第14話

 愛陰会により俺はボロボロのボロ雑巾の様にされたが純一達が行くカラオケには参加する必要がある。

 カラオケボックスなど寝取られイベントが起きる場所ベスト10には絶対に入る。


途中で買ったファンデーションで見える場所の傷を誤魔化し適当な服を買って着替える。

待ち合わせ場所に向かう道中に璃々に電話するが出ない。


「おー来たか縁助。」


待ち合わせ場所には既に純一と最近純一とつるんでいるグループの連中がいた。

俺はその中に魅李がいないことに気付く。


「魅李ちゃんは?」

「え?今日魅李は来ないぞ。なんか予定あるんだって。」


お前・・・

まじかよ。

俺は表情には出さないが内心焦る。

まずい。

今は愛陰会の連中の殆どから着拒されている状態だ。

魅李が何をしているか分からない。

不安でしょうがない。

彼女は目を離すとすぐに他人棒をくわえ込んでしまうハプニングガールなのだ。


「あー、悪い純一。急に体調悪くなったから帰るわ」


純一だけなら俺がいる必要はないだろう。

俺はこの場を去る為に適当な嘘をつく。


俺の今の優先事項は魅李の状態を確認する事。

愛陰会の実権を取り戻す。この二つだ。

愛陰会を動かせる様になれば魅李の事もすぐに分かるだろう。

つまり優先するのはこの騒動の下手人の璃々と会って話す事だ。


「ちょっと待てよ縁助!」

「すまん!埋め合わせはいずれするからよ!」


俺は引き留められるが無理矢理この場を去る。

くそ、魅李も璃々もどこにいるんだ。

とりあえず魅李に電話するが彼女にもつながらない。

純一はなにか予定があると言っていた。

つまりあいつも魅李が何をしているか知らないという事だ。

魅李が理由を伝えなかったのだろう。

この事から部活など普段の予定ではない事が予測できる。

つまり俺には彼女がどこにいるか推測する事は不可能に近い。

やはり璃々を探した方が良いだろう。

あいつは普段家に帰りたがらない。

いつもは俺が勝手に愛陰会の活動の場にしている空き教室に入り浸っている。

もしくはゲーセンに好んで行っている。

とりあえず学校に戻ろう。

だが俺の前に男達が立ちふさがる。


「元締め・・・、いや猿渡縁助ぇ!」

「ああ、くっそ」


それは愛陰会の構成員達だった。

こいつらマジで俺を抹殺するつもりか。

相手は4人か。

普通に考えたら勝つのは無理だな。


俺は来た道を戻り逃げる。


「まて!」


後ろから追ってが来るが俺の足にはおいつけまい。

だが遠回りをして学校に向かう必要がありそうだ。

俺は道中会敵する連中を避けながら学校へと向かう。


途中まだ待ち合わせ場所にいた純一達とすれ違う。


「縁助?やっぱ行くのか?」

「おぉーい、馬鹿ども!ここにもお前らが嫌いなリア充グループがいるぞ!」


俺は追っ手を純一達の方に押し付けて逃げる。

あたふたしている純一たちを尻目に俺は学校へと向かった。


学校の敷地内に入ると俺は真っ先に勝手に使っていた愛陰会の部室に向かって走る。


「死ね!」

「愛陰会なめんなボケェ!」

「しつけえよ!」


道中向かってくる雑魚敵をいなしつつ教室に辿り着くが誰もいない。


くそ、璃々はどこにいるんだ。

俺は憔悴を誤魔化しきれなくなってくる。

心を落ち着かせるために深呼吸をする。


落ち着け、大丈夫だ。

魅李に寝取られの気配は無かった。

今日1日情報を捕捉できないからといって最悪の事態になることはないはずだ。

寝取られ同人エロゲといえば段階エロが醍醐味だ。

純一が魅李が何しているのか知らないという情報が不吉だが、いきなり挿入などあるまい。


ポケットから振動を感じる。

急いでそこから携帯を取り出す。

画面表示された連絡先の名前はご主人様。

璃々だ。


「おい!璃々!お前何してんだ!俺を本気で怒らせるなよ!」

「………おーおー、怖いね猿渡君。セクハラだけじゃなくてパワハラも好きなんかよ」


電話に出たのは璃々では無かった。

若い男の声だ。

聞き覚えがあるが誰かは分からない。


「………お前誰だ?」

「そんな事どうでもいいだろ。中田璃々は預かってるからよ、これから送る住所に1人で来い。」


通話を切られる。

数十秒後メッセージアプリで璃々から画像とマップのURLが送られてくる。


画像には半裸に剥かれて下着姿の璃々がいた。


「ぐうおおおおおおああああああああああ!!!」


それを見た瞬間怒りと焦りで獣の様な叫び声をあげてしまう。

それを俺を探していた愛陰会達に捕捉される。


「あ!猿渡縁助!逃さんぞ!」


血気盛んに向かってくる奴らの内1人の股間を蹴り上げる。


「ぐぇえええ…」


そいつが崩れ落ちるとその他の連中は股間を抑えて俺から離れる。


「おい…」

「はい!元締め!」

「この騒動は璃々が仕組んだんだよな。」

「そうであります!」


俺の気迫に軍人の様な返答をする愛陰会。


「どんな指示を受けた?」

「璃々たんからは、元締めが調子に乗ってるからお灸を据える様にと…その、メッセージで。」


俺は愛陰会の1人の携帯のロックを解除させひったくる。


チャットアプリの中を見る。

作られているグループチャットの名前の中に【愛陰会 愚痴グループ】というのを見つける。

俺は認知していないグループだ。


最新のチャットでは俺の補足情報について発信を各自している。

というかこいつら俺の事【あのクソ】【あのゴミ】とか好き勝手呼んでやがる。


チャットを遡ると今日の昼に璃々がグループにメッセージを送信していた。


【裏切者の猿渡縁助は本日愛陰会を裏切り自分のみ不特定多数との乱交パーティに参加する模様。SATSUGAIせよ】


その違和感しかないメッセージの後には【御意】だの【ついにですね】だの璃々のメッセージを疑いもしない愛陰会のメンバーのメッセージが連なる。


俺は携帯を地面に叩きつける。


「ああ、僕の携帯が・・・」


嘆く持ち主を無視して動悸が激しくなるのを抑えながら考える。

璃々が昼に送った事になっているメッセージ。

この事から璃々は昼前には電話の男に捕まっていたのだろう。

その男は璃々の携帯を使って俺を愛陰会から追放した。

俺に恨みを持った男の犯行か・・・

うむ、心当たりが多すぎて特定できない。


俺を取り囲む愛陰会の構成員達は俺の様子に困惑して何もしてこない。

その内の一人が怯えながら俺に問いかけてくる。


「あの、元締め・・・。どうされました?」

「・・・璃々が捕まった。」

「えっ!?」


俺の言葉に動揺する愛陰会達。

俺は思考を整理する意味も込めて彼らにも状況を説明する。


「何者か知らないが先ほど男が俺の携帯に璃々の携帯を使って連絡をしてきた。璃々の写真と一緒にな。この俺への殺害命令も璃々に扮した男が送ったのだろう。」

「そ、そんな・・・、俺らはそれにまんまと躍らせて。すみません!元締め!」


俺に対して土下座をする構成員達。素直だなこいつら。

だからこんなメッセージに騙されるのだろうが。


「直ぐに助けに行きましょう!」

「ダメだ。電話の男は俺に一人で来る様に言っている。」

「元締めらしくないですよ!そんなの隠れてやるに決まってるじゃないですか!」

「いや、ダメだ。あいつは璃々の携帯を自由に使える状態だ。バレる可能性が高い。もしバレたら璃々が危ない。」


現状、俺は愛陰会の構成達と連絡を取れる状態ではない。

事情を知るのはここにいる数名のみ。

こいつらを使って相手に絶対にばれない様に指定された場所に向かわせるなど不可能だ。

説明の終わっていない愛陰会の連中は璃々にも俺の動向を報告している。

それによりバレたらゲームオーバーだ。


俺はこの場の愛陰会に指示を出して指定された場所に急ぐ事にした。


「とりあえずお前らは早くこの場を去れ。時間をずらして俺も出る。しばらく俺を探すフリをしていろ。指示があるまで余計な行動をするな。」

「元締め・・・」

「心配すんな。璃々は絶対に俺が助ける。」


俺は構成員達を安心させる為に無理矢理笑顔を作る。

構成員が部屋を出ると俺はすぐに魅李に電話を掛ける。

数コール待つが出ない。

くそ、魅李は何をしているんだ。

今回璃々は俺に対する恨みで攫われた。

魅李にも同様の事が起きていないとは限らない。

俺の取り越し苦労だと良いが、都合の良い想像は無視する。

急いで璃々を助けて愛陰会の指揮権を取り戻さなければまずい。


次に志島に電話をする。

3コール以内に志島は出た。


「どうされました。元締め。」

「璃々が攫われた。」

「えっ!・・・成程。そういう事ですか。愛陰会を、いや元締めをコケにしやがって」


俺の一言で事情を理解した志島。

やはりこいつは頼りになる。


「お前は今どこにいる、美咲と一緒か?」

「ええ、部活仲間とカラオケに来ています。」


高校生は隙を見せたらすぐにカラオケに行くな。


「そちらに合流しましょうか?」

「いや、相手は俺に指定の場所に一人で来るように言っている。お前は今日一日家まで美咲を絶対に守れ。」


璃々は攫われ魅李にも連絡が取れない。今日は厄日だ。

悪い事には悪い事が重なる物だ。美咲に万が一の事が無いように志島に言い含める。


「了解しました。命に代えても。」

「志島・・・、やっぱりお前は頼りになるな」

「も、元締め!」


電話先で興奮した声を出す志島を無視して通話を切る。

教室を出て校門へと向かう。

その途中、迫りくる愛陰会の構成員達をいなしながらまた電話する。

今度は黒岩だ。


「も、もしもし猿渡くん・・・」

「黒岩ちゃん!白峰ちゃんと一緒か?どこにいる?」

「えっ?・・・うん、美鈴ちゃんと一緒にいるよ。どうしたの?第8回目の授業って来週だよ・・・ね?って、美鈴ちゃん!」

「先生か?」


黒岩と通話していると携帯を取られたのだろう。

白峰に会話相手が変わる。


「先生!やっぱり今日講義するのか?最近は延期が多くて私は悲しいぞ!早く同性愛者同士のセックスの仕方の続きを教えてほしいのに!」


相変わらず電話越しでも声のでかい彼女に辟易とする。

これが嫌で黒岩に電話したのに。

確かに最近忙しくて性教育は延期を繰り返している。

しかし彼女の言った通り教えることが早くもなくなったので内容は現在迷走気味である。

というかもう必要ないと俺は思っているのだが何故か白峰が積極的にせがんでくるのだ。

積極的で先生冥利に尽きるが性知識に対して貪欲すぎる彼女に俺は内心引いていた。


「いや、そういう訳じゃないんだけど・・・。ちなみに白峰ちゃんって今何しているの?」

「ん?私か?今は来月他校と共同して行う地域の清掃活動のミーティングをしているんだ。安心してくれ今は休憩中だぞ!」


つまり彼女は会議の場で先ほどの発言をしたという事か。

相変わらず羞恥心は皆無の様だ。

黒岩に心の中で謝罪する。


「白峰ちゃん!今日の運勢を占ったら白峰ちゃんの今日の運勢は最悪だからミーティング後は黒岩ちゃんと何もせずに帰って!」


無茶苦茶な話だが純粋な彼女にはこの程度で問題ないはずだ。


「むっ?・・・分かった。先生が言うなら今日はまっすぐ凛子と帰ろう。・・・私の助けは必要ないか?猿渡。」


純粋馬鹿だが友達思いで察しの良い彼女の申し出に苦笑する。


「大丈夫だよ。白峰ちゃん。気を付けてね。」

「ああ、先生もな。」


通話を切る。

会話中に校門までたどり着いた。

そこには自転車に乗って帰ろうとしていた薬蔵がいた。

おれは奴から自転車をひったくる。


「何をする猿渡!」

「借りるぜとっつぁん!」


喚く薬蔵に紳士的にお礼を言うと俺は誘拐犯と璃々のいる場所へと急ぐ。

俺のご主人様にふざけた真似をしやがって・・・

誘拐犯はぶち殺してやる。












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