第14話 気づいていること

 左腕の痛みが随分と治ってきた。

 痛みが酷かったので、いつも睡眠薬を飲んでいた。

 睡眠薬を飲むと、一時間ほどで眠くなって、スミレさんのベッドへ運ばれていく。


 ふと、スミレさんはどこに寝ているのだろうという疑問を持つようになった。


 だから、十日が過ぎた頃。


 痛み止めだけ飲んで、睡眠薬を飲まないようにしてみた。

 一時間ほどで眠りがくるので、スミレさんに導かれてベッドへ入っていく。


 自分でも自然な流れでベッドに入ってしまうが、スミレさんの包まれているような気がして、これがなくなったときに眠れるのか不安になる。


 俺をベッドに寝かせたスミレさんは、どうやらお風呂に行ったようだ。


 なるほど、確かに男が起きている間にお風呂に入るのは危険だから、警戒していたのかな? それなら大人しく寝た方がいいかもしれない。


 ただ、今回の目的は俺がベッドを独占していて、スミレさんはどこで寝ているんだろうという疑問が浮かんできたからだ。


 ベッドを独占してしまっているので、申し訳なく思う気持ちがある。

 だから、他にも布団があるのならいいんだけど、それを俺は見た事が無い。

 目が覚めた時には、スミレさんは起きていて、寝ている姿を見たことがないので、ソファーで寝ているなら、今日をもって交代しなければならない。


 スミレさんは、俺よりも遅くに寝て、俺よりも早く起きている。

 だからこそ体調を崩す前にどこで寝ているのか突き止めなければならない。

 一応、体調を見ていても、スミレさんはしんどそうにしていないので、寝ていると思う。


 ではどこで?


 考え事をしているうちに、いつもこの時間で寝ているせいか、睡眠薬を飲んでいなくても眠くなってきた。


 うとうとするしながらベッドの中で目を閉じていると眠ってしまっていた。


 ただ、睡眠薬を飲んでいた時よりは深い眠りではなくて……。



《side瀬羽菫》


 いつも通り痛み止めと睡眠薬を飲んだヨウイチさんが眠りに落ちた。


 私はヨウイチさんが寝ているのを確認してお風呂に入る。

 

 別にヨウイチさんが寝たからお風呂に入っているわけじゃない。

 ただ、ヨウイチさんの隣で眠る前に、自分の身を清めていたいだけだ。


「ふぅ」


 お風呂上がりにお水を飲んで、体の火照りを冷ます。


 ヨウイチさんとの暮らしも十日が過ぎて、私はこの時間に幸福感と依存性を感じ始めている。


 そう、私はヨウイチさんに依存してしまっている。


 彼のいない暮らしなんて考えられない。


 彼の寝顔を見て、眠りについて、彼の寝顔を見て目を覚ます。彼のために朝食を作り、彼の服を用意して、お世話をしてあげる。彼の朝食を片付け、彼が作業をしている横顔を見つめ、彼がしたいことを一緒にする。彼の昼食を作り、一緒に散歩にでて、帰ってきてからお風呂に入って彼をお風呂に入れて私が洗ってあげる。彼がゆっくりしている間に夕食の買い出しに行って、彼の夕食を作る。彼が太ってきたこと気にしているから、少しだけヘルシーな食材にするため、タンパク質を増やして糖質を減らしておく。


 私の一日は彼のためにあり、彼のことを考えて終える。


 そのご褒美として、お風呂上がりに彼の隣で眠るのが、私の一日を全て報いてくれる。ヨウイチさんと私は恋人ではない。恋人ではないから、本当はこんなことをしてはいけない。そんなことはわかっているけど、私の気持ちを止められない。





 気持ちを落ち着けて、なるべくドキドキしないようにしてからベッドへと入った。

 全てヨウイチさんを起こさないようにするためだ。

 

 彼の右腕を胸と太腿で抱きしめる。

 最初の日から、毎日欠かさずにしてきた。

 


 そして、彼に顔を寄せて……。


 



 クンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクンクン。







 ヨウイチさんの右腕に抱きついて、彼の臭いを嗅いでしまう。


 同じシャンプーと石鹸を使っているはずなのに、ヨウイチさんの臭いは男性特有の匂いがして、いくら嗅いでも満足できない。


 満足して、私が眠りに着こうと顔を上げると視線が合った。


 それは紛れもなくヨウイチさんの瞳が開かれていた。


 離れることも出来なくて、沈黙する時間が流れた。

 

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