第25話

「えぇー、それでは無事に前科者ゼロで終わった事を祝してかんぱぁい!!」


俺の乾杯の挨拶で皆がそれぞれにプラスチックのコップを掲げる。


あの深夜の大騒動から一月後。

約束通りあの騒動に関わった皆でピクニックに来ていた。


愛陰会の人間も半数以上が参加しているのでちょっとしたお祭り騒ぎだ。


結局あの後警察は事態を揉み消す方向となり俺達はスキャンダルを口外しない事を条件に解放された。


ゴリ豚に協力していた彼女達は後日なんらかの理由を付けられて処分されるだろう。


俺からすればこの世界の生み出したバグキャラの被害にあった人達だ。

やった事は勿論許しがたい事だが温情のある処分を期待したい。


「せんぱぁい!食べ物取ってきましたよ!」

「ありがとう璃々。」


璃々から料理が乗せられたプレートを受け取る。

大人数なのでそれぞれが食べ物を持ち寄り1箇所に食事をまとめてバイキング形式にした。

バーベキューセットを持ってきている奴もいるな。


「そのドーナッツは私が作ったやつですよ!」

「お、おぉー、そうかそうか」

「食べさせてあげましょうか?ほら、あーん!」

「やめろ、あいつらに見られたら俺の命日が今日になる。」

 

璃々、自分の作った物を食べて欲しいんだろうが肉と野菜とドーナッツを混ぜこぜに乗せてくるのはどうなんだ。


したことのない食べ合わせを堪能する。

璃々は俺が作ったハンバーグを食べていた。

というか何個持ってきてんだ。

拳大はあるハンバーグを璃々は5つも取ってきていた。


「ちゃんと野菜も食えよ。」

「ふぁかってますよ。」


璃々は俺が料理しにいかないと偏食しがちだ。

あまり甘やかすのも良くないがやはり世話をつい焼いてしまう。


「兄貴〜、料理取ってきたよ〜。」

「うっ、…げっほげほ!」


美咲が両手にプレートを持ってこちらに来ると璃々は喉を詰まらせて咳き込む。


「おい、大丈夫か?ほれ、お茶飲め。」


璃々にお茶をゆっくり飲ませてやる。


「んっんん………、あ、ありがとうございます先輩。」

「あ、中田さん。ごめんなさい、これも飲んで。」


美咲が急に声をかけた事を詫びて璃々にボトルを渡す。


アルコール消毒液の。


「え、えっへへ。だ、大丈夫だよ美咲ちゃん。好意だけ受け取っとくね。」

「いやいや、中田さんには1番それが必要でしょ?そのクソな性根を体内から消毒しなきゃ」

「いやあ〜、ははは………璃々いっきまぁあす!」

「よせよせよせ」


一気飲みしようとする璃々を慌てて止める。

見ての通り美咲は璃々を相当嫌っている。


俺も最近知った話だったが璃々は俺との情事を美咲に動画で送っていたらしい。


そりゃあんなに冷たくなるはずだわ。

俺はそれを聞いた日に前世も含めて人生で1番死にたくなった。

妹にこれまで璃々と行ってきたあらゆる変態プレイ見られていたとは。


2週間前に3人集まってこれまでの行いを一緒に謝罪したが当然美咲は一切許さなかった。


「いやあ〜、凄いですよねぇ。あんだけの事をしでかしといて兄貴に相変わらずベタベタベタベタ」

「………だって好きなんだもん。」

「は?」

「ご、ごめんなさぁい!」


美咲のチクチク言葉に小声で璃々はブー垂れたが握り拳を見せて凄まれると小走りで逃げていった。


「はあ〜」

「あんまり璃々を虐めてやんなよ。」

「はあ!?これでも全然甘い対応でしょ!?本当ならぶっ殺してやりたいのに!」


俺が璃々を庇うと美咲は更に怒気を荒くする。


「兄貴も甘すぎだからね、あいつがやった事って犯罪行為だよ!?」

「まあまあ、俺も何だかんだ楽しんだし。」

「あ?」

「何でもありません。」


これに関しては時が解決してくれるのを待つしかない。

俺としては早く良い関係に落ち着いて欲しいと思っている。

美咲は当然として璃々とも今後とも長い付き合いをしたいと思っているからだ


「ほら、兄貴これ美味しいよ。」


璃々が持ってきてくれた料理を胃袋にかき込み美咲から新たな料理を受け取る。


いなり寿司だった。


「おー、ありがとう。……うん、確かに美味しいな。」

「そう?良かった。いやー、でも料理まで上手なんて本当に志島くんって完璧超人だよねぇ」

「ぶぅう!!」

「うわっ!汚い!」


二つ目のお稲荷さんを口にしていた俺は思わず吹き出す。


い、いや別に他意はないだろう。

勿体無いことをしてしまった。


しかし視界の端に俺は志島を捉えてしまった。

奴はにちゃついた笑いを顔に貼り付けて俺をじっと見ている。

こ、こんなの心のレ◯プだろ。


「ど、どうしたの兄貴………あっ!」


俺を心配していた美咲が急にニヤつく。


「もしかしてまた志島くんに嫉妬した?だから大丈夫だって!ただの友達だから!それに兄貴も料理上手なんだし気にしない気にしない!」

「お、おう。そうだな。」


相変わらず勘違いをする美咲に適当に同調する。


「す、すまん。なんか気分悪くなったからお手洗い行ってくるわ…」

「えっ?大丈夫?一緒に行こうか?」

「いや、大丈夫だ…」


俺は志島の視姦から逃れるべくこの場を離れる。


「ん?」


お手洗いまでの道中で純一を見かける。

誰かと楽しそうに話している。

白峰だ。


あの大騒動には関係なかったが折角なので黒岩と一緒に誘ったのだ。


「じゅ、純くん。ど、どうだ?」

「うん?うーん、美味しいよ!みーちゃん!」

「そ、そうか!良かったぁ…」


白峰は自分の手料理を好きな人に褒められて素直に喜んでいた。

うーむ、白峰か。


彼女は俺との性教育(座学のみ)によって原作とは違って容易に寝取られるようなキャラクターではなくなった。

純一は明確に魅李が好きなのであまり考えてはいなかったが彼女が純一の恋人になる方がもしかしたら手っ取り早いかもしれない。

純一と白峰。

付き合いが長いのは純一の方だが信頼度は白峰の方が上だ。


まあ、頑張ってくれ白峰ちゃん。

こっちはこっちで魅李ルートを進めておくからさ。


俺はクズなことを考えながら彼女にエールを送って話しかけることなくその場を後にした。


「よ、よし。う、ウィンナーを食べさせたぞ。異性が2人の食事でウィンナーを食べるのはセックスアピールだったな…、き、今日私は処女を卒業してしまうかもしれないぞ先生」

「ん?なんか言った?みーちゃん。」

「い、いや何でもないぞ!純くん!」



クソみたいなネット情報を鵜呑みにしている様では白峰ルートもまだまだ遠そうだ。

先生はそんなアフィブログの記事を参考にしろとは教えてないぞ。


ーーーーーーーーー

「縁助くん、おかえり!」

「おっ!魅李ちゃん。」


お手洗いから戻ると魅李に声をかけられる。


「はい、これどうぞ。」

「ありがと〜魅李ちゃん!」


魅李からお茶の入ったコップを受け取る。


「縁助くんもうお腹いっぱい?いろんな人から貰ってたもんね?」

「え、いや大丈夫。まだまだ全然入るよ。」


彼女は俺の返答に嬉しそうな顔になる。

そして持っていたプレートをアピールするようにこちらに見せてくる。


「良かった!じゃあ良ければだけど…、私が作った卵焼き食べてほしいな。」

「ありがと、魅李ちゃん。」


彼女から卵焼きの乗った食器を受け取ろうとしたが彼女は割り箸で卵焼きを一つひょいっと取ると俺の口元に突き出してくる。


「あ、あ〜ん。」

「えっ!?」

「あ〜ん!」

「いや、えーっと。」


俺は彼女が急に餌付けをしてきた事に固まってしまう。

ど、どう反応すれば良いんだ?


「だ、駄目かな?やっぱり…」

「いや、ダメっていうか…」


俺が卵焼きに口をつけようとしないので魅李がしゅんとしてしまう。


た、食べるか?

でもこんな人がいる中で…

いやお手洗いから近いここは皆と若干離れてるから見られてないかもしれない。


「やっぱ純一に悪いし…」

「…っ!もう!」

「むぐぉ」


もじもじしていた俺の口に魅李は無理矢理卵焼きを捩じ込む。

俺は致し方なく卵焼きを咀嚼する。


「お、美味しいかな?」

「う、うん美味しいよ!魅李ちゃんの母乳から作ったのかな!あっははは!」


俺は照れ隠しに結構最低な下ネタをかます。


「そんな風に誤魔化さないで、欲しいかな」

「えっ…?」


それはゲームの様に暴力はなかったが彼女の俺のセクハラに対する反応としてはとても冷たかった。

思わず言葉を失ってしまう。


「あっ!ご、ごめんなさい。私なんて事を…」

「いやいや、気にしないでよ!悪いの俺なんだからさ!」


ダメだ、何だこれ。

いつもの感じじゃない。


魅李は俯いてぶつぶつ何かしら口の中で呟いている。

そして顔を上げてこちらを見た。

あの意志の強い真っ直ぐとした瞳が俺を見る。


「縁助くん。縁助くんって、私と純一をいつも2人っきりにしようとしたり一緒にいても自分だけどっか行くよね。」

「え、いやぁ、それは」

「縁助くんが思ってる事は分かるよ。私達に気を使ってるんでしょ?でもね、私が好きなのは」

「ちょっ、ちょっと待ってよ魅李ちゃん!」


「縁助くんなの!」


俺は知っていた。

そして純一も分かっていた。


彼女の心がついに言葉となって世界に発せられた。


彼女は顔を真っ赤にしている。

まるで全力疾走した後の様に息が荒くなっている。


「…ご、ごめん。急に、困るよね縁助くんも。」

「いや、なんていうか。」

「でも、私は縁助くんが好きなの。だから私から離れて純一と2人っきりにしようとしたりとか純一を理由に私を遠ざけて欲しくないの。それが、私とても辛いから…」


彼女は泣きそうになっていた。

きっと彼女もこの場で急にそんな告白をする気はなかったのだろう。

俺がつい純一を言い訳に彼女の好意を退けようとした事と…、まあ彼女は成長したのだろう。

しっかりと自分の意見を言える強い人間に。


「そ、それに純一も私のことなんてただの幼馴染としか思ってないだろうし!」


うーむ、この鈍感幼馴染ズ共め。


「ねぇ、縁助くん。今すぐに答えが欲しいわけじゃない…ていうかむしろしてほしくない。私の事なんて縁助くん、恋愛対象になんて見てないだろうし…」


本当に鈍感だな。


「でも私が縁助くんが好きだって事は知っていて欲しい。出来れば他にも私の事知って欲しい。私も縁助くんの事が知りたい。」

「魅李ちゃん…、俺は…」


俺は何て言えば良いんだ?

いや、そんなの決まっている。

断るんだ。


彼女の告白を受け入れれば俺は死ぬ。

彼女は純一と付き合わなければいけないんだ。


でも勇気を振り絞って俺に告白してきた彼女に対して誠意ある回答をしたい。


俺は彼女の事を尊重すると決めたんだ。

だから俺は彼女に伝えなければいけない。

ちゃんと付き合えない理由を。


「ごめん。魅李ちゃんとは付き合えない。」

「………うん、そうだよね。ごめんね告白しといて返事は待ってって意味分からないよね。あ、ありがとう、こ、こたえてくれて…」

「聞いて、魅李ちゃん。俺も魅李ちゃんの事好きだよ。」


俺の答えに涙を我慢した震えた声で話す彼女の話を遮る。


「えっ?でも…」

「俺、魅李ちゃんの事好きだよ。…璃々も美咲も、今日誘った白峰ちゃんや黒岩ちゃんも」

「あ、ああ、そういう好き、だよね。」

「いや、ちゃんと恋愛対象としての好きだよ」

「えっ!?美咲ちゃんって妹さんでしょ!?」

「まあ、つまり俺ってめちゃくちゃ人の事を好きになっちゃうチョロい男でさ。何なら魅李ちゃんの事は四年前ぐらいから好きだったよ。」

「えっ?えっ?えっ?」


俺からの話に魅李は目を白黒させる。


「だから、魅李ちゃんからの告白は正直すげぇ嬉しいよ。でも、俺は純一が彼女出来るまで彼女作らないって決めてるんだ。」

「な、なんで?」


俺は彼女に理由を伝えた。

ゲームの話をしても意味がないので俺が付き合わない理由だけを伝えた。

俺は純一が彼女を作る、つまり純愛ルートに向かうまでは誰とも付き合う事はないと。


「理由は言えない。でも本気だ。」

「…そ、そうなんだ」


魅李は若干顔が引き攣っていた。

そりゃ友達に彼女が出来るまで彼女作らないという謎の縛りプレイしている人間がいたらこうもなろう。


だが前向きになった彼女はそれでも諦めなかった。


「じゃあ純一が彼女出来るまで私も待つ!」

「へぇあ?」


俺は純一に彼女が出来るまで彼女を作らない、魅李も純一に彼女が出来るまで恋人を作らない、純一は魅李が好き。


うん、俺たち一生独り身だね。

いや、そんなわけあるか


「いやいや魅李ちゃん。それはおかしいでしょ。」

「おかしい事言ってるのは縁助くんも一緒だよ!」


俺は彼女の正論に閉口した。

しかし彼女まで守備表示で恋愛に事を構えられたら俺はどうしたら良いんだ。


しかし魅李は健康的な笑顔で俺の事を励ます。


「大丈夫!多分純一に彼女出来るのも直ぐだよ!さっき白峰さんと楽しそうに話してる所見たし!」


彼女は喋ってる途中で良いことを思いついたかの様に手を叩く。


「そうだ!私、あの2人が付き合える様に手助けする!白峰さん、純一の事を好きに見えるし、純一も満更でもなさそうだったしね。」


なるほどなるほど。

確かに彼女にとっては良い案だろう。


つまり魅李は白峰と純一が付き合える様に手助けをし

俺は純一と魅李が付き合える様に手助けするわけか。

そして純一は魅李が好きで魅李は俺が好きなわけね。


なるほどなるほど。


ややこしぃ〜


頭を抱える俺とは対照的に魅李は自信満々な顔で俺に宣言する。


「縁助くんをそんなに待たせたりしないから安心して!」


ーーーーーーーーー


「ややこしい〜!」


大勢のピクニックが終わり、後片付けも終わり公園からまた1人また1人と去っていく中で俺と純一は芝生の上に寝っ転がっていた。


俺が先ほどの魅李に言われた事をそのまま伝えると純一は頭を抱えて吠えた。


「うるせえなあ」

「えっ、俺これから好きな女の子に別の子にくっつけられる様に立ち回られるの?そんな残酷な事あるのか!?」


ちなみにそれを全員の気持ち把握していた上でやっていたのが俺だ。

マジで俺って最低だよな。


「というかみーちゃんが俺の事好きって勘違いされてるし」


本当にお前ら鈍いな。

頭が痛くなってくる。


「ああー、もうどうすりゃ良いんだよ!ていうかお前何で魅李の告白断ったんだよ!」

「言っただろ、お前が彼女作るまで作らないって決めてるって」

「は?だから何で…、いや、お前もしかして。」


純一は珍しく真剣な顔となる。


「もしかして小学二年生の時のケイドロの罰ゲームまだ守ってんのか?」

「んなわけねぇよ!?」


真剣な顔で何を言い出すかと思えば昔、遊びの罰ゲームでハゲるまで彼女作っちゃいけない罰を課せられた事を言う純一。

こいつの頭は本当にヤクもやってないのに飛んでやがる。


「とにかく、俺は引き続きお前のサポートしてやるから頑張れよ。」

「いや、もう完全に脈ないだろ…」


俺も正直そう思っている。

最早真剣に考えるのがめんどくさくなってきた。

だけど…


「分かんないだろ、この先人生長いんだ。10年後には状況も変わってんだろ。」

「10年後だと俺の気持ちも変わってる可能性が高いんだが…」


その通りだ、関係性も気持ちもずっと同じのままにはならない。

時は止まらず過ぎ去っていく。


「ま、何があろうとお前が彼女作るまでは俺も作れねぇからマジで頼むぜ。」

「いや、だからさぁ」


ぐちぐち言う純一を無視して俺は起き上がる。


「本当に頼むぜ。寝取られエンドも嫌だがお前との友情エンドなんてあったらゾッとするぞ」

「何の話だよ」


同人エロゲーの話だよ。

お前に言っても分かんないけどな


「はぁーあ、何でお前の友人なんだよ、俺はよぉ、本当についてねえよ」

「おい、良い加減キレるぞ俺も。」


童貞卒業も出来ずに死んだと思ったら大して思い入れもない同人エロゲーの世界で理不尽に死ぬキャラクターになって酷い目に合う毎日。

神に嫌われてるとしか思えない。


だがもうこの世界は俺にとっての現実で、ゲームには思い入れなどなかったがこの世界で出来た関係性はとても大事なものだった。


だから俺は今日も明日もこのリアルを生き抜いていくためにクソ同人エロゲーを攻略していく。


「なあ、純一。ちなみにだけどよ、お前って処女厨?」

「は?」

「いや、俺も我慢してるけどさ。もし魅李ちゃんにまた誘われた場合どこまでOKかなって、キスは?おっぱい揉むのは?どこからアウト?」

「つ、付き合う気ないなら全部アウトだボケ!」


この抜きなしの同人エロゲーをな。



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寝取られ系同人エロゲーの友人キャラに転生した~主人公が寝取られたらなんやかんやあって俺は死ぬ~ @kikikuki

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