第15話

 薬蔵からパクったチャリで電話の男に指定された場所へと急ぐ。

不幸中の幸いで中年となり非力となった馬力を補う為か奴の使ってたチャリは一丁前に電動だったのでかなり早くその場所に着いた。

先程ネットで調べたが場所は郊外にある廃墟だった。

ネット情報を軽く見たがチンピラ達の溜まり場になっていると記載があった。

廃墟の前にはバイクが複数台あった。

中には複数人が待ち構えてる事がこれで分かった。

俺は入る前からゲンナリする。

立ち入り禁止の看板を無視して中に入る。

一階のフロアに人の気配はない。

光が入りづらい場所にあるためか薄暗く埃っぽい。

フロアを軽く探索する。

念の為逃走時のシミュレーションなどを諸々しておく。

ボロボロの階段を慎重に上がる。

上がった階の奥の方にボロいソファがありそこに男が座っていた。

ってあいつかよ。

俺は意外な顔を見て驚く。


「おいおい、毒島先輩。ナンパの仕方と日本の法律を忘れたんかよ。」


俺はわざと大声をあげて待ち構えていた毒島に近づく。

毒島は俺の言葉に余裕ぶった振る舞いで返答する。


「最近きめぇ奴に邪魔される事が多いからな。アプローチの仕方を変えたんだよ。」

「そうっすか、でももう少し頭使った方が良かったっすね。」


俺は途中拾ってきた拳大の石を毒島に向かって投げつける。

石は奴の右足のふくらはぎに当たった。


「がっ!…て、てめぇ。いきなり何しがやる!」

「それはこっちのセリフだわ。まさか俺がお話ししにきたとでも思ってんのか?…璃々は何処だよ。」

「璃々?あー、あのお前の女の事ね。」


急に石を投げられ怯んだ毒島だがすぐに余裕な表情を作って見せる。

俺はポケットから二つ目の石を取り出す。

それを見て毒島は余裕を崩して何処かへと呼びかけた。


「ま、待て!おい!」


毒島の呼び掛けに暗がりから璃々を連れた男が2人出てくる。

璃々は下着姿だった。

意識は混濁している様でフラフラと男達に両脇を掴まれて無理矢理立たされている。


「せ、先輩…」


弱々しい声で俺を呼ぶ璃々。

先程画像を見たときの様に激情に体を支配されそうになるが無理矢理気持ちを落ち着ける。

落ち着け。落ち着かなければ璃々を助けられない。


「女1人によってたかって…終わってんなお前ら。」

「あー?うるせぇよ。変態野郎。で…どうすんだ?」

「どうって…、何が?」


惚ける俺に毒島は顎をしゃくって璃々を捕まえている男達に指示を出す。

わざとらしく拳を振り上げて璃々を殴ろうとする。


「ひっ…!」


短くか細い悲鳴をあげる璃々。


俺はそれを見て持っていた石を投げ捨てる。


「ちっ…。」

「そうだよ。そうやって大人しくしてろよ。」


無抵抗になった俺に毒島はニヤニヤしながら近付いてくる。

先程石を投げられて負傷したからか少し歩きづらそうだった。

そして俺の方まで来ると腹を殴ってきた。


「ゔっ…!」

「先輩っ!」


胃袋の中を吐きそうになるが我慢する。

そして奴に今度は下がった顔面をアッパーで殴られる。

学校が終わってからこれまで今日は殴られ続きだ。

崩れ落ちた俺の背中を毒島は思いっきり踏みつけてくる。


「やめて!先輩を傷付けないで!」

「おーい!お前らこい!」


璃々の必死の嘆願を無視する毒島。

奴の呼び掛けに今度は3人上の階から降りてくる。


「なんすか?先輩?そろそろ犯すんですか?」

「ああ、その前にちょっとした下準備だ。こいつ押さえつけとけ。」


こいつら何人いるんだ。

下衆な会話をしながら現れた3人の内2人に体を押さえつけられる。

毒島はそれを見て璃々の方に近づくと髪の毛を掴んで先ほど座っていたソファまで彼女を連れて行く。


「なあ、猿渡。お前って好きな女が目の前で犯られんのって好きか?」

「…好きなわけねぇだろ。」

ゲームだと好きだけどな。


俺の返答に下衆な顔を更にニヤケされる毒島。


「へー、変態だから好きかと思ったよ。そこら辺は俺と一緒だな。…でも、それじゃあこれから見る光景はちょっと辛いかもなぁ」


毒島は下着姿の璃々の身体をまさぐり始める。

璃々は怯えた表情で抵抗しない。

怖いから抵抗出来ないのではない。

俺の事を考えて抵抗をしないのだ。

クソ、今は俺が人質扱いか。


「おい!そのふざけた事をやめねぇと後悔させるぞ!」

「おー、こえー。気迫だけは一丁前だな。やってみろよ。」


俺の無意味な脅しに嘲笑する毒島含めたチンピラ共。


「なあ、変態野郎この女にどこまで仕込んでんだ?」

「…調教されてんのは俺の方だっつの。」

「あ?」


俺が小声で言った言葉が聞こえなかったのか不愉快な顔で毒島が聞き返してくる。


「まあ、いいや。…なあクソビッチちゃん。あんな短小じゃあ届かない所まで今日は挿れてあげるからなぁ?」


下衆が舌なめずりしながら璃々に顔を近づける。

お互いの顔の間に手のひらを挟んで抵抗する璃々。


「や、やめてよ!」

「…ん〜?まあ抵抗すんなら抵抗するんで良いけどよぉ〜。」


毒島は俺を取り押さえている男2人に手の動きで指示する。


片手を掴まれ骨を折られそうになる。

激痛に声が出そうになるが耐える


「ぐぅぅ…!」

「くへへ。女犯るよりこっちの方が楽しいかも♪」

「せ、先輩!いや…やめて!」


俺の方に寄り添おうとする璃々だが毒島に肩を掴まれて阻まれる。

涙目で璃々は毒島に懇願する。


「お、お願いします。言うとおりにしますから。何でもしますから…先輩には手を出さないで下さい…」

「…はっ、ははは!聞いたかよ猿渡!愛されてて羨ましいねぇ。お前みたいなのがこんなに好かれるなんて驚きだぜ。…しかし女に守られて恥ずかしくねぇのか?えぇ?」


璃々の優しさを俺を嘲笑するネタに使った毒島は再度顔を彼女に近づける。

今度は璃々は抵抗しない。


確かに俺は情けない。

これじゃあ純一を笑えない。

だが俺をそこらの寝取られゲーの主人公と一緒にするなよ毒島。

俺は痛みに耐えながら璃々に向かって叫ぶ。


「おい!璃々!抵抗しろ!そいつのチンコを蹴っ飛ばして逃げろ!」

「せ、先輩…でも…。」


俺が璃々に発破を掛けるが彼女は及び腰だった。

毒島はニヤニヤした様子で見守っている。

自分の都合の良い通りに事が運ぶと思っているのだろう。

舐めやがって。


「璃々!良いか!俺のためを思うなら抵抗しろ!もしお前がこの男にやられたら俺は自殺するぞ!」

「せ、先輩!?」

「お前何言って…」

「俺の骨が折られようがどんだけボコボコにされようが気にすんな!俺はお前が傷付く方が嫌なんだよ!」


寝取られゲーのヒロインはやれ主人公の部活での立場だの、会社での立場、推薦の話など様々な脅迫を盾に間男にいいようにされ従わされるが主人公にとって1番辛いのは結局ヒロインが奪われる事なのだ。


俺も死にたくはないがこの場で辛いのは大切な後輩でご主人様の璃々の心と身体を汚されることだ。

骨を折られようが多少ボコボコにされようが璃々を助けられるのならそれが1番良い。

心の傷は体より治りにくいのだから。

 

「お前うるせぇよ!」


毒島は余裕な表情を消して指示を男達に出す。

抑え込み役から外れていた男から顔を蹴られる。


「先輩!」

「璃々!守るって言って俺を蚊帳の外にすんな!一緒に戦わせてくれ!」

「先輩…」


寝取られゲーのヒロイン共はなんでも自分で抱え込んで解決しようとする。

そこを寝取りチンポ共につけ込まれる。

だが俺は寝取られゲーの友人キャラで璃々も寝取られゲーのモブだ。

俺たちはがその流れに乗ってやる必要はない。


しかし俺の言葉は効力を発揮しなかったのか璃々は毒島の方に身体を預ける。

毒島はその様子を見て唾を地面に吐き捨てた後俺をバカにするように笑った。


「少年コミックみたいで面白かったよ猿渡。でも無駄だったな。お前はそこで見てろよ。成年コミックよりエグい事をお前の女でしてやっからよ。」


璃々の髪を無造作に撫でる毒島。

璃々も同じように毒島の後頭部に手をやる。


俺の言葉は届かなかったのか?


そしてお互いに顔の距離を近づける。

しかしもう少しで唇が触れそうになるタイミングで璃々は急に頭を後ろに振りその勢いのまま奴の頭に頭突きした。


「ぎっ!」

「いったああああ!」


両者激痛でうずくまる。

更に毒島は舌を入れようとしていた為か思いっきり舌を噛んでしまったようでかなり痛そうだった。

ダメージの差で璃々の方が先に回復する。

そして璃々は顔を押さえて跪く毒島の股間を思いっきり蹴り飛ばした。


「ぎゅやああああ!」

「よくやった!璃々!」

「先輩!」


その勢いのまま捕まっている俺の方に来ようとするがそれは静止する。

流石に真正面から男と戦うのは彼女でも無理だ。


「そこでしばらく待ってろ!………毒島せんぱぁい!前戯がキスからする性癖で良かったな!フ◯ラさせようとしてたら噛みちぎられてたぜ!」


痛みでうずくまる毒島を煽る。

それに何の反応もしないのを確認して今度は取り巻き連中の方に呼びかける。

奴らは今の状況に困惑して動けないでいた。

辛うじて俺を押さえつける事と下に降りる階段の道を塞いでいる程度だ。

毒島が復帰するまでに話を決めたい。


「おい!離せ!お前ら毒島に付き合わされているだけなんだろ!大人しく解放したらお前らには何もしないでやるよ!」

「う、うるせぇ!馬鹿が!お前らが不利なのは変わってねぇだろ!」


そこに気付くとは…

こいつらの脳味噌を1ドットしか無いと思っていた考えは改めなければいけないようだ。

だが脳内IQが常人の3000倍を誇る俺には勝てない。

俺は不安にしながらも勝ち誇る奴らに対してニヤニヤした顔を見せて煽ってやる。


「あー、そうかよ。…残念だったな。あんな馬鹿に付き合わなければお前らの大切なものが俺に奪われる事もなかったのにな…」

「あ…?何言ってんだ?」

「…おい、なんか焦げ臭くないか?」


俺が言おうとしたセリフをチンピラCに奪われる。

俺を捕まえている1人が俺を更に地面に強く押し付けて尋問してくる。


「…おい!お前何しやがった!」

「気になるなら下に見に行けば良いじゃん。もう遅いと思うけど。」

「お、お前何言って…」

「お前らは俺の大切なものを傷つけやがった。じゃあ俺がお前らの大切なもん傷付けても文句言われる筋合いはないよな?」

「お、お前。まさか…」

「ハ、ハッタリだ!」

「ハッタリかどうかは…」


下の階からタイミングよく爆発音が鳴り響く。

俺の言葉が真実だと奴らには分かったはずだ。


「て、てめぇ!」

「おら!見に行かなくて良いのかよ!今行けば間に合うバイクもあるかもしれないぞ!」


誰のバイクが燃やされている分からない彼らは俺の拘束を解くと我先にと急いで下の階に降りてった。


「お、俺のバイク!」

「ま、待てお前ら…」


ようやく回復した毒島の言葉虚しく彼らはこのフロアを去った。


「自分たちが人質取って優位だと思ってるから足元掬われるんだよ。普通これから俺が来るのにあんなあからさまな弱点放置しとくか?最初に見た時呆れて失神するかと思ったぜ。」

「調子に乗るなよボケがぁ…!」

「足元ぷるぷるして凄んでんの超ウケるんですけど」


俺は毒島を煽るだけ煽り璃々の方へ行って彼女を抱きしめる。


「遅くなって悪かった璃々。怪我ないか?」

「私は大丈夫です!…すみません、ありがとうございます。私の為に…」

「気にすんな。ご主人様を助けるのは下僕として当然だからな!」


俺はふざけた調子で彼女に笑いかける。

それに安心した顔で微笑を返す璃々。

どうなるかと思ったがなんとかなって良かった。

しかしすぐに暗い顔になる璃々。

俺はその顔に不安になる。

も、もしかしてCとかまでされてしまったのだろうか?

まいった。その場合俺は毒島を殺さなければいけなくなる。

だがどうやら俺の心配は杞憂だったようだ。


「で、でも先輩…。バイクを爆発させるなんて火事とかその…大丈夫なんですか?」

「は!クソ犯罪者が!お前の人生終わったな!」


璃々の懸念に毒島もその可能性に思い立ったのか俺を煽ってくる。

もしそんな事になるならこんな場で呑気に話してられないと思うが。

俺は璃々の頭を撫でて彼女の杞憂も解消してやる。


「大丈夫。あれ嘘だから。」

「え…?」


俺も奴らの単車を爆破させる事でのリスクは憂慮した。

本当に火事になってしまう可能性があるし人気のないこの場所とはいえ近隣に被害が波及する可能性は大いにあった。

なのでバイクを爆破させたと言うのは奴らを動揺させるためのハッタリだ。

俺がこの下の階にあらかじめ仕込んでいたのはもっとこう、バイクよりは被害が少なくて、でも爆発はして、更にその被害をすぐに処理出来るような物である。

俺が犯罪者にならないように、人や物に大損害を起こさないように璃々を助ける為にそうする必要があった。


だから

だからすまん。

すまん薬蔵。


お前の電動チャリは最後まで俺の為に頑張ってくれた。

俺は階下でバッテリーを爆発させて燃え盛る薬蔵の電動自転車を思って内心涙をこぼす。

事後承諾となるが生徒を触診するほど熱心に診る男だ。

生徒を助ける為になったと思えば奴も本望だろう。


俺らの会話を聞いて毒島は余裕を取り戻す。


「はっ!じゃあどっちにしろお前ら詰んでるじゃねぇか!あいつらが戻ってきたら同じ事だ!」

「生憎だが同じじゃない。間抜けなお前には分からないだろうが状況ってのは刻一刻と変化するもんなんだよ。」


既に下の階に降りて行ったチンピラ達は自転車が虚しく燃えているのを見ただろう。

しかし奴らが戻ってくる様子はない。

おかしいと気付いた毒島も顔を不安そうにさせた。


「下には増援を呼んである。」

「う、嘘つけ!てめぇの愛陰会は俺が支配してるんだぞ!そんな報告なんて一切…」

「残念だったな…、俺が動かせる駒は愛陰会だけじゃない。………今はな。」


俺は璃々の携帯をこちらに向かって掲げる毒島に向けてここに侵入する前に通話状態にしていた俺の携帯を突きつける。


「ありがとな、こっちはなんとかなったよ。」

「おー、良かった。急に言われた時はどうなるかと思ったよ。こっちも制圧と消火完了したよ。」

「カラオケよりはスリリングだっただろ?」


会話の相手は純一だった。

俺は奴にここに来る前に電話をして助けを求めた。

当然クソ雑魚純一だけでは無意味なので奴の新しく出来た交友関係を募って来るように言い含めて。

俺は愕然とする毒島に顔を極限まで嫌味たらしく歪ませる。


「友達の少ない先輩とは違って俺って頼りになる友人たちがいっぱいいるんすよ。」


不本意ながらな。

しかし魅李をきっかけに出来た関係のおかげで璃々を助ける事ができた。

俺はそれだけは認めなければいけない。


ゆっくり俺は毒島に近づく。


「さて、先輩。」

「ぐ…、近寄るんじゃねぇ!」

「俺のご主人様を害した罪。命を持って償ってもらうぞ。」


しばらくこいつには愛陰会のサンドバッグになってもらう。

愛陰会。

別名璃々たんファンクラブはこいつを決して許しはしないだろう。


こいつをボコしたら愛陰会の指揮権を取り戻して次は魅李の事を探さなければ。

俺は毒島の処刑プランを考えつつ魅李の事を考えた。

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