第11話

「今週末、魅李と買い物行ってくる!」

「………うん、行けよ。」


ある日、昼休み純一に呼び出され何を言われるかと思えばそんな事を一大決心をして決めたかのように言われた。

俺のその淡白な反応に純一は不満気な顔をする。


「なんだよその反応は。」

「いや、別にお前らが買い物一緒に行くのって珍しくないだろ。」


その反応にそういえばそうだったといった顔をする純一。


「最近魅李と出掛ける時は縁助も一緒だったから忘れてたよ。」


あの失敗に終わった遊園地の後も俺らはいろいろな場所に出かけた。

動物園だの自然公園だのショッピングだの。

そこには璃々が付いてくることもあったが遊園地以降は魅李とはお互い不干渉を貫くようになり衝突は無くなった。

魅李はどこな悲しげな顔をしていたが。


確かに純一と魅李だけで出掛けるのは久々かもしれない。


「俺は今回は良いのか?」

「ああ!今回はお互いに大会が終わったお疲れ様会を含んでるからな!」


そういえば純一も魅李も少し前に部活の大会があった。

俺も応援に行ったのは記憶に新しい。

魅李のバスケ部は無事全国大会に出場が決定し、純一は無事一回戦敗退を果たした。

結果に大幅な差異があるものの確かにその口実であれば俺が参加するのはおかしい。

愛陰会には大会などないからな。

というか部活でもない。


「まあ、頑張れよ。」

「おいおい、もっと応援とか無いのか?」


奴は適当な返事をする俺にぶー垂れる。

当然応援はしている。

2人きりの時間を大事にして関係を進めてほしい。

だが俺の脳内はそれと同時に寝取られイベントが起きる可能性を考えていた。

エロゲではデートの裏で間男に調教されるなど良くあるシチュエーションである。


「純一、これやるよ。」

「ん?なんだこれ。」

「コンドーム。」


俺の言葉に吹き出す純一。


「い、いるかこんなもん!」

「え?お前まさか…生でやる気か!?」

「違ぇよ!そういう状況にならないって言ってんだよ!」


猛る純一を宥めすかして俺は無理矢理コンドームを渡す。


「お守り程度で良いから持っとけって。必要になる可能性もゼロじゃないだろ?」

「魅李はそんな軽い女じゃないって………ん?お前これ穴空いてないか?」


無駄なところで察しの良い純一を無視して空き教室を俺は出る。

去り際に純一の方を向く。


「純一。」

「なんだよ。」

「応援してるからな。」


エールを送る俺に奴は良い笑顔でピースサインで返してくる。



ふっ………



何も信用出来ない。


当日は絶対に尾行しよう。

更にいくつか手を打って関係を深めてやる。



週末。

いつもの駅前で奴らは待ち合わせをしていた。

純一はファストファッションブランドでマネキン買いをした面白みのない格好で現れたがそこそこ顔の良いあいつにはシンプルなその格好でも中々様になっていた。

魅李は緑色のワイシャツにジーパンという格好だ。

魅李もシンプルな服装だが胸部に巨大兵器を搭載しているので男のロマンと股間が大変刺激される格好だ。


何かしら話して奴らは駅の中に入って行った。

数駅先の繁華街に向かうのだろう。

俺はこっそり追いかける。


ちなみに俺の格好はジーパンに黒シャツ。

黒い帽子にサングラス、更に黒マスクと完全な不審者スタイルだ。

鈍感な奴らに存在はバレないだろうが職質を受けないためにポリスの動向には注意したほうがいいだろう。


奴らと同じ車両に乗り、少し離れた位置に陣取る。


「それで縁助が急にパエリア作りだしてさぁ」

「えー、だから純一の班だけカレーじゃなくてパエリア食べてたの?」


会話を聞くと去年の学校行事の林間学校での出来事を話していた。

俺の話題で盛り上がるのは結構だがちゃんと関係を深める方法も考えているんだろうな純一。

策を用意はしているがお前が受け身だと俺もどうしようもない。


「やっぱ家で普段作っているだけあってあいつ料理上手いよ。」

「私、縁助くんの料理食べた事ないな。・・・今度食べてみたいよ~。」

「じゃあ今度ピクニックでも行くか?お互い作った料理持ち寄ってさ。」

「・・・ナイスアイデアだよ!純一!」


なんだかんだ気心が知れた幼馴染。

移動中会話は途切れる事はなく和気藹藹と話しは弾んでいる。

勝手にピクニックの予定が立てられているがこの際許そう。

というか純一お前は二人きりで出かける様に話を持っていってくれ。


どこかヤキモキしていたが時間は進み目的地へと着いた。

さて仕込みはいつ発動するやら。


・・・


二人にばれない様に尾行を続けて1時間半が経った。

貴重な休日を親友のデートのストーカーで消費する自分を省みると本当に涙が出てくる。

だがこれも自分の命の為と気を強く持つ。


時間は昼時。

純一はあらかじめ教えておいたランチが美味しい店へと魅李を連れて移動をし始める。

その彼らの前に男が二人立ちふさがった。


「よお、兄ちゃん。良い感じの女性連れてんじゃねぇか。おお?」

「兄ちゃんモテそうだなぁ。女日照りの俺らに恵んでくれても良いんじゃねぇのぉ?」


俺はその光景にほくそ笑む。

普段なら糞雑魚純一では魅李を守れないので焦る場面だが俺は動かない。

何故なら奴らは俺の仕込みだからだ。

彼らは愛陰会の構成員である。


片方の男が純一の胸倉をつかむ。

純一達の緊張が少し離れたこの場からも感じる。

俺は構成員に純一の噛ませ役になれと指示をしたわけではない。

純一と魅李がデートをする情報を与え普段の活動の様に全力で邪魔をしろと伝えている。

だから奴らは本気で純一をリンチする気だ。

だが俺が焦っていないのは愛陰会でも最弱の奴らを向かわせているからだ。

俺なら小指一本で倒せるあいつらなら流石の純一でも倒せるはずだ。

これで魅李には純一の頼もしさを認識してもらい。

純一には自信を取り戻す切っ掛けとなってほしい。


純一は胸倉を掴んだ手を捻り男を制圧した。

流石腐っても格闘技同好会所属の男である。

一回戦敗退だがな。

素人相手には勝ってもらわないと困る。


「いてぇえ!助けていっくん!」

「まーちゃん!手を放せこの野郎!」


愛棒の救援要請にいっくんは即座に反応し純一に殴りかかる。

俺からすれば遅いが純一には当たりそうだった。

別に一発殴られても魅李の介護イベントが発生するのでむしろウェルカムと思ったがいっくんの拳が純一に当たる前に奴はぶっ倒れた。


「ぐああああああ!!!」

「いっくぅぅぅぅぅぅううううん!!!」


何が起こったのか分からない俺は目をこらしてよく見る。

魅李がいっくんにスタンガンを押し付けていた。

あれは俺が魅李の家族経由で渡した護身用の改造スタンガンだ。


使っている所を見たことがなかったがついに日の目を見たか・・・


俺が感動しているのを他所にまーちゃんはいっくんに肩を貸して撤退していった。


それを暫く見送った後に純一と魅李はお互いにチンピラの撃退を喜び合った。


「やった!縁助くんがいなくても私たちで撃退出来たよ!純一強いじゃん!凄いよ!」

「魅李もなんだよそのスタンガン!助かったよ!」


少し予定と違ったがその良い成果に俺も概ね満足する。

俺が用意したレベル1。というかチュートリアル用の敵相手だがあいつらも成長している事が分かった。


二人はいまだ興奮した様子でレストランへと向かっていった。

俺もそれに着いていこうとしたが視界の端で見知った顔を見かけた。


白峰だ。


白峰も誰かに絡まれている様だ。

INTは1桁の白峰だがATKとDEFはラストダンジョン時の様なステータスの白峰がそこいらのチンピラに無理やり寝取られるとは思えないが絡んでいるのはあの毒島先輩だった。


あの二人の絡みが原作ゲームであったか記憶がないが不安に感じた俺は白峰の方に近づく。

途中すれ違った愛陰会の構成員に白峰の方は俺が行く事を伝えて純一の方に人員を向かわせた。

勿論純一達に俺が行くまで手を出さない様に言い含めて。


「だから私は待ち合わせをしているんだ!!向こうへ行け!」

「いや、だからさぁ。連絡先だけでも交換しようよぉ。」


言い寄る毒島に白峰が強く拒絶しているという想像通りの光景がそこにはあった。

俺は少し観察する事にした。


なんだかんだ性教育は第4回まで終わっている。

彼女がちゃんと間男を拒絶する事が出来るようになったか観察したかった。


「しつこいぞ!しつこく言い寄ってくる男は女遊びの激しい強引な男だから赤色信号・・・と先生に教わった!私をそこいらの軽い女と一緒にするな!」


俺の伝えた教訓と一緒に強く拒絶する白峰。

教え子の成長に俺も感極まる。

2年育ててきた親友たちがようやく成長の兆しを見せたばかりなのに

白峰はたった1か月程度で大変な成長を見せている。


毒島は白峰の気迫にひるんだもののまだ離れる気配はない。


「いや、勘違いしないでよぉ。俺確かに女とよく遊ぶけどあんたにはマジなんだって。」

「お前だけ特別!と嘯く男には【抱くまでは】という隠れた言葉が潜んでいる・・・と先生に教わった!私をなめるな!」

「さっきからその先生って誰だよ!」

「俺だよ。」

「なんっ・・・。さ、猿渡!?」


急に割り込んできた男に対して怒鳴ろうとした毒島が俺の顔を見てのけ反る。

白峰も驚いた表情でこちらを見る。


「先生!!」

「ふふふ、教え子の成長に師は満足じゃ。」


褒める俺に白峰は鼻の下擦って照れていた。

馬鹿だが素直で可愛い生徒である。


白峰の教育の成果を確認できた俺は毒島をさっさと排除することにした。

今回白峰はちゃんと俺が教えたことを実践していた。

逆に毒島のしつこさが予想外だった。


毒島は俺と白峰の気心が知れた様な会話にイラついたのかこちらを強くにらむ。

性教育は第4回を迎え、俺と白峰の関係は改善傾向にある。

それは白峰の純粋な心が俺を許容してくれているのが一番の理由だが

茶々を入れつつも俺がしっかり講義をしていたからだろう。

白峰から一定の信頼を得ることが出来た。


「猿渡くんよぉ~、また俺の邪魔すんのかよ?」

「毒島せんぱぁい、こっちのセリフですよぉ~。なんで俺の知り合いの女ばかりに粉掛けるんすかぁ~?そこいらの頭からっぽの女とでも乳繰りあってて下さいよぉ。」


俺の挑発に青筋を浮かばせる毒島。

俺の胸倉に手をやろうとするが白峰に腕を掴まれ阻まれる。


「先生に手を出すな。」

「いっ、つ。放せ!」


思い切り腕を握りこまれて毒島は苦悶の表情となる。

毒島の手を放し突き飛ばす白峰。


「糞がっ!猿渡、お前がこの娘の先生ってどういう事だよ。お前が人に物教えられる程賢くは見えねえけどよぉ」


負け惜しみに俺を馬鹿にする毒島。

それに白峰がカチンときたような顔をする。


「先生は私の性教育の先生だ!!」


大声で繁華街の人込みの中でそう宣言する白峰。

周りは急に若い女性がとんでもないことを口にしたためか少し騒然とする。

毒島もぽかんとした表情になった。

うん、やめて白峰ちゃん。


「せ、性教育って・・・、どういう事?」

「そんな事も知らんのか!少し前の私と一緒だな!」


白峰は自慢する様に腕を組んでより大きな声で話し出す。


「先生は無知な私に子供の作り方から男の喜ばせ方までじっくり教えてくれたんだ!」


うん、座学でね。

決して実践教育はしていない。


周りが俺らを指さして噂しているのが分かる。

毒島は唖然とした表情で白峰から距離を取る。

そして俺の方を振るえた手で指さす。


「て、てめえ。噂通りの鬼畜野郎だな。こ、こんな何も知らなそうな純粋な娘を・・・」


ゲームの間男キャラに心外なことを言われるが否定の言葉が出ない。

白峰も別に嘘は言ってない。

毒島の言葉に馬鹿にされたと思ったのか彼に凄む様に近づく白峰。


「貴様っ!私と先生を馬鹿にするな!私は先生のおかげで無知な私ではなくなった!」


そして鼻息荒く宣言した。


「今ならどんな男が来ても相手出来る!ドンと来いだ!」


・・・


そうビッチ宣言をした白峰に毒島はなんだか涙目になって敗走した。


「て、てめぇらみたいな変態共と一緒にいられるか!覚えてろよ!」


喧噪に消えていく毒島を見送る。

その光景を鼻を鳴らして睥睨する白峰。


「どうだ先生!先生の教えのおかげで男を上手くあしらえたぞ!」


純粋な笑顔でこちらを向く白峰。

褒めてとでも言いたげである。


周囲から変態コンビと思われている事には気付いていないようだ。

俺は乾いた笑いで周囲を見渡す。

引いた目でこちらを見るギャラリーの中に顔を真っ赤にしている黒岩がいる事に気付く。


すまん、黒岩。

性知識は中学の保健体育の教科書程度には備えつけさせられたが羞恥心は赤子の様になってしまった。


結局俺はこの場の責任を取り白峰と黒岩を連れ出して逃げた為

純一達の方に行くのは少し遅れてしまった。


毒島・・・、奴の最後の顔は間男とヒロインの邂逅イベントが起きてしまったが

問題はないと思ってしまう程かわいそうな顔をしていた。

恥は掻いたが白峰は成長した。

これで俺はリソースを純一と魅李の関係に割ける。


白峰が好きな純一を別の女と裏でくっつけようとしている事に罪悪感を覚えるが意識して無視する。


すまん、白峰。だが俺も命が掛かっているのだ。

申し訳ないが俺ではなくこの世界を恨んでほしい。














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