彼女の気持ち。彼女の過去。彼女の決意 前半(魅李視点)

私は女子トイレに早歩きで入り、人がいないのを確認すると洗面台へと向かう。

そして蛇口を思いっきり捻った。

そうすると強い勢いで水が台へと打ち付けられる。

制服にも水が跳ねるが気にせず両手で水を受け顔へと掛ける。


涙なんか流したく無かった、情けなくあの場を去りたくなんか無かった。


だが私の気持ちとは裏腹に壊れてしまったかの様に目から涙がいまだ出続ける。


数分流しても流しても出てくる涙を洗い流し続ける。

ようやく涙が枯れた頃には私は受験勉強の為に徹夜して勉強した時より目が充血していた。


鏡には情けない顔をした、卑しい女が写っていた。

お前にそんな顔をする資格があると思っているのか中里 魅李。

私は精神分裂症の患者の様に鏡に写る自分を他者の様に扱って叱責する。

こんな情けない駄目人間を自分自身だと受け入れられないからだ。


「縁助くん・・・」


私の唇から零れ落ちた名前。彼の事を思うと胸がきゅっとする。


幼稚園から家族ぐるみで付き合いがある純一の親友である彼とはもう10年の付き合いになる。


私にとっても彼は仲の良い友人だった。

でも私たちの関係は純一によって繋がれており、仮に縁助くんが純一と疎遠になったら消滅する程度の関係だった。

それは彼もそう思っていただろう。

私への態度には遠慮があった。

だがあの事をきっかけに私たちの関係は変わったと思っている。


少なくとも私は図々しくもそう考えていた。




中学3年の冬。

私は鬼頭先生(純一と縁助くんはゴリ豚と呼んでいた先生だ。)に脅迫を受けていた。

バスケ部での私にとっての最後の試合が終わり部を引退した私は顧問である鬼頭先生に呼び出された。

後輩達の今後の育成方針を決めるのに協力して欲しいという理由だったと思う。

そして誰もいない部室に呼び出された私は彼に映像を見せられた。

そこには私の後輩がスーパーで万引きをしている姿が写っていた。

呆然とする私に先生はこういった。


「先生は教師として学校に報告をしなきゃいけない。だが、お前の協力によっては先生の胸の内に留めておいてもいい。」


下卑た顔でそう私に話す先生。

彼は学校に万引きが伝わった場合、当然私を慕ってくれていた後輩の彼女は停学で今後の進路に悪い影響がある事と、バスケ部は活動停止になると、仮にも顧問で教師であるはずの先生はそんな事を続けて楽しそうに私に言った。

そして、まだ幼く、世間を知らない子供だった私は悪い大人の言われるがままに先生のおもちゃとなった。


「な、何をすればいいんですか?」


そう問いかける私に、先生はいきなり服越しに胸を触ってきた。


突然乱暴に胸を揉まれ私はパニックになる。

人より発育が早くて大きな胸は私のコンプレックスだった。

これの所為で男子にも女子にも冷やかされる事が多く。

大人も怖い顔で見てくる事があったからだ。


そういった事情で性的な事に興味を持たない様にしていた私は自分でも極力、胸やあそこを触らない様にしてきた。


その胸が乱暴に大人の男性に扱われた私は体が硬直しなんの抵抗も出来なかった。

更に彼のもう一つの手が私のふとももを触る。

そして彼は私に顔を近づけてきた。


キスされる!


そう思った私は硬直から抜け出し両手で先生の顔を押しのけた。


その時、頭の中には何故か純一の顔が浮かんでいた。

自覚はしていなかったけどこの時、淡い恋心を純一に抱いていて、初めてのキスは純一とするものだと思っていたからだろう。

そんな考えがあったからかキスには抵抗をする事が出来た。

その様子を見て先生は意外にも怒るどころか更に顔をニタニタさせた。


「キスは嫌か。もしかして好きな奴でもいるのか?」


好きな人がいなくても先生なんかとキスなんてしたくない。


そう言いたかったが恐怖で震えている私にはそれが図星である事を隠す事が出来なかった。


「仕方がないな、先生は優しいからな。今は、お前のその牛みたいにでかい乳で我慢してやるよ。今はな。」


今、という言葉を強調する彼に私は恐怖で身を縮こまらせた。


その日はそれで解放された。


その後に家に帰るまでの記憶がない。

ただ家に帰った私はお母さんにただいまも言わずにお風呂場に行き体が赤くはれるぐらい体の汚れをこすって落とした。


気持ちわるい気持ちわるい気持ちわるい気持ちわるい


その日から私の日々は地獄となった。

次の日には生で胸を長時間触られた。

恐怖で体を震わせる私に何を勘違いしたのかあの男は感じているのか?と私を嘲笑った。

私は強く反論してもこの男を喜ばせるだけだと思い、反応せずに無言で唇を噛み耐え忍んだ。


気持ちわるい気持ちわるい気持ちわるい気持ちわるい気持ちわるい気持ちわるい気持ちわるい気持ちわるい


次呼び出された時は胸の突起を中心的に触られた。

生理的反応で硬くなったそれを弄びニタニタした人の姿をした悪魔は下卑た顔で私の事を淫乱だと罵った。


気持ちわるい気持ちわるい気持ちわるい気持ちわるい気持ちわるい気持ちわるい気持ちわるい気持ちわるい気持ちわるい気持ちわるい気持ちわるい気持ちわるい気持ちわるい気持ちわるい気持ちわるい気持ちわるい


次の時は普段通り胸を弄んだそいつは自分の股間を指さしてこういった


「お前が淫乱な所為で先生のが大きくなっちゃったよ。こういう時はお前みたいな頭の弱いクソガキは知らないだろうけど女が責任をもって処理するのが常識なんだ。」


この期に及んで教師面をしてふざけて奴はそういった。

そして奴は私の手を取りそのグロテスクな物へと近づけた。

この日、私の手はどれだけ洗剤で洗っても落ちない汚れで汚された。


気持ちわるい気持ちわるい気持ちわるい気持ちわるい気持ちわるい気持ち気持ちわるい気持ちわるい気持ちわるい気持ちわるい気持ち「ん?なんだお前」


行為が終わった後私の首筋をなめながらふとももを触る悪魔はいつも通りのニタニタした顔でそういった。


「濡れてるじゃないか。この年でそんな淫売で先生は悲しいぞぉ~。安心しろ教師として責任はとってやるから♡」


・・・

・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・


死にたい。


最近食べ物が喉を通らない。

もし食べてもすぐ吐いてしまう。


人に触れなくなった。

家族が、友達が、純一がくれたプレゼントにも触れなくなった。


私の手は穢れているから。

私の心は汚れているから。


純一と何かと理由をつけて出来るだけ会わないようにした。

毎朝一緒に登校する事もなくなった。

両親にはダイエットをしていると伝えて朝ごはんも、夕ご飯もいらないといった。


こんな汚れた存在の為に時間を使って欲しくなかったから。


食べるよう怒られるとヒステリックに逆切れした。

両親はそれ以上何も言わずにただ学校から帰ると引きこもる私の部屋の前に毎日夕飯を置いてくれた。


私は決して食べなかったのに毎日、毎日部屋の前に置いてあった。


お母さんごめんなさい。

お父さんごめんなさい。


ふしだらな子供でごめんなさい。

馬鹿な子供でごめんなさい。


人の皮をかぶった獣に体を嬲られ、時々処理をさせられる。

塾に通うからと連絡用にお父さんに買ってもらった携帯の検索履歴には女性の生理現象についてのワードが並んでいた。

認めたくなかった。

この獣と私が同じような存在だって。

私の身体の反応と気持ちは無関係だと思いたかった。


この時の私はただ死んだ様に生きていた。

私の希望はただ一つだった。

中学校を卒業する事だ。

私はこの時根拠もなしに卒業すれば解放されると考えていた。

行為は全て中学校で行われていたからだろう。


年末になるとあの動物も仮にも教師だからか忙しそうにしており呼び出しの機会がかなり少なくなった。

そのおかげか私も体調が少し回復し、食事をちゃんと取るようになった。

私が今年もクリスマスパーティをしようと言うと父は珍しく泣きながら喜んでいた。

純一との登校も再開した。

私の最近の行動が受験のストレスによるものだと思ったのか(私が言い訳に使っていたのが理由だ。)一緒に行こうと言っていた志望校を変えないかと言ってきた。

察しの悪い幼馴染だけど彼は優しかった。

私はぎこちなく笑いながらそれを断る。


昼休み純一と縁助くんと食事をしていた。

今日はクリスマスパーティの買い出しをする予定だった。

奴からの呼び出しはない。

しかし、放課後、廊下で奴に呼び止められた。

冬休みがもうすぐ近いのであるとは思っていたがよりによって今日かと思った。


私は純一に遅れることを携帯で伝えて奴に命令された通り体操服を着て倉庫へと向かう。


耐えろ、耐えるんだ私。

家族や純一にもう心配をかけたくない。


そう決意して倉庫に入った私の心はすぐに粉々に砕かれる事となる。


「な、なんですか。それ………」


彼が携帯で映像を見せてきた。

映像の中では男と女が絡み合っていた。


男は目の前にいるこの動物。

そして女は、私がこうなる原因となった後輩の女の子だった。


映像の中で泣き叫びながら組み伏せられている彼女を見て呆然とする私に奴は下卑た顔で囁いた。


「お前のおかげだよ、ありがとな。」


意味がわからなかった。

奴は私の髪の毛を掴んで顔を無理やり自分に向けさせると見たことがない満面の笑みでこう言い放った。


「お前に言った、彼女が万引きしたってあれな………嘘だったんだよ。」


「………えっ」


「加工映像だよ加工映像。いやあ先生もびっくりしたよ最近の技術って凄いんだなぁ。」


そう自慢気に話すそいつに私は膝から崩れ落ちる。

髪の毛を掴まれており痛みが生じるが立っていられなかった。


奴はそんな私に笑いを堪えながら事の裏を話した。

奴は加工映像で私を脅すとすぐに私の後輩も脅迫した。

脅迫には私を襲った時の映像を使った様だ。

盗撮されていたのだ。

今までの行為全てが。

奴は直ぐに私と後輩に連絡を取ることを禁じると交互にその身体を楽しんだ。


「いやあ、お前がキスは嫌。挿入は嫌だと言うから随分とあいつには無理させたよ。」


そう嫌味を言って私を責める奴の言葉に私は先程食べたお弁当を吐き出しそうになる。


何故疑問に思わなかったのだろうあんなに慕われていた後輩から連絡が無くなったことに。

奴が私の拒否を無視して無理強いをしなかった事に。

処理をさせない日すらあった事に。

全て彼女が私の代わりにこの男になぶられていたからだ。

私がこの化け物に騙されたせいで。

崩れ落ちる私に奴は微笑む。


「安心しろ。罪悪感を感じる必要はない。今日からお前も先生のオナペットだ♡」


そう言って奴は倉庫の片隅を指差す。

光が反射しているのが見えた。

カメラがあるのだろう。


私は全てを理解した。

こいつが私に手を出さなかったのはただタイミングを狙っていただけだ。

私が一番絶望するタイミングを。


「今日あの佐藤純一と買い物行くんだろ?クリスマスパーティの。明日盛大に祝うと良い。お前の処女喪失プラス先生の肉便器就任祝いをな」


奴はズボンを脱ぎグロテスクなそれをこちらに向けて舌なめずりをする。


「安心しろ、先生は優しいからな淫乱なお前を後輩と一緒に中学校を卒業した後も面倒見てやるから。飽きるまでな。はははははは」


………


私の心は完全に折れた。


奴は私に覆い被さってくる。


「いやああああ!!やだぁ!やだぁ!」


全ての希望を失い駄々っ子の様に泣き叫んで抵抗する私にあいつは腹を殴ってきた。


痛みと恐怖で目がチカチカした。

抵抗する気力も失った。

されるがままに半裸にされ奴の前に跪ずかされる。


「お前の後輩はお前のために俺に犯されたんだぞ!悪いと思わないのか!」


そう言って奴は私を教師の様に叱責した。


「大丈夫だって、あいつも最初は嫌がってたけど今は先生のモノが大好物で自分から求めてきているからな♡」


身体と精神は別物だ。

身体の反応は精神とは何の関係もない。

だが美味しい食べ物を食べて幸せを感じる様に身体の反応は精神を作り変える。

もし、私がこのゴミクズの言う通りそうなるのであれば、いや、そうなる前に私は命を断つ事にした。

生きる気力全てを私は失った。


奴が近づいてくる。

そして破壊音がする。

ガラスが割れる。

飛散したそれは倉庫内を飛び散らかる。

私の手の皮がそれで切れる。

痛みで呆然とした私の意識が無理やり覚醒する。

間髪入れずに怒号が倉庫内を響き渡る。


「あっぶねええええええええええええ」


倉庫の窓から突然やってきたヒーローは僅か数秒で私の地獄を終わらせるために悪魔を蹴り飛ばした。


この日、悪魔は殺され私の地獄は終わりを告げた。


そして私を助けた縁助くんは今度は私の為に自分を殺すこととなった。

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