石焼き芋
帰り道 君と食べる 石焼き芋
口に残るは 甘い蜜の味
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『いしやーきいもー いしやーきいもー』
「あ、焼き芋!」
「せっかくだし、一緒に食べてかないか?」
「うん!」
私は健人に連れられて軽トラックへと近づいた。[いしやきいも]と手書きで書かれた看板の下から焼き芋の香ばしい匂いが漂ってくる。毎年、この香りが届くようになると、秋の訪れを実感するものだ。
夕方にもかかわらず、大人から子どもまで多くの人が集まっていた。店主のおじいちゃんは慣れた手つきで石焼き芋を紙に包み、丁寧に渡していく。秋しか見られないこの光景が私は好きだった。
私たちの番がやってくると、スクールバッグから財布を取り出し、おじいちゃんに小銭を渡した。笑顔を絶やさないおじいちゃんから石焼き芋を受け取ると、近くの河川敷に腰を下ろした。
焼き芋の両端を持って真っ二つに折ると、白く香ばしい湯気を従えた黄金の素肌がお目見えになった。ふうふうと息で軽く冷ましてから一口囓れば、さつまいもの優しい香りが鼻を抜け、ホクホクとした食感が口の中を包んでいく。それに加えて、甘さを引き立てる濃厚な蜜が舌の上でとろりと溶けていく。
「ん~!うめ~!」
健人は熱そうにはふはふしながらも、満点の笑顔を向けてきた。胸がきゅっと締め付けられた私は「うん。美味しいね!」と返しながら、ぎこちなく微笑んだ。
健人と付き合ってから半年経ったが、彼のふとしたあどけない表情には全く慣れる気配が見えなかった。普段はちょっぴりクールなくせに、こういうとこでギャップを見せてくるのがほんとにずるい。心臓がいくらあっても足りないくらいだ。
その後はしばらく焼き芋を頬張りながら、部活があーだ、先生がこーだといったたわいもない話にふけった。
焼き芋を食べ終わった頃には陽はほとんど沈み、夜の帳が下り始めていた。軽トラックはいつの間にか姿を消し、子どもたちの姿もほとんどなかった。
「そろそろ時間かな〜」
「このあと塾なんだっけ?」
「うん」
「じゃあ逆方向だね」
空になった包み紙を持ったまま立ち上がり、大きくひと伸びした。肌に触れる冷たい風がとても気持ちいい。
「沙織」
「ん?どうしたの——」
私が振り向いた瞬間、健人は両目を手で覆い隠してきた。そして、唇に柔らかい感触が伝わる。何をされたか一瞬で理解した私は、視界が開けてもしばらく頭の中が真っ白になっていた。
「んじゃ、また明日な」
頬を赤らめた涼しい笑顔を向ける健人は颯爽と塾に向かっていった。
その後ろ姿を回らない頭で見送る。熱くなる顔を夜風が冷ます間、口に残された甘い後味に浸っていた。
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帰り道 君と食べる 石焼き芋
口に残るは 甘い蜜の味
(詠み手:青春の味噛み締める女子高生)
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