俺の名前は佐藤純一。どこにでもいる高校生だ。(純一視点)

血を流して倒れる縁助を置いて俺は階下へと降りる。

一階には服で縛られた状態で放置されている男達がいた。

上にいる毒島の仲間たちだ。


人数差があった事と不意打ちだった為そこまで苦労する事なく制圧できた。


ここまで一緒に来てくれて協力してくれたクラスメート達は一旦建物から離れてもらった。

ナイフを持った毒島が降りてくる危険性を中田が伝えてくれたからだ。


建物を出ると入り口近くで待機していたクラスメート達に声をかけられた。


こんな近くで待ってくれていたのか。


「純一!猿渡は?」

「刺されて重症。救急車を呼んだよ。悪いんだけど縁助に着いててくれないか?」

「え?いや、マジで!?嘘だろ!?」


端的に情報共有するとクラスメート達はパニックになった。

無理もない。

クラスメートが刺されたのだ。

俺は彼らを横目に見ながら携帯のアプリを使ってタクシーを呼ぶ。

5分ほどで来るみたいだ。

駅までの距離を考えるとタクシーで行くのが1番魅李の下へ早く着く。

出費はかさむが縁助のあの様子からそうすべきだと判断した。

正直今も何が何だか分からない。

今はどう考えても縁助のそばにいるべきだ。

パニックになりながらも建物の中に戻って行こうとするクラスメート達が動こうとしない俺を見て困惑した様子で声をかけてくる。


「じゅ、純一?どうしたんだ?早くいくぞ。」

「俺は行かない。タクシーで魅李の所へいく。」

「えっ、はぁ!?…もしかして中里も何かあんのか?」

「いや、バイトしてるだけだと思う。」

「おまっ…、えっ?どういうこと?」


そう聞かれるが俺も分からない。

俺が魅李の元へ向かう理由は縁助に言われたからだ。

それ以外の理由はない。


親友が重体で倒れているのに大した理由も言わずに別の場所に行こうとする俺にクラスメート達は怪訝な顔をする。

そりゃそうだろう。


俺も同じ立場だったらとんだ鬼畜野郎と思う。


「じゃあ縁助の事は頼んだぞ!」

「お、おう。」


ドン引いた様子のクラスメート達に見送られながらタクシーへと乗り込む。


縁助のあの様子。

魅李が危険な目にあうのをいつも止めてきた感を俺は信じる。


どんな危険であれ自分の命の危機の中でも魅李を心配する奴に俺は苦笑する。


俺は側から見ればどんなに異常な行動でも魅李の元に向かわなければならない。


それが縁助に対する俺ができる1番の誠意ある行動だ。


死ぬなよ縁助。


「あ、全然高速とか使っていいんで。」


タクシーの中で決意を新たにし俺は目的地へと向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「魅李ぃいいい!!」


俺が魅李を助ける!

という熱い気持ち持って彼女がバイトする店へと乗り込んだ俺だったが店内は驚く程普通だった。


突然ドアを勢いよく開けて乗り込んできた俺に対して店内の人間達は異常者を見る目を向ける。

その中には魅李もいた。

カフェの制服に身を包んだ魅李に一瞬ときめく。

以前見た時と同じスカートの丈が短く少し煽情的な恰好だった。

それを前に指摘した時は制服だから仕方がないと言われて殴られた。


「じゅ、純一?」

「魅李!さぁ行くぞ!」


俺は顔が真っ赤になっていくのを無理矢理誤魔化し魅李の手を取る。

しかし彼女は当然の様に抵抗した。


「いやいや、急にどうしたの?まだ仕事中なんだけど・・・」

「良いから良いから」

「良いからって。良くないって」


魅李は俺を片手で押しのけると小声で注意をしてくる。


「純一。恥ずかしいから止めてよ。急にどうしたの?」

「俺も分からない。でも縁助がお前を連れ出せって言うから。」

「縁助君が?・・・ていうか純一。縁助くんにバイトの事言ったの?気にされるから言わないでって何度も言ったよね?」


縁助にバイトをしている事を隠していた魅李が俺を睨みつける。

俺は慌てて弁解する。


「事情があったんだって!」

「・・・良いから大人しくしてて。話があるならあと1時間もすれば休憩入るからどっかで待っててよ」


呆れた顔をしてバイトに戻ろうとする魅李を見て俺は焦る。

縁助、なんか話が違うぞ。

明らかに店内はごく普通の日常でしかない。

この場での異物は俺だけだ。


「な、中で待つ!」

「えっ?・・・まあ良いけど。」


縁助の言う通り魅李を連れ出す事は出来なかったがせめて店内にいる事にした。

もしかしたら今回は縁助の取り越し苦労かもしれないがここで大人しくこの場を去っては重体の縁助を置いてここに来た意味がない。


しかし、後で魅李にぶち切れられる事確定だな・・・。


俺は縁助の事を話した時の彼女の反応を考えて憂鬱になる。

縁助・・・。絶対に死ぬなよ。

俺の命の為にも。


俺は魅李にコーヒーを頼んで席へと着いた。


特に何も起きる事無く一時間が過ぎた。


そして店員達が店内でくつろいでいた客たちに声をかけ始めた。

なんだ?

声を掛けられた客達は席を立ち帰っていく。


何人かに声を掛けた魅李は俺の方まで歩いてくる。


「お待たせ、純一。店長さんに声を掛けてから行くから外で待ってて。」

「魅李。なんで皆帰っていくんだ?」

「えっ?ああ。」


俺の疑問に魅李は店内を振り返りつつ説明してくれる。


「今日はなんか常連さんだけで貸し切ってイベントするんだって。」

「イベント?」

「私も詳しくは知らないんだけどね。だから純一も外に出て。」

「あ、ああ・・・」


俺は魅李に言われて出ていこうとするが縁助の言葉が脳裏をよぎる。


「い、いや俺は出ない。」

「えっ?ちょっと純一。何がしたいの?今日なんか変だよ?」


魅李が心配した様子で俺を見る。

そりゃ変に決まっている。

自分で理由の分からぬままに死にそうな目にあっている親友をおいて幼馴染のバイト先に乗り込んで仕事を邪魔しているのだから。


「俺はここに残る!もし出るなら魅李も一緒だ!」

「声大きいって!いい加減にしてよ!」

「魅李ちゃん。どうかしたの?」


カフェの一角で騒いでいる俺たちに誰かが近づいてくる。

彼も魅李に負けず劣らずにカフェの店員にしては薄着だった。

腋が出ている制服を着たカフェ店員など見たことがない。

髭を生やしてサングラスをしているのも相まって独特の変人感をかもしだしている。


「店長」

「彼、魅李ちゃんの友達?なんか揉めてるみたいだけど。」


魅李に店長と呼ばれたその男は少し不快感を感じる目つきで俺を見てくる。

大人に睨まれるという状況に気力が削がれるが自分の気持ちを奮い立たせる。


「俺もここにいさせて貰います。良いですよね!」

「いやいや、君ぃ。魅李ちゃんの友達かなんか知らないけど。今日は常連だけ。要は内輪だけで楽しむ日なんだよ。悪いけど出て行ってくれないか?」

「もしそうなら魅李も一緒です!」

「純一!止めてって!」


バイト先の店長と口論する俺を魅李は止めようとする。

店長は鬱陶しそうにこちらを見ていたが急にニヤニヤしはじめる。


「・・・。わかったよ君も参加すると良い。」

「て、店長良いんですか?」

「まあ本来は駄目だけどねぇ。魅李ちゃんの友達なんだろ?特別だよ。準備するから

暫く魅李ちゃんは休んでなさい。休憩室に彼と居てていいよ。」

「えっ?・・・。分かりました。すみません店長。」


魅李は店長に会釈すると休憩室まで俺を連れていく。

そして部屋に入るやいなや俺に詰め寄る。


「純一!どういう事!?仕事の邪魔しないでよ!」

「お、落ち着いてくれ魅李。俺も何が何だか分からないんだ。でも縁助が・・・」

「縁助君を言い訳に使わないで!」


今回の事で大分魅李を怒らせてしまったが何とか縁助に言われた通り魅李を守れそうだ。

魅李はため息をついた。

俺は聞きづらかったが魅李に質問をする。


「魅李、このバイト先って大丈夫なのか?」

「えっ?」

「縁助にお前がここでバイトしているって言ったらお前をここから連れ出せって言われたんだよ。鬼気迫った感じでさ。ここって大丈夫なのか?」


俺は魅李の全身を見る。


「制服もそんな薄着だしさ。」

「んー、確かに普通の喫茶店じゃないかも・・・」


魅李は俺の言葉に考え込む。


「この制服もさ、最初は別に普通だったんだけど店長にこっち着てほしいと言われたんだよね。」

「そうなのか?」

「最初は断ってたんだけどね。でも給与上げるからって言われてさ。」

「それで着たのか?」

「ううん、断った。恥ずかしいしそんなに直ぐにお金欲しいわけでもなかったし。でもそしたらカフェのコンセプトに合わせられないなら辞めてもらうって言われて・・・」

「それで着たのか!?」

「ううん、別に他のバイトすればいいし。その、やっぱり人の前で肌を見せるのはちょっと。」

「じゃあ何で着てるんだ?」


今の話を聞くと彼女はこのバイトを辞めてなければおかしい。

魅李は俺の疑問にこちらに顔を寄せて内緒話をする様に潜めた声で話し始める。


「辞めようとしたら凄い店長に引き止められて。一人が恥ずかしいなら自分たち男性スタッフも薄着の制服着るからって言われて。それで・・・私思い出したの。」

「何を?」

「縁助君、前に行ってたでしょ?ここって・・・、その、男性達同士の憩いの場だって。」


俺は縁助が保健室で話していた事を思い出す。

確かに縁助はここを発展場で同性愛者達の憩いの場だと言っていた。


「だから店長がこの服を着てほしいって言ったのって口実なのかなって」

「どういう事?」

「本当は肌を晒した格好をしたいのは店長達、男性スタッフなのかなって。でも彼らだけがあの恰好だと。その変に誤解されちゃうでしょ?」


それは誤解ではないと思うけど。

余計な茶々を入れたくなるが我慢して話を聞く。


「だから唯一の女性スタッフの私も似たような薄着の恰好させる事で、そのそういった雰囲気を和らげたかったのかなって。」

「それで続けることにしたのか?」

「うん・・・、恥ずかしいけど。そのお客さんや店長達が女の子に興味ないって考えたら私のリハビリにも丁度いいかなって思って。」

「じゃあ変な事されてないのか?」

「う~ん。」


俺の言葉にまた考えこむ魅李。


「やっぱり何かされたのか!?」

「いや、そういう訳じゃないんだけど・・・。何だろう、やっぱり同性にしか興味ないと逆に異性には気安くなるのかな?結構友達みたいな感じで距離が近いんだよね。」

「えっ、それって大丈夫なのか?」

「うん、大丈夫だよ」


心配するが魅李は気持ちの良い笑顔で返答する。


「ボディタッチは流石に止めて欲しいから抵抗してるよ。これで。」


魅李はそういうとペンを取り出した。


「何それ?」

「小型のスタンガン。」

「スタッ・・・、やりすぎじゃないか?」


今度は逆に店長達を心配する俺。


「大丈夫。縁助君に貰ったんだけどジョークグッズくらいの威力しかないんだって。男友達に触られそうだったら気軽に使ってって言われてたんだ。」

「じゃあ店長達も大丈夫なのか。」

「うん、これ使うと私が嫌がっているの分かったのか謝ってくれたよ。私に興味ないのは分かってるけど・・・。やっぱりまだちょっと触られるのは、ね。」

「そうか・・・」


俺はとりあえず魅李の話を聞いて安堵する。

どうやら縁助が心配していた様な事態とはならなかった様だ。

しかし逆に魅李の顔色は悪くなっていた。

どうしたのだろう。


「どうしたんだ?」

「いた、話してて思ったんだけど。純一もしかしたら危ないかも。」

「えっ?何で?」

「いや、ここってその男性同士が愛し合う人たちが集まる場所じゃない?で、今日はその店の常連さん達だけで内輪のイベントをするでしょ?じゃあそのイベントって・・・」


魅李の言葉を段々と理解し始める俺。


「いや、でも俺にそっちの趣味はないぞ?」


俺は表情を引きつらせる。


「でも純一が頑なに残ろうとしたから・・・もしかしたら店長さん勘違いしちゃったかも。」


俺は先程のニヤニヤとした顔の店長を思い出す。

あれはよく考えると獲物を狙う狩人の目だった。

その対象は………俺?

魅李と顔を見合わせお互いに顔を青くする。


「と、取り合えず出よう!店長に誤解を解かないと!」

「そ、そうだな!」


まずいぞ、冗談じゃない。

仮に俺が同性愛者でも初めてがこんなプロ集団達との乱パなど御免被る。

魅李を救いに来たつもりが俺が窮地に陥ってしまった。


休憩室を出て店の中へと戻る。


「これは?」


店の中は先程と違い暗くなっていた。明かりは消されて窓はカーテンを閉められていた。

その中で男達がニヤニヤとこちらを見ていた。


「て、店長?」

「やあ、魅李ちゃん。ようやくメインが来たみたいだね。」


魅李に声を掛けられた店長が濁った笑顔でこちらを見る。

メイン?もしかして・・・俺の事か!?


「店長!すみません!純一は違うんです!彼は返してください!」

「?・・・、はっは。いやいや彼にも存分に楽しんでもらおうじゃないか。友達が楽しんでいる様子を見たいだろう?」


魅李が説得を試みるが店長は聞く耳を持たない感じだ。

まずいぞ。このままだと俺は魅李の前で処女を失ってしまう。

いや童貞か?


魅李と一緒に走って入口まで逃げようとするが肩を掴まれて止められる。


「お前はこっちだ。」

「は、放せ!」

「がっ!」


掴んできた男に申し訳ないと思いつつも肘鉄を食らわせて抵抗する。

しかし周りを男達に囲まれてしまった。


「無駄な抵抗すんなよ。」


人数が多すぎる。

やばい、やばいぞ。


「店長!純一は帰してください!」

「くっく、折角狙っていた獲物をようやく手に入れられるんだ。彼にはオードブルとして居てもらわないと、ね。」

「えっ?」

「本来獲物はじっくりと堕とすのが好みなんだけどねぇ。君が思ったよりも抵抗するから強引な手を取らせてもらう事になってしまったからね。せめて添え物に彼がいないと。」

「?・・・どういう事ですか?店長?」


魅李と店長が何やら話しているが周りでいやらしい目で俺の事見てくる男達が気になって話が入ってこない。

人から性的な目で見られるってこんなに精神的に辛いものだったのか。

魅李の気持ちを一部理解しながら俺は冷や汗をかく。


「それじゃあ、お楽しみの時間だ。」

「ごらぁあああああああ!!!」


店長が男達に指示を出そうとした瞬間カフェの扉が何者かによって蹴破られた。

そいつは中に入るやいなや近くにあった椅子を手に持って振り回し始める。


「やっぱ純一はどうしても信頼出来ねぇ!!掛かってこいカス共!」

「せ、先輩!病院に戻ってください!」


俺に対して侮辱の言葉を吐いたそいつはよく見れば親友だった。

あいつ刺されたケガはどうしたんだよ!

傍らには中田もいた。


「縁助!?お前大人しくしてろよ!マジで死ぬぞ!」

「え、縁助くん!?どうしてここに?」

「な、なんだこいつは?」


困惑する俺らににやりとした顔をする縁助。


「安心しろ。俺は死なねぇ。一緒に魅李ちゃんを助けるぞ純一!」


先ほどのナイフによる負傷を欠片も感じさせない頼もしい顔だ

しかし縁助。残念ながら危ないのはこの場では魅李でなく俺らだ。


急な乱入者に場は騒然としたが男達は縁助の方にも向かっていく。


当初ここに乗り込んだ理由は変わってしまったが俺のやる事は変わらない。

俺の貞操。そして親友の貞操を守る為に俺は戦う。


魅李と顔を合わせる。


「なんか訳わかんなくなったけど取り合えず縁助を守ろう!」

「う、うん。ごめんね私のバイト先の所為で・・・」


近くにいた男に前蹴りを放ち道を切り開く。

別の奴から脇腹を殴られるが気にせず別の相手に頭突きをする。


この程度で俺が怯むわけがない。怯むわけには行かない。

縁助は刺された体なのに俺らを心配してこの場に来た。


俺は佐藤純一。猿渡縁助の親友だ。

なら俺はどんなに痛めつけられようがこの場で泣き言はいえない。

奴の親友でいるために。

そして、男でいるために。





















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