第15話 瞳が合って
ウトウトと眠りについて、しばらくすると違和感を覚えた。右腕に温かさと心地良い柔らかさを感じる。
暗い部屋の中でスミレさんが隣に寝ていることに気づく。
何をしているのかはわからないけど、ベッドの狭い場所に乗って、少しでも密着して寝ようとしているのだろう。
俺の右腕を抱きしめて眠っている。
目を開いて彼女の姿勢を見ようとした。
何をしてるのだろう? 顔を埋めているので、何をしているのかわからない。
どうやら俺が目覚めたことに気づいたようだ。
スミレさんが顔を上げる。
目が合って、スミレさんが気まずい顔をしている。
右腕を抱きしめて寝ているから? 気を使わせていたのはこちらの方で狭い部屋の中で眠る場所なんて限られている。
俺がベッドを占領していると思ったけど、睡眠薬で寝ていたから、安心して寝ていたのだろう。
気を使わせていたんだな。
少し考えればわかることだ。
疑問が晴れて、次に思うのは、スミレさんの肉体の感触だ。ベッドがシングルで狭いことはわかる。
だから、俺に密着して寝なければいけないことも理解できる。
右腕をスミレさんの胸と太ももに挟まれて、物凄く心地いい。
男の天国はここにあったんだと思えるほどに心地いい。女の人の柔らかさを思い知らされる。
しかも、自分よりも一回りの女性が、オジサンに抱きついてくれている幸福感が半端ない。
もう、これは夢なのか現実なのか、判断ができないほどに夢心地いい。
「すっ、すいません。俺がベッドを占拠していたから、狭いくて抱きついて寝ていたんですね。今日まで気づかなくてすみません」
そう言って少しでも壁際に寄ろうとして、体を離そうとしたのだが、右腕をスミレさんが離してくれない。
「あっ、あの体を壁に寄せたので、もう少し広く寝れますよ」
二人で寝るには狭いベッドの中だ。
少しぐらい寄った程度で密着する体を離せるほどの空けられない。
スミレさんは、俺の腕を抱いたまま少しだけ進んでくれる。
余計に密着したようにも思うが、スミレさんが寝るスペースが確保できた。
「んん……っ……ぅあ」
動いた拍子にスミレさんから声が漏れる。
苦しいのだろうか? それはそうだ。
「ハァ……んん…」
あんな狭いところで寝てくれていたんだから、落ちないように踏ん張っていたのだろう。
先ほどよりも密着度合いが上がった気がして、腕に伝わる恐ろしいほどのモチモチとした弾力、そして温かさを感じる。
そして、彼女の鼓動が伝わってくるようだった。
早音で打ち鳴らされる鼓動は、ダイレクトに伝わってくる。
……あっ? もしかして……下着をつけて……ない?
当たり前だ。
お風呂上がりで、来ているのはパジャマのシャツだけ。服の生地だけが、隔てるものを感じさせない。
この感触はつまり、今はスミレさんはブラを着けていない。
それを考えてしまうだけで、緊張して全身が火照ってしまう。
思わず感触を確かめたくて、全神経を右腕に集中させてしまう。
「ぅん……はぁ……」
先ほどから漏れているのは、もしかしてスミレさんの吐息だろうか?
ぐっと顔を近づけてきたスミレさんが、俺の胸に顔を埋める。
「……おっ、おやすみなさい」
あっ、そうか、俺たちは寝ようとしていたんだ。
俺は彼女がどこで寝るのか疑問に思って、こんなことをしていたけど、目的が達成されたから寝なくてはいけない。
マズい……何がマズいって、一部分が元気になりすぎて寝れない。
理性が吹き飛びそうな甘い香りが立ち込めて、スミレさんのフェロモンが俺を狂わそうとしている。
おっ、俺はスミレさんの信頼を失う勇気があるのか? 今日までよくしてもらった恩を、このような形で仇として返すのか? いや、それはできない。
彼女の気持ちを踏み躙るようなことをしてはいけないんだ。
これは本来俺が睡眠薬を飲んで寝てしまった際の処置として、スミレさんが仕方なく眠るためにしていた行為だ。
「おやすみなさい」
俺はなんとか自分を言い聞かせて、スミレさんの頭を左手で撫でて目を閉じた。
「あっ!」
自分の気持ちを落ち着けるためにした行為だか、髪まで柔らかくていい匂いがする。
俺は男としては敗北者になったが、大人として勝者になったんだ。
しばらくそのまま時間が過ぎて、スミレさんから寝息のような穏やかな息が聞こえてきた。
俺もなんとか気持ちを落ち着けて、ウトウトと眠りに落ちそうなところで、スミレさんが動いていた。
もう起きてソファーに行くのかな?
私はウトウトとそのまま意識を落ちそうになっていた。
「寝ておられますか? ふぅ、焦ってしまいました。だけど、ヨウイチさんが紳士なのは知っています。だけど、私も女なので、そろそろ襲ってくれないと、私が襲ってしまいますよ」
えっ?!
俺は目を開けることができなくて、寝たふりをしていると、スミレさんから頬にキスをされました。
これは……、どう判断したらいいんだ? 俺がドキドキして眠れないでいると、隣から可愛い寝息が聞こえ始める。
「すぅすぅ」
しかも、ガッチリと右腕はホールドされたままだ。
俺は今日、寝られるのだろうか? 目を閉じて英語でsheepを数えていく。
日本語よりも羊を英語で数えると眠りやすいと聞いたので、sheepone 〜nineまでを繰り返し繰り返し何度も数えて、なんとか眠りについた。
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