係ない、ただ描くだけが楽しい頃に戻ったみたいだ。
今まで培った全ての技術を使って、お屋敷の室内を描いて、そこに美しい黒髪メイドさんがティーカップにポットから紅茶を注いでくれる一場面がここまで楽しいとは思わなかった。
「ハァ〜」
「ヨウイチさん」
「えっ? すいません! どうしました?」
「ふふふ、凄い集中してましたね」
「そうですか?」
「はい。ランチを食べてから六時間ほど経ちましたので、一歩も出てこないので心配になって何度か覗いてしまいました」
「えええ! 全然知らなかったです」
「ふふふ」
いつものメイド服姿で、近づいてくるスミレさんが覗き込んできます。
私は途中経過を見られても恥ずかしいと思うタイプではないので、見たいのであれば問題ありません。
「うわ〜、凄いですね!」
「そうですか? つい楽しくなってしまって」
今は白と黒で鉛筆線のような細かな描写を描いているところです。
全然下書きの段階ではありますが、絵として見れると思います。
「これが私ですか?」
中央で紅茶を入れるメイドさん。
「はい。スミレさんをモデルにデザインさせてもらいました」
「ふふふ、ヨウイチさんには私がこのように見えているのですね。なんだか恥ずかしいです」
「ダメでしたでしょうか?」
何故だろうか? 自分が作った物を評価されるような気がして胸が締め付けられる。もしも、貶されたなら俺は立ち直れないかもしれない。
不安に駆られる俺をスミレさんが後ろから抱きしめる。
「えっ?」
「ヨウイチさんには凄い才能があるんですね! 年上の男性にいうのは失礼かもしれませんが、いくつになっても才能を見せられると感動するんだと思いました。ヨウイチさんはとても凄い人なんですね! 私は完成してない絵で感動してしまいました」
ギュッと抱きしめられて、俺の胸が熱くなる言葉をかけてくれる。
誰も認めてくれないかもしれない。
創作物にはそんな不安が付き纏う。
だけど、ああ〜。
俺は認めてもらえたんだ。
他の誰かが否定するかもしれない。
だけど、最初の一人は俺を感動させてくれる言葉をくれた。
俺はそれだけで一生を頑張れる気がした。
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