第2話 恩人は無職
《side
私は昔から男性からの視線を浴びることが多かったのです。
同級生たちよりも身体の成長が早かったこともあり、女性として大きくなる胸やお尻は、大人の先生より大きくなり、身長もみんな早く伸びました。
だから、小学生の頃に同級生男子から揶揄われて、身体を触られることが多かったのです。
凄く嫌で、嫌悪感と怖さから、両親に相談したこともありました。
学校では問題になり、私は彼らから避けられました。
ですが、学年が変わると同じようなことが起きるのです。それを繰り返している間に、同級生に近い男性や、それよりも年下の男性に対して、気持ち悪いと思うようになりました。
高校生になると、少し見た目は大人っぽくなった同級生でも、年齢が近いというだけで男性に告白されても心が動くことはなくなっていました。
大学に進学した私は実家から出て一人暮らしを始めました。
実家は都会から少し遠く、高校生まで過ごした地元から離れたかったのです。
ですが、大学に進学すると声をかけてくる男性が、さらに増えて、全てを断っていました。
その中の一人が、しつこく声をかけてきていました。
何度声をかけられても怖くて、断り続けました。
ですが、それがいけなかったのか、男性は私の後をつけて、家の近くにある人気の無い公園前で、私の腕を掴みました。
「やめてください!」
悲鳴を上げても、人通りがなくて無理矢理公園に連れて行かれてしまいました。
「俺様の告白を断ってんじゃなねぇよ!」
無理やりブラウスのボタンを破かれて、上半身が露出させられ、この先のことを想像して恐怖で涙が浮かんできます。
嫌だ! 怖い! 誰か、誰か助けて!
「おい、兄ちゃん。女の子が嫌がっているだろ。その辺にしておけ」
暴れていると、男の人が石を投げて声をかけました。
「なんだおっさん! お前には関係ねぇだろ」
「お嬢さん。こいつは彼氏かい?」
「違います」
現れた男の人に意識を向けた暴漢。
私は助けを求めました。
「だってさ。警察が来る前にどっか行ったらどうだ」
助けてくれた人は、くたびれたシャツに頼りなさそうなオジサンでした。
どう見ても私を助けられそうには見えません。
だけど、機転を効かせて警察を呼んでくれたようです。
助かるかもしれない。
そう思っていたら、暴漢がナイフを取り出しました。
「ずっと、この女を狙ってたんだ! やっとチャンスが来たってのに邪魔しやがって!」
普通じゃない! ストーカー? こんなのオジサンも逃げるに決まってる。
いくら警察が来るっていっても、その前に殺されちゃうかもしれない。
「マジかよ」
逃げると思っていたオジサンは、驚いていますが逃げませんでした。
むしろ、私を心配するような眼差しで、一度だけこちらを見ます。
「ハァハァ、邪魔しやがって、どうしてくれんだよ! もういい。お前を殺した後で、この女を!」
オジサンはナイフから逃げながら、私から距離を取っていきます。
ストーカーが私から離れたところで。
「逃げろ!」
「なっ!」
私を助けるために頑張ってくれていたんだ。
せっかくオジサンが私を逃すために頑張ってくれたのに腰が抜けて動けません。
それに気づいたストーカーが振り返りました。
オジサンは、後ろからストーカーを倒して、一緒に倒れ込みました。
「グハッっ!」
「見様見真似ドロップキック! おっさん舐めんな!」
「グエッ!」
「クッ、クソが、舐めやガァつて」
もつれあって倒れた二人。
ストーカーがオジサンに向かってナイフを振り下ろしました。
オジサンは左腕を盾にしてナイフに刺されたのです。
「キャー!」
悲鳴をあげてしまう私の横を影が通り過ぎていく。
「取り押さえろ!」
警察の人たちがやってきて、ストーカーを捕まえてくれました。
オジサンは刺されている筈なのに、私を心配するような優しい眼差しを向けてくれて、その瞳に私の胸が跳ねました。
「えっ!」
「大丈夫ですか? 一応、病院で検査を受けてください」
警察の方に連れられて病院へ運ばれる。
私は無理やり押し倒された際に、打ち身が出来ていましたが、オジサンほど酷くはありません。
「あっ、あの私を助けてくれた人は?」
警察の人に問いかけると、同じ病院に運ばれていることを教えてくれました。
男の人は怖い。
だけど助けてもらったお礼がしたい。
警察の話では、オジサンはナイフで刺されて出血が多く。
運ばれている途中で意識を失ったそうだ。
オジサンの病院代を全て私が払い。
診察室を教えてもらって、出てくるのを待った。
二時間ほど、診察室の前で待っていると。
「あれ? 君は! 警察に送ってもらわなかったの?」
私が居たことに驚き、自分のことよりも私のことを先に心配してくれました。
やっぱり、他の男性とは違う。
エッチなことばかり考えて、バカみたいな同級生の男子たちとはこの人は違うんだ。
「助けて頂きありがとうございます!」
「あっ、ああ。何もなくてよかった。何もなかったよね?」
「はい! 私は何もありませんでした。ですが」
私はオジサンの腕を見ました。
痛々しく包帯が巻かれ、三角巾で吊るされています。
「はは、名誉の負傷だから、気にしないで。あっ、名誉の負傷って言い方はわかる?」
「はい! 分かります」
オジサンは怪我をしてるのに、私を気遣ってくれて、やっぱり思ったよりいい人です。
「あの! ご自宅までタクシーで送らせてください!」
「えっ! いいよ、悪いから」
「いえ! ご家族に説明もしないといけません。それに後日お礼をしたいんです」
ここは絶対に引けません。
私が見つめていると、オジサンが恥ずかしそうに言いました。
「家、無いんだ。家族もいない。仕事を今日クビになってね。寮だったから追い出されて、自暴自棄になって君を助けたんだよ。だから、気にしないでくれていい」
あ〜オジサンは、結婚していないんだ。
オジサンの言葉の中で、私はオジサンが独身であることを喜んだ。
「なら、うちに来てください! お怪我の間、お世話をさせてほしいんです!」
「えっ! いや、それは流石に!」
「ぜひ! お願いします! それとお名前をお聞きしてもいいですか? 私は
「おっ、俺は
「ヨウイチさんですね! 私のことはスミレって呼んでください! さぁ、行きましょう!」
「えっ! 行くってどこに?」
私はヨウイチさんの右手を取って病院の出口に歩き出しました。
病院から近い位置に私の家があったので、招待しました。
「私の家にようこそ」
ヨウイチさんは、家に入るのを躊躇っていたけど、私は強引に中に入ってもらった。
絶対にヨウイチさんのお世話は、私がするんだ!
見た目は冴えないオジサンだけど。
命の恩人を放っておけない。
頼りない雰囲気を持つヨウイチさんを、私が面倒みます。
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