第6話 彼のための買い物
《side瀬羽菫》
朝食の片付けを終えて、ヨウイチさんの前にお薬を置きました。
まだ痛む様子で、顔色もあまり良くなかったです。
水を用意して、テレビでも見ながらゆっくりして欲しいとリモコンをテーブルに置きました。
私は着替えをして家を飛び出しました。
ヨウイチさんは何か言いたそうにしていましたが、ここは譲れないので、有無を言わせないでいます。
だって、そうしないとヨウイチさんは遠慮して私に買い物も行かせてくれなさそうだったので、買い物に行けなくて、一緒にいたいと言ってくれれば嫌ではありませんが、やっぱり元気になってもらいたいので、ご飯のオカズも買わなくてはいけません。
ヨウイチさんは男性の方なのできっとたくさん食べてくれるでしょう。
こんなにも誰かのお世話をすることが、幸せで楽しいことだなんて知りませんでした。
そういえばヨウイチさんは漫画家さんのアシスタントをされていたそうです。
美大を出ているというでも凄いのに絵を描いて生計を立てていたというだけで私では理解できない世界です。
昔からピアノは習っていたので、音楽は少しわかるのですが、絵の方は全然上手くありません。
大学では法律関係の勉強をしているので、将来は弁護士か、裁判官になりたいと思っていました。
だけど、ヨウイチさんのおかげで誰かのお世話をすることの喜びを知りました。
弁護士ではなく、お世話をする仕事も良いかもしれませんね。
「ふふ、シャツのサイズも、パンツのサイズも昨日のうちにチェックしてあるので、大丈夫です」
ヨウイチさんのナイフによって穴が空いて、血まみれになったシャツは、捨てたと言いましたが大切に保管してします。
だって、ヨウイチさん身につけていた物ですから、それに初めてあった二人の記念品でもあります。
大切にしますよね?
紳士服に入って、ヨウイチさんのサイズに合わせた服を購入していきます。
上は包帯もあるので、少し大き目がいいでしょうか? 少しだけきてほしい服を想像して私の好みが入ってしまうかもしれません。
まだまだ暑い時期が続いているので、半袖がメインです。
家の中だとクーラーが効いているので寒く感じてしまうかもしれません。
羽織れるシャツも購入して、きっとヨウイチさんに似合ってかっこいいです。
ヨウイチさんのことを思いながら、買い物をするのがこんなにも楽しいとは思いませんでした。
ふと、考えてしまうのです。
どうしてヨウイチさんは私を助けてくれたのだろう? あの場では人はいませんでした。遠目に私が連れて行かれるのを慌てて見つけてくれたそうです。
後から聞いた話ではスマホを持っていなくて、コンビニまで走って向かったと警察の方が教えてくれました。
わざわざそんな手間をかけて私を助けてくれたのです。
しかも警察を呼ぶだけでなく、私が襲われることを考えて警察が来るまでの時間稼ぎをするために危険を顧みずに公園にきてくれました。
そんな男性がいるなど考えたこともありません。
「ハァハァハァ、ダメね。……素敵」
ヨウイチさんのことを思うと、胸がドキドキする。
洗濯カゴに入れるつもりで、バッグの中に入れていたヨウイチさんのパンツを握って、気持ちを落ち着かせる。
「そうだ。パンツやシャツを大量に買いに行かないといけないわ。ず〜と、一緒にいるためにも清潔感は大切にしない」
私がルンルン気分で買い物をしていると、ショッピングモールで怒鳴っている女性が目に入った。
「どうしてよ!」
叫び声をあげている女性はテーブルに手をついて、対面に座っている女性を怒鳴りつけていました。
ですが、対面の女性は困ったような顔をしているだけでした。
「伊地知先生、落ち着いてください。先生の気分転換に外の空気を吸いに来たんじゃないですか」
「ふん、落ち着いているわよ。だけど、どうしてあいつは戻ってこないの?」
「それは先生がクビにしたからではありませんか?」
「それでも今までなら戻ってきていたじゃない」
メガネかけてヒステリックに怒鳴っている女性は、小柄な体ながらも美人で迫力があります。
対して、スーツ姿におっとりとした女性は、宥めるように優しく微笑んでいました。
「流石に五度目なので、スマホも置いていかれました。もう戻ってこないんじゃないでしょうか? 諦めて別のアシスタトを探しましょう」
「アイツの代わりなんているはずないじゃない。私の背景を描けるのはアイツだけなの。他の奴が描いた背景で私が納得できるとでも?」
「それはなんとか納得していただかなければいけません。今週はお休みにしましたが、来週には原稿をいただきたいのです。先生の作品を待っている読者がたくさんいるんですよ」
漫画家の先生なのかな? 色々と大変なんだなぁと思って、私は買い物を終わらせてスーパーへと向いました。
ヨウイチさんにたくさん食べてもらって元気になってもらいたい。
奮発してお肉にしようか? だけど、まだ今朝はしんどそうにしていたから消化の良い物がいいかな?
何を作れば良いのか悩んだ私は母に電話をかけました。
優しそうな母の声が電話越しに聞こえてきて、私は昨晩の出来事を話しました。
最初は驚かれましたが、さすがは私のお母さんです。
「そう、そんな素敵な人なのね。スミレ、絶対に逃してはダメよ。年齢なんて関係ないの。職業も関係ない。あなたを守ってくれる。それができる男性であれば問題ないわ」
「ありがとうお母さん。私ね、誰かのお世話をするのがこんなにも幸せだって知らなかったの」
「ふふふ、私もお父さんの世話するのが好きよ。そう思える人に出会えてあなたは幸福ね」
お母さんと気持ちが分かち合えて嬉しい。
私は買い物を済ませてヨウイチさんが待つ家へと帰りました。
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