ストーカー男に襲われている美人を助けたら、おっさんはヒモになった
イコ
第1話 おっさんになって、クビになって、女性を救う
「あんたなんてクビよ!」
それはいつもの叫び声だ。
また、ヒステリックな
「いいですか? 締切直前ですよ。俺をクビにしたら、間に合いませんよ」
「うっさいわね! 私の言う通りに描けないあんたが悪いんでしょ! 指定した通りの背景じゃないじゃない! こんなオーダーは出してない!」
キャンキャンとヒステリックに怒鳴られるのはいつものことだが、今日の内容はいつもよりもかなり酷い。
俺は漫画家である伊地知大先生の言う通りに背景を描いた。
忙しい中で、何度も確認をとって背景を描いた。
色を塗り終えて提出した後に、このヒステリックな説教だ。
我慢の限界なのはこっちだ。
「わかりました。やめさせていただきます」
ペンを置いて、元々少ない荷物を持ち上げる。
「最初からそう言えばいいのよ! 寮の部屋も今日中に出て行ってよね! これでイライラするのも最後だと思うと正々するわ!」
「そうですか、今日までの給料は払ってくださいね。振り込まれてなかったら訴えますよ」
これはせめてもの意趣返しだ。
「ふん、お金なんてくれてやるわよ! さっさと出ていけ!」
「長らくお世話になりました。スマホも仕事用に借りていたのでお返しします。それでは失礼します」
目の前でスマホのデータを消して、わざわざ初期化までして机に置いた。
俺はクビを言い渡されるのは、五度目だ。
一度目はまだペーペーの頃で、本当に出て行こうとして、当時の先輩に止められた。
二度目は、一人前のアシスタントになった頃に、今と近い背景の違いを責められてクビを言い渡された。だが、当時の編集さんが背景は俺が一番上手いからということで残って欲しいと止められた。
三度目は、背景だけじゃなく色塗りまでするようになった頃だ。
思っていた色とは違うとブチギレられてクビを言い渡された。
当時は、俺以外のアシスタントが誰もいなくて、戻ってこいとスマホに連絡がきた。
四度目は、アシスタントチーフになった直後だ。
先生の漫画の四コマを編集さんに頼まれて描いた。
それが気に入らないとクビを言い渡された。
まぁ見ての通りのヒステリックな伊地知先生だから、クビも四度目になればいつものことかと思って、はいはいと聞き流した。
そのうちに怒りが引いて終わると思っていたからだ。
案の定、怒りは鎮まった。
だが、今回の五度目は、俺としても失敗は許されないと細心の注意をして、確認を何度もとった。
その上で違うと言われ、あまりの理不尽さに納得ができない。
先輩アシスタントはいない。
編集さんも若い子に変わって、昔のように俺を止めることはない。
先生が連絡できないようにスマホも返した。
両親は、少し前に他界して、俺に実家はない。
最低限の荷物を売れる物は売って、下着と数日分の服と通帳だけ持って寮を出た。
そこまでは良かったのだが、寮を出て世間の厳しさを知った。
「えっ? 家が借りれない?」
「ああ、あんた現在は無職で住所なしなんだろ? 保証人もなしじゃどこも借りれないよ」
そう、俺はずっとあのヒステリック伊地知の元で、アシスタントイラストレーターとして働いていた。
そのせいで家族も、友人も、親戚にも連絡が取れなくなっていた。
そんな自分の状況を理解していなかった。
カッコつけて、スマホを返す際に記録の全てを消去してしまったのも悪手だ。
初期化までしてしまった。
だからと言って、今更戻る気にもなれない。
復元されないように入念に全てを消したことで、これまで生きてきた知人関係の情報を失った。
「とっ、とりあえず今日は漫喫で寝るか」
通帳を見れば、アシスタントになってからほとんど金を使っていなかったので、そこそこの金はある。
だが、家は借りれない。
家がないから定職にもつけない。
これからどうすればいいんだ!
「あっ、ヤベっ! 金下ろすの忘れた」
漫喫に行くための金も財布に入っていない。
急いで、ATMがあるコンビニに向かっている途中。
「やめてください!」
「いいじゃねぇか。こっちこいよ」
あ〜どうして、こんなタイミングで?
悲鳴を上げて連れて行かれる女性。
チャラそうな男は、強引に腕を掴んで公園に入って行った
いつもなら絶対に関わらない。
勝手にやってくれよと思う方だ。
だけど、人気が全くない。
女の子は本気で嫌がっているように見えた。
それにクビになって、これからのことを考えるとムシャクシャしていた。
「クソッ!」
スマホを持っていない俺は、コンビニまで走って、女の子が公園で痴漢に遭っていると店員に警察を呼んでもらい。
すぐに公園に向かって走った。
どこにいるのかわからなくて、彷徨っていると「キャー!」と悲鳴が聞こえてきた。
悲鳴の聞こえた場所に向かっていくと、上半身の服を破られ、女の子は押し倒されていた。
「おい、兄ちゃん。女の子が嫌がっているだろ。その辺にしておけ」
俺は近くにあった石を拾って投げつけて、男を威嚇しながら声をかける。
「なんだおっさん! お前には関係ねぇだろ!」
「お嬢さん。こいつは彼氏かい?」
「違います!」
一応、そういうプレイかと思ったので確認をとった。
「だってさ。警察が来る前にどっか行ったらどうだ?」
スマホを見せるようにカバーをちらつかせる。
「ウルセェって言ってんだろ!」
逆上した男はナイフを取り出した。
「おいおい、シャレにならねぇぞ」
「ずっと、この女を狙ってたんだ! やっとチャンスが来たってのに邪魔しやがって!」
おおっと、普通の暴漢じゃねぇのかよ! ストーカーか?
「マジかよ」
びびっちまうよな。
「ハァハァ、どうしてくれんだよ! もういい。お前を殺した後で、この女を!」
目が血走って普通の状態じゃない。
「オラっ!」
「うわっ!」
ナイフが振られて、大袈裟に避ける。
喧嘩なんてほとんどしたことない。
とにかく時間を稼げば警察が来てくれるはずだ。
「逃げんな!」
「逃げるわ!」
ストーカーが女の子から離れた。
「逃げろ!」
「なっ!」
俺の声で女の子が驚いた顔を見せる。
それに気づいたストーカーが振り返ろうとしたので、俺は思いっきり後ろからドロップキックをお見舞いした。
「グハッっ!」
「見様見真似ドロップキック! おっさん舐めんな!」
ストーカーと一緒に地面に倒れ込む。
「グエッ!」
「クッ、クソが、舐めやガァつて」
振り返ったストーカー。
足がもつれて逃げられない! ヤバい。
俺は咄嗟に絵を描くための右腕を庇うように、左腕を盾にした。
左腕にナイフが突き刺さって痛みと腕が熱くなっていく。
「取り押さえろ!」
左腕に痛みを感じたら、ストーカーではない声がした。
目の前でストーカーが捕まっていた。
「えっ?」
「大丈夫ですか!」
警察の人に声をかけられて、自分が助かったことがわかる。
その瞬間に安堵として、女の子を見る。
女の子は逃げないで座り込んだままだった。
女性の警察官に何かかけられて保護されていた。
無事がわかると左腕に痛みが走る。
「すぐに救急車がきます!」
「あっ、はい」
その後は救急車が来るまでの間に止血として腕を縛ってもらって、車で警察の人に事情聴取を受けた。
「無理をしなくていいので」
そう言われながらも意識が朦朧としながら、質問に答えた。
ストーカーは暴れていたが取り押さえられてパトカーに乗せられていく。
俺は救急車で病院に運ばれた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あとがき
どうも作者のイコです。
息抜きラブコメ投稿です(๑>◡<๑)
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