第6話

嫌な夢を見た。

今まで俺がしてきた行動が全て裏目に出て純愛ルートが閉ざされ、寝取られルートに魅李が進んでしまう夢だった。


流石に今の時点では現実ではそんな事になるはずがない。

油断をしてはいけないが雑魚間男、ネームド間男問わず俺は奴らを魅李から遠ざけてきた。

何故か魅李の俺に対する好感度が異常に高いが純一との仲を邪魔するレベルではないだろう。

大丈夫だ俺は何も間違っていない。

嫌な想像は笑って忘れる事にした。


「ほら。」

「センキューマイラブリーシスター」

「うるせぇ死ね。」


お兄ちゃん大好きっ娘の妹から弁当を受け取り家を出る。

高校1年生の頃は毎日純一と魅李と登校していた。

魅李をゴッドハンド持ちの痴漢から守る為だった。

だがその痴漢とは既にケリをつけていて奴は今はムショの中だ。

なので今は一緒に登校する意味がないので別々に登校している、はずなのだが。


いつも通り駅前で彼らは待っていた。

小学校、中学校が一緒だった彼らとは隣同士というわけではないが当然家が近い。

彼らの家は俺の家と最寄駅の間にあった。

俺から一緒に登校しようとした時はこいつらの家の前でスタンバって無理やり合流していたのだが、今や何も言わなくても彼らは駅前で待つようになった。


「はよー」

「うぃー」

「おはよう、縁助くん。」


適当に挨拶して彼らと一緒に改札へと向かう。

まだ朝早い時間。

人もまばらなホームで待っている時間俺らは無言だった。

普段なら純一と魅李が仲睦まじく会話し、俺が適当に参加したりしなかったりといった形なのだが。

まだ昨日の件が尾を引いているのだろうか。

結局純一は魅李ちゃんと話せなかったらしいし。

最早こいつに期待する事をやめた方が良いと気付きかけている俺は菩薩の様な顔でその報告を聞き流し、非通知で無言電話を複数回掛けた程度で溜飲を下げてやった。


「そういやもうすぐ大会だっけ、魅李ちゃん。」


喋ろうとしない彼らに、仕方がなく話題を提供する。


「え、うん!来月からかな。」

「最近朝練キツそうだよな、バスケ部。」

「まあ、私もレギュラーだしね。でも純一も大会があるんでしょ?」

「ああ、それで最近部長も張り切っちゃって生傷が絶えないよ」


純一はダルそうに肩を回しながらそう愚痴る。

純一は所属する部活、というか同好会でエクストリーム格闘技という何でもありのなんちゃって総合格闘技をしている。

一年の頃先輩に無理やり(あ)そこに入れられたこいつは律儀に毎朝、毎放課後足繁く同好会に通っている。

魅李を1人で守れるくらい強くなるって意気込んでいたっけ。


え、実際の実力はだって?それは第2話参照である。


「いやぁ〜純一のエセ格闘技はともかくとしてバスケの大会は絶対応援行くよ!」

「おい。」

「ありがとう!縁助くんに良いところを見せれる様に頑張るよ!」


そう言って明るく笑い力こぶを作ってみせる魅李。

調子が戻ってきた様だ。


「楽しみだなぁ〜、バスケボールと一緒にバルンバルン揺れる女選手のおっぱい達が!」


俺も調子に乗り胸を揉む様な動作をしながら下卑た笑顔でセクハラをする。

原作ではセクハラの代償として俺の頭が地面にダンクされる事になるがこの世界の魅李はぎこちなく笑顔を作って俺を嗜めるだけだ。

惰性でセクハラしつつ半ば諦めながら彼女の反応を待った。

だが今日の魅李は一味違った


「って良いところってそっちの事かいな!」


………は?


何故か関西弁でツッコミを入れてきた。

俺も純一も突然ダダ滑りの関西弁を使う関東人という地獄の様な存在になった魅李に何も言えなかった。

無言で彼女を見つめると慌てて早口で補足の説明を入れてきた。


「ええっと、その良いところって私はバスケのプレイの事を意味して言いました。しかし縁助くんはおっぱいの事を楽しみと言ったので、訂正をしました。はい。」


ツッコミの説明をする事でより空気が死んだ。

どうすれば良いか分からない。

ダダ滑りした友人の対処法など前世でも今世でも学校で習った事ないから。

人生初見プレイ中の純一も言わずもがなだった。

魅李は俺らの反応に羞恥で顔を真っ赤にして蹲ってしまった。


うわ言の様に小さい声で「違う」「こうじゃない」とぶつぶつ呟いている。

彼女が復帰するまでの間に電車を2本逃した。

やはり彼女はまだ本調子ではない様だ。

そして彼女の奇行はこれだけで済まなかった。


授業と授業の間の準備時間に俺はいつものように隣の席の白ギャルにちょっかいをかける。


「明菜ちゃん、さっきの授業でならった細胞の結合…早速俺らで実践しない?」

「は?なに?キモいんだけど。」

「子作りしようって事だよ!言わせんな恥ずかしい!」

「きもい!死ね!」


あ〜、これだよこれ安心するわ〜。

彼女の嫌がる反応に大満足の俺は間違いなくセクハラの醍醐味を楽しんでいた。

元々は縁助ロールプレイをする事によって魅李を含めた女性から嫌われるのが目的だった。

無駄にある魅李の俺への好感度を下げる事と女性から嫌われている俺が純一とつるむことで奴にも余計な女を近づけさせない様にする為だ。

だが俺は女性が嫌がる反応をする事が好きな様だ。

鶏が先か卵が先かといった感じで何のためにセクハラを始めたのか最近見失っている。

今どきの白ギャル明菜ちゃんは特に良い反応をするからお気に入りである。


ニヤニヤする俺に対して怒りの顔で拳を構える明菜ちゃん。

優しい彼女は更にご褒美までくれるらしかった。

ニヤニヤしてウェルカム状態になっていた俺の意識は魅李の大声で正気に戻った。


「ああ〜!確かに縁助くんってそういうところあるよね!」

「み、魅李?」


会話していた魅李が突然教室に響く大声を上げた事で純一が困惑した声を出す。

俺も明菜も肩をびくつかせて魅李の方を見た。


「好奇心が旺盛なあまりにちょっと暴走気味になって誤解されちゃう言動することあるよね!いやらしい意味は全くないけど!けど!うん!純一の言うとおりだよ!」

「み、魅李?俺何も言ってないんだけど。」


教室中が魅李に注目していた。

というかぶっちゃけ俺も含めて彼女狂っちゃったの?という顔で見ていた。

周りの反応に気付いた魅李は恥ずかしさからか机に突っ伏し頭を抱えて朝の時の様にぶつぶつ何かしら呟いていた。


「エロ猿…、中里さんどうしちゃったの?」


どうしちゃったのって、完全にどうかしちゃってるよ。


俺は純一に精密検査ができる病院を紹介してそこに彼女を放課後、もしくは今すぐに連れてく様に裏でお願いした。

何かしらの不具合がどこかに見つかるだろう。

純一は苦笑いをしていたがこっちはマジである。

魅李の精神がワンダーランドに飛び立ってしまったら中学校3年生から尽力していた俺の幼馴染ラブラブ計画(ただし俺は蚊帳の外とする)が頓挫してしまう。

そしてゲームにはなかった介護ルートに純一を進ませてしまう事になってしまうかもしれない。

その後も周囲の心配をよそに魅李は奇行を続け、俺の精神衛生状態はだいぶ悪くなった。のほほんとしているのは純一だけである。

なんでこのカスはいつも呑気なのだろう。

奴のDNAを解析すれば鬱病の特効薬が完成するかもしれない。

だが今は鬱病より突発的奇行症候群に罹患した彼女を治す方法を知りたかった。


俺は放課後、愛陰会メンバーを招集する事に決めた。



「光がある所に影があり。」

「愛ある所に我らあり。」

「愛に生きるものどもゆめゆめ忘れるな。」

「陰には我らがいる事に。」


謎の口上を宣いながら愛陰会幹部である2人が俺の前に跪く。


「元締め、本日はどの痴れ者たちに我らの存在を示しましょうか。」

「うむ、そうだな。」


愛陰会。


これは俺が高一になってすぐにメンバーを集めて結成した会だ。


裏の世界(学内裏掲示板)でまことしやかに存在を噂されるそれは俺をトップとする学校を裏で牛耳る殺人集団とも、もしくはカップルに嫉妬して恋人がいる連中に嫌がらせする事を目的としている非モテ連中の集まりとも言われているが真相は藪の中である。


「その前に週間報告と行こうか。」

「はっ、こちらに!」


俺が大袈裟に勿体ぶって頷いて資料を要請するとすぐに紙の束を渡される。

それをパラパラとめくり内容を見る。


「元締めの命令で注目していた女陰と陰茎には目立った動きがありませんでした。」

「うむ、その様だな。ご苦労。」

「はっ!」


ネタバレをすると愛陰会はヒロインたちの寝取られを防止するために俺だけでは手が足りないと考えて結成した集団である。

適当な理由でヒロインとヒロイン候補の動き、加えて寝取りちんこ共の動向を探らせている。

俺は幹部2人に魅李の写真を渡す。


「暫くはこの女の動向を探らせろ。」

「こ、これは!元締めのオナペット(本来の意味で)にして、あの憎いあんちくしょうの佐藤純一のオナペット(寝取り男が使う意味で)じゃないですか!何故彼女を!?」

「落ち着け童貞!元締めの話をまず聞くんだ!」

「うるせぇ!てめぇも童貞だろうが!」


不毛な争いを始める童貞達に割って入る。


「まあ、聞け。この女だが………我々に隠れて男を作った可能性がある。」

「な、なんだってええええええ!」


俺がそう伝えると彼らに衝撃が走りネットで真実を見た様な顔で驚いた。

その後orzの様な体制となって彼らは嗚咽を漏らして泣き始めた。


「な、何故お前らが泣く。」


予想外の反応に俺は戸惑い思わず素の反応で問いかけてしまった。

彼らは涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を俺に向け怒鳴ってくる。


「中里さんはまさしくオタクに優しいギャルを体現した様な女性なのだ!」


魅李は別にギャルではないが。

微妙な顔をする俺とは対照的にヒートアップする馬鹿二人。


「我々が挨拶しても嫌な顔をしないで挨拶してくれたワンチャンあった数少ない女の子だったのに・・・」

「童貞卒業の道がまた一歩遠のいてしまった・・・」


嘆く彼らに対して俺はワンチャンないし、お前らは最初のマスから一歩も進んでいないと真実を伝える事はしなかった。

これが元締めたる俺の優しさである。

後彼らと話すのが少し面倒だった。

おいおい泣く彼らの背中を(嫌々ながら)さすって落ち着かせる。


「ええ~先輩達、中里先輩のファンだったのぉ~?璃々悲しいなぁ。」


ようやく落ち着きかけていた所に後ろからメスガキが挑発する様な声で話しかけてきた。


その声に良いおかず(具体的な例は高校の同級生だった女の子が出ているAV)を見つけたちんこ張りに起立した彼らは元締めたる俺を突き飛ばしメスガキの方に群がる。


「違うんだよりーちゃん!中里ちゃんは雑に抜く時のおかずって感じで本命おかずのりーちゃんの方が全然上だよ!」

「そうそう!俺らの年間おかず採用率はクアトロスコアの差を着けて璃々たその圧勝さ!」


俺が言えた事ではないが最悪な方法で愛を表現する彼らに璃々というその高校1年生の女の子は普通引く所だが小生意気にニヤニヤするだけだった。


「まあ、当然ですよねぇ~、璃々より良い女の娘なんている訳ないですから~」

「おい愛陰会の紅一点。会議の邪魔をするな。」


調子にのって俺の話を邪魔するメスガキに俺はドスの聞いた声を出して詰め寄る。


「ワンちゃん!」

「わんわんわぉ~ん!!」


しかし指を刺されて彼女に命令された俺は即座に犬になってしまった。長年の調教の成果って奴だね。


「流石元締めだ、あのプライドを捨て切って犬になる姿は愛陰会の元締めとして相応しい。」

「俺もりーちゃんのバター犬になりてぇ…」

羨ましがる幹部二人の声で俺は正気に戻る。

「………ともかく、暫く中里魅李を探れ。異常があったらすぐに報告しろ。………男といたら最悪そいつは殺しても良い。」

「元締め!それは佐藤純一でもですか!」

「………この際構わん。」

「しゃあ!おらぁ!」


俺が純一に対する殺害許可証を与えると猛った様子で教室を出て行った幹部2人。

すまん、純一。これも魅李の為だ。格闘技習ってるから大丈夫だろ?


「じゃあ璃々も頼んだぞ?以上解散。」


俺は最後に残った璃々にもお願いすると教室を出て行こうとした。

しかし璃々に後ろから抱きつかれ止められる。


「…おい。」

「先輩も…」


注意しようとした俺だがさっきとは対照的にしおらしい声で俺に話しかけてきたので言葉が止まる


「先輩も璃々が1番ですよね?あの女よりも。」

「………あったり前だろ。俺お前の犬にまでなってるんだぜ?」


俺はそれに快活な笑顔でそう返答する。

しかし璃々の顔は優れない。

顔色が悪く、壊れた様な笑顔を浮かべている。


「じゃあ何であの女なんか調べさせるの?あいつには佐藤先輩も優しい両親も友達もいるのに縁助先輩まで…なんであいつばっかり。私には何もないのに…」


俺の言葉を聞かずに鬱状態に入ったので振り返って彼女を抱き寄せる。


「先輩…」

「誤解するな、色々事情があるけど俺は魅李と付き合いたいとかは絶対にないよ。」


何故なら死ぬからな。


「先輩、先輩…」


彼女が抱き返してくる。

この世界は原作エロゲだが間違いなく現実だ。

煩わしいテストには悩まされるし原作キャラも想定通り動くことはない。

人間関係も複雑に形成されている。

そしてゲームではモブとしてゴリ豚に雑に犯されたキャラにもその後の人生がある。


この後、俺は白峰の様子を確認したかったが強く抱き返してくる彼女を落ち着かせるのには数十分を要した。

彼女の何だかいい匂いにより元気になったマイサンが落ち着くのに更に数十分でかなり時間のロスが発生した。


この時間のロスによって彼女が寝取られていないと良いのだが。

俺は心配になるが璃々を突き放すことは決してできなかった。

死のリスクがあるのは分かっているが原作ではモブだった彼女は現実では大切な後輩なのだから。

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