第16話 スマホが届いた

 目が覚めると昨日の出来事が嘘だったかのように、スミレさんはいつも通り俺のお世話をしてくれる。


 やっぱりあの囁きは夢だったんだろうか? 夢心地な現実離れした出来事に頭の整理が追いつかない。


ーーーピンポーン。


「はーい」


 珍しく朝からチャイムが鳴ってスミレさんが出ていく。

 戻ってきたスミレさんの手には、小さな段ボールを持っていた。


「それは?」

「ふふ、ヨウイチさんへのお届け物ですよ」

「えっ?」

「スマホです」

「ああ、今日だったんですね」


 箱から取り出したスマホは、綺麗な黒色のスマートフォンだった。

 スミレさんが選んでくれたシリコンケースも一緒に入っていたので、起動させて充電器を差し込む。


「なんだか新品のスマホって久しぶりすぎて戸惑いますね。こんなにも軽かったかな?」

「機種変更は久しぶりですか?」

「前の機種も支給されたもので、自分で買ったことないかも」

「今時にしては珍しいですね」

「はは」


 最初に持っていた機種は両親に購入してもらって、その次のスマホはアシスタントになった後に支給されたので、自分で買うのは本当に初めてだ。


「えっと……どうやるんだろう?」


 朝食を食べ終えて、スマホの設定をしようとしたけど全くわからない。

 全部消えているから、アドレスとかもないし、フリーアドレス作ったこともない。


「貸してください。えっと、設定はこれでいいですね。Gメールアドレスを作っていると便利なので、作っておきますね。あっ、ヨウイチさんの誕生日っていつですか?」

「四月一日」

「えっ? エイプリールフールですか?」

「うん。名前がヨウイチで、誕生日も似たような感じだから、結構からかわれるんだけど、学校の時は関わりない時期に誕生日が終わっちゃうから誰にも祝われないままなんだ」


 四月生まれあるあるだと思う。


「む〜、今が九月なので、少し遠いですね。ですが、覚えておきます」

「はは、ありがとう」

「はい。これでできましたよ」

「えっ?」


 俺と話しながら、作業を終えてしまうスミレさんは凄いなぁ〜。


「SIMからの接続も終わっていますので、もう使えますよ」

「シム? ごめん。いい、説明されてもわからない」


 機械に疎いので、スミレさんに全てを任せてしまう。


「えっと」

「これがメールアドレスです。これが番号の見方で、LINEを入力してあるので、私の番号を入れています」


 何から何まで全てスミレさんに説明を受けて、スマホの使い方をレクチャーされました。前の機種ではリンゴのマークがなかったので、最初は使い方が慣れなかったけど、なんとかなった。


「色々とありがとうございます」

「いえいえ、ヨウイチさんのお世話ができて、私は嬉しいですよ」


 スミレさんがいないと生活ができないようになってきているような気がする。

 毎日作ってもらう料理は美味しくて、お風呂や着替えなども用意してもらって、洗濯や掃除もしてもらって、スマホの契約から不動産まで……。


ーーーピンポーン。


「また? 今日は荷物が多いね」

「多分私の荷物です」

「そうなの?」


 荷物を受け取りに行ったスミレさんが、平べったいダンボールを持って戻ってきた。


「何か買ったの?」

「ふふ、ちょっと待っていてくださいね」


 なんだか楽しそうな顔をするスミレさんは、脱衣所へと入っていった。


 俺は使えるようになったスマホで、前見ていたNewTuberを検索して、最新の動画を視聴する。

 

「それってあなたの考えですよねぇ〜」


 とお決まりの文句を言いながら、ぐだぐだとお酒を飲みながら話している姿を呆然と眺めてしまう。


「お待たせしました」

「えっ?」


 お待たせしましたと言って、現れたスミレさんはメイド服を着ていた。

 短いスカート、フリルの装飾が多い可愛いタイプだ。

 資料として見たことはあるが、実際に美人な女の子を見るのは初めてだ。


 驚きと共に綺麗な足と、大きな胸元に視線が釘付けになってしまう。


「ご主人様♪ いかがですか?」


 そう言って小首を傾げるスミレさん。

 ヒラヒラとしたリボンがついた胸元の大きな膨らみが揺れて、一層視線を釘付けにさせられる。


「ヨウイチさんのお世話を用のエプロン代わりに購入したんです。ネットで見ていて可愛かったので。メイドさんはお嫌いですか?」


 長い黒髪にメイド服が凄くよく似合う。見惚れてしまう。


「えっと……、物凄く好きです」


 素直な感想が無意識に口から漏れてしまう。

 スミレさんは口元を抑えて嬉しそうな顔をしてくれる。


「嬉しいです。デザインも自分なりに気に入った物にしたんです」


 スカートを持ち上げて、一礼すれば、谷間が視線の高さに下されて、釘付けになってしまう。


「そんなに見られては恥ずかしいです」

「あっ、すまない! だっ、だけど、その姿で外は歩けないなぁ〜」

「それなら、セットのガウンがあるんです」


 そう言って脱衣所から、ガウンを取り出してくる。


 メイド服に似合うガウンは、胸元でリボンが結べて、足元まで隠してくれる。

 確かに全てを隠してはくれるが、大きな胸は隠れてない!


 むしろ、強調されて絶対に外を歩かせてはいけないと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る