第3話 オッサンはお世話される
あれよあれよと、セワ・スミレさんの自宅へと連れて来られた。
行くところがない俺としてはありがたい。
スミレさんを表現するなら、健気で献身的な優しい雰囲気を持ちながら、少しだけ天然で強引なところが見受けられる。
プロポーションは、グラビアアイドルにスカウトされそうなほどの美貌とスタイルを誇っており。
警察でもらった、プラウスのボタンが飛びそうな程のマシュマロバストが自己主張をしている。
だが、年頃のメチャクチャ美人のご自宅。
てっきり実家住まいで、ご家族がいるから大丈夫なのだと思っていた。
それなのにガッツリと一人暮らしのお部屋でした。
しかも男を入れて良いような部屋じゃない。
1DKで、寝室とリビングには鍵のかからない扉が一枚。そんな部屋の中に男女二人はマズい。
ストーカー男じゃなくても、襲いたくなる美貌の持ち主なんだから自覚を持って欲しい。
ナイフに刺された傷がなければ、絶対に襲う自信がある。
「すっ、すいません。散らかっていて」
「あっいえ、全然散らかっていませんよ」
実際に綺麗だ。
白を基調とした部屋は明るくて、リビングにはソファーとテレビにテーブル。
小さいながらも綺麗なダイニングキッチン。
寝室の扉は閉まっているが、十分に広い。
女子大生の部屋としては広すぎるくらいだ。
「だっ、男性の方を部屋に入れたのは、初めてなんです」
恥ずかしそうに照れるスミレさん。
セワさんと呼ぶと、悲しそうな顔をするので、スミレさんと呼ばせてもらっています。
「えっと、本当にいいんですか? こんなオッさんを部屋に入れて?」
「オッさんだなんて! ヨウイチさんはかっこいいです! ですから全然大丈夫です! ヨウイチさんは命の恩人さんですから」
純粋な話し方のせいで怖い。
「それにヨウイチさんがいてくれた方が安心できるんです! まだ、少し怖くて」
あ〜、それはそうだよね。
あんな男に襲われそうになったんだから。
まぁ、助けたことで一宿一飯の恩義を返してもらったぐらいの世話になってもいいかな? 俺が理性を保てばいいわけだし。実際、何かをしようにも、この腕じゃ正直辛い。
今も病院で痛み止めを飲ませてもらっているから耐えられるが、身体には熱出始めて正直しんどい。
「あっあの、お風呂に入れますか?」
「えっ? ああ、そうですね。ちょっと臭いですよね」
そういえば、ここ三日ほどは背景を書くために仕事場に詰めてて、シャワーしか浴びてない。
それに仕事で、ほとんど寝れてなかった。
「いえいえいえ! 全然臭くはないです! でも、その腕なので」
「あ〜そういう。えっと、頑張れば、入れると思います。お風呂を借りてもいいですか?」
「もちろんです」
よかった。風呂に入って、汗だけ流せれば、もう寝たい。
「それでは!」
「えっ?」
湯船は、帰ってくる前にスマホの遠隔で溜めていたそうだ。
準備いいね。
ただ、どうしてスミレさんも服を脱ぎ出すのだろうか? 破れたブラウスではないのは警察の人に別の服をもらったのかな?
「その腕では体を洗えませんよね? ですから、私が洗うのを手伝います!」
「えっ! それは流石に悪いです! 年頃の娘さんに、そんなことさせられません!」
「いいんです! 私のせいで怪我をしたんですよ!」
「いやいやいや、流石にそれはダメです!」
「わっ、私に触られるのは嫌ですか?」
いやいやいや、上目遣いの涙目はズルいって。
俺だって理性を持って我慢しようとしているのに、我慢できなくなるって!
「そっ、そんなことはないですけど、ダメです!」
俺は逃げるように脱衣所に入った。
唯一の荷物であるリュックを持って鍵をかける。
「ハァハァハァ、流石にそれはマズイ! 想像しただけで」
自分の下半身を見て、限界なのがわかる。
とにかく早く済ませようと思って、俺は服を脱ごうとして困った。
「包帯が取れない」
三角巾を取って、服を脱ぐことはできた。
だけど、包帯が濡れるのはどうしようもない。
「あっ、あの」
「はい!」
俺が鍵を開けて、扉を開けるとスミレさんが扉の前に立っていた。
どうやら何かあった時ようにスタンバイしてくれていたようだ。
パンツだけになって裸を見せるのは申し訳ないのだが。
「ゴミ袋をいただけませんか?」
「はい!」
疑問を口にすることなく、ゴミ袋を差し出される。
どうやら、俺が困ることがわかっていたようだ。
「それとゴムで止めますね」
ゴミ袋で左手を覆って、肩で止めてもらう。
「ありがとうございます」
「いえ、もし洗えないなら」
「それは大丈夫です!」
恥ずかしくて、風呂場に飛び込んだ。
左腕が使えなくても、頭を洗うことができたが、体が上手く洗えない。
「あっ、あの! 体洗えていますか?」
あ〜バレたか、足は洗えて、背中が洗えない。
「えっと、すいません。では、背中だけ」
「はい! 喜んで!」
鍵はかけていないので、声をかけるとスミレさんが入ってきた。
その姿はビキニの水着姿で大きな胸と、大きなお尻。
今まで出会ってきた中で、一番の美貌とスタイルを持った女性が入ってきた。
俺はタオルで大事な場所を隠したまま丸くなる。
「失礼します。ふふ、大きい背中ですね」
「そっ、そうですか?」
なぜ、こんなにも無防備なんだろうか? しかも、先ほど男に襲われたばかりで怖いはずなのに、何を考えているのかわからない。
「痛くないですか?」
「だっ、大丈夫です」
彼女の細くて柔らかい手が背中に当たって暖かい。
「ヨウイチさん。本当に助けていただきありがとうございます」
あっ、彼女は不安だったんだ。
だから、少しでも俺にかまって気分を紛らわせたかったのかな? ハァ、ドキドキして彼女の信頼を裏切りたくはないな。
「大丈夫です。何かあれば俺が守りますから」
「えっ?」
「今は一緒にいるでしょ?」
俺は左腕を持ち上げて、体を張ってスミレさんを守ると宣言する。
まぁ、彼女を安心させるためにこれぐらいは言ってもいいだろ。
「ふふ、ありがとうございます。はい。一生守ってくださいね」
「えっ?」
一生? 何言ってんだろ?
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