第5話
俺がこのエロゲーの事で覚えている事は多くない。
ヒロインの全てを覚えていると自信を持って言えないしタイトルすら思い出せない。
分かっているのは大まかに純愛ルートと寝取られルートの二つのルートが各ヒロインに存在し、どの寝取られエンドでも俺が悲惨な結末で死ぬという事である。
なので俺は純一を純愛ルートへと進ませようと魅李との関係をサポートして寝取り野郎共を近づかない様に立ち回ってきた。
ここで一つ問題がある。
誰を攻略対象にし、それが以外のヒロインをどうするかだ。
俺は攻略対象を魅李としたが純愛エンドに行くまでに他のヒロインを無視する事は出来ない。
仮に彼女らが知らぬ内に寝取られた場合に俺がどうなるか分からないからだ。
だから俺は魅李と純一をサポートしつつその他のヒロインの動向もチェックし寝取られるのを回避する必要がある。
ヒロインが何人いるか覚えていないが…
過労死するわ!
しかし泣き言を言ってもしょうがない。
やらねば死ぬのだから。
だが、負担を減らす様に事を運ぶ必要がある。
どれだけ頑張ってもリソースには限りがあるからだ。
その中でも今目の前にいる白峰 美鈴は場合よっては殆ど労力を使わないで寝取られない様にする事が可能なキャラだった筈だ。
まさか俺が遠因で出会ってしまう事になるとは。
そこそこの規模の高校とはいえ同学年の生徒2人が高校3年間で会わない様にするなどどちらにしても難しかったであろうが。
「みーちゃん、こっちの高校に通うことにしたんだね。」
「う、うん。いや、うむ!お父さんの転勤の関係でな!純くんがこの高校に通っていたとは知らなかった!」
白峰は緊張した様子で純一と話している。
ゲームと同じ様に昔結婚の約束をした純一にいまだ憧れを持っている様だ。
だが残念ながら純一は覚えてないぞ。
たとえゲームを知らなくてもこいつが女の子にとって重要なイベントを覚えているわけがないと俺は考えるだろう。
むしろそこだけピンポイントで記憶喪失になる様な奴だ。
久しぶりの旧友との再会に両者和気藹々と話している中どんどん機嫌が悪くなっている人物がいた。
俺ではなく魅李の事である。
何故なら俺は最初から機嫌が悪いからな!
近況や昔の話をしている2人を目を細めて見ている。
ん?嫉妬?嫉妬か?良い傾向だ。
その嫉妬をバネに距離を詰めてやる事をやってくれ!
タイミングを見計らい魅李は話に割って入った。
「あの、白峰さん…でしたっけ?理由は知らないですけど縁助くんに謝りに来たんですよね?」
あ、もしかしてまた俺の話?
それとも2人の話を中断する口実に使っただけ?
本来なら後者の理由だったら烈火の如く怒るがこの世界では俺は熱烈に後者の理由希望である。
「む…?………ああっ!そうだ!すまない!」
魅李の指摘に白峰は再度俺の方を向き直りまた90度直角に体を折り曲げて俺に謝罪した。
「先程は勘違いで君を蹴飛ばして悪かった!」
「け、蹴っ飛ばしたって…。あなた何してるんですか!」
堂々と謝罪をする彼女に対して魅李は珍しく顔に怒りの形相を滲ませそれを責める。
純一も引いた様な顔で白峰を見る。
「えっ、もしかして縁助が倒れたのってみーちゃんが原因なの?」
純一が自分に引いているのを見て白峰は焦ったのか弁明を始める。
そりゃあ運命的に再会した好きな人に暴力女と思われたくはあるまい。
「き、聞いてくれ。違うんだ純くん。」
俺ではなく純一に説明しようとする姿に魅李は露骨にイライラを表情に出していた。
部外者の立場で修羅場を見れると思ったのに何故か俺が話題の中心である。
「先ほど、この場で猿渡君が私の友達の凛子の体に触っている様に見えて・・・、それで申し訳ない、正直自己主張の苦手な凛子に無理矢理いやらしい事をしている様に見えたんだ。」
改めて話をしている内に自己を反省したのか純一に向けていた顔をこちらに向けて俺に謝罪する。
純一は納得した様な顔をしているが魅李の怒りは収まらない。
「確認もしないで、こんなボロボロの縁助くんに暴力を振るうなんて・・・」
この俺への暴力に怒っている彼女が元のゲームではセクハラのお返しに上段蹴りを俺の側頭部にかますのだから人生とは分からないものだね。
白峰は入室して来た時の勢いは最早無く魅李の雰囲気に当てられ縮こまっている。
「本当に申し訳ない。凛子の体調を気付かってくれていたんだろう?あの後聞いたよ。・・・正直、すまない。私は君に偏見を持っていた。それが聞きもせず蹴り飛ばした理由の一つだ。」
「縁助の事知っていたのか?」
白峰の言葉に純一は意外そうに片眉を上げて質問する。
「え?猿渡君は有名じゃないか。そりゃあ知っているよ。その・・・」
魅李をちらりと見る白峰。彼女が怒らない言葉を探している様だ。
「その、猿渡君は1年生の頃からじょ、女性に性的な嫌がらせをするのがライフワークで性犯罪前科3犯のツワモノだって皆から聞いてたから・・・」
俺はいつの間にか学内でこの年にして前科3犯を持つ凶悪犯だと認知されていた様だ。
これまでの縁助ロールプレイの成果だと思うと我ながら誇らしく思える。
純一が純愛エンドで終わった後に俺は果たして社会的に生きているのだろうか。
純一は呆れた顔をし、俺は納得をしたが魅李は見た事ない顔で怒っている。
「え、縁助くんはそんな人じゃない!!!」
「私が言った訳じゃない!・・・ただ皆そういっているんだ。それで、すまない。言い訳になってしまうけれども私も偏見を持っていたんだ。それに愛陰会の元締めだとも聞いていたから。」
白峰はしょんぼりした顔で謝る。
勝気そうな顔の彼女がそういった顔をするとギャップ萌えで下腹部に熱が集まる。
「皆って・・・、誰がそんな酷い噂を流しているの」
魅李が悲しそうな顔で顔を伏せる。
「縁助くんは本当は凄く優しくて、思いやりのある紳士的な人なのに・・・」
彼女は日常的にセクハラをしている俺の言動と数時間前に詫びおっぱいを要望された事を忘れてしまったのだろうか。
「愛陰会って何?」
彼女は中学3年生の冬に俺に助けられてから俺に対して思い違いをしている。
俺は決して博愛精神に溢れた人間ではない。殆どの行動は自分の為の物だ。
だから、白峰は確かに行動が考えなしではあるが彼女が一方的に悪いわけではない。
実際俺は学内で特に女性から評判が悪いし、あの場面は勘違いが起こりうる状況だった。
「白峰、お前・・・」
先ほどから無言だった俺に名前を呼ばれた事で肩をびくらせる白峰。
「さっきから思ってたけど胸でかいなぁ!」
「え、ええっ!?」
急な俺の言葉に驚愕した声をあげる。
それを無視して、矢継ぎ早に彼女に言葉をぶつける。
「いやぁ、さっき頭下げた時におっぱいが強調されててさぁ!…ちなみにこのお詫びにその男特攻最終決戦兵器で何かしていただく事は可能なんでしょうか?」
「な、何かって…?」
パイ◯リに決まってんだろ!ナメてんのか!
と言おうと思ったが彼女のゲーム内での設定を思い出し言葉を変える。
「例えばこういう穴が二つ開いた板があったとする。」
俺はジェスチャーで正方形で丸い穴が二つ開いた板を表した。
それを恐怖のこもった目でじっと見つめる白峰。そしてこちらに向かって大袈裟に両手を振る純一。
「ごめん、その前に愛陰会って何?」
「ここに君のお胸を入れる。当然ブラジャーもなしだっ!」
そう叫ぶ俺に白峰は自分の胸を両腕で庇う姿で俺から少し離れる。
「そして、君には我が家の玄関に立ってもらい猿渡家専用のミルクサーバーになってもらう。更に君には右乳首を押したらツンデレ風に、左乳首を押したら淫乱風に使用者を誘惑してもらう…、どうだっ!」
意見を求める俺に白峰は狂人、もしくは異星人を見る様な顔をする。
「へ、変態野郎。」
恐怖からか体が震えており、顔は青ざめていた。
そして俺とは会話が通じないと思ったのか魅李の方を見る。
「だ、誰が紳士的だって?信じられないぐらいに鬼畜変態野郎じゃないかっ!」
「ち、違うの!縁助くんは偶にこういう事を言うことがあるけど…それには事情があるの!」
「事情だって?いかなる事情があろうとも女性をミルクサーバーにしてはいけないよ!」
先程とは立場が逆となり白峰が猛り魅李が弁明をしている。
すまん、魅李。何故お前がこんなに俺を擁護してくれるのか分からんが…行くよ俺は、変態の向こう側に…。
口論する2人に俺は割って入る。
「そんな話は今はいい!やるのかやらないのかどっちなんだ!」
「やるわけないだろ、この変態野郎!」
「じゃあさっきの貧乳ちゃんで我慢するから…」
「それってもしかして凛子の事!?ぶっ殺すよ!?」
白峰に対して攻勢をしかけつつ、俺は違和感がない様にタイミングを見計らい純一に目配せする。
純一は俺の思惑を一瞬で理解しヒートアップしている俺に近づき肩を叩いてくる。
「あ、純一!聞いてくれよ!この女がおっぱいミルクは赤ちゃんが飲むものだって訳のわからない事を言うんだ!牛乳の年間消費量のシェアは精通後の男性が圧倒的なのに!」
「分かった、分かった。縁助、落ち着け。」
純一は俺に対して穏やかに微笑みそっと俺の喉元に指をかける。
そして落ち着け、落ち着けと言いつつ気道を指で締めるフリをする。
数秒後俺は息ができなくなり気絶した、フリをする。
「純一!?縁助くんになんてことするの!」
「魅李…、お前の気持ちも分かるけど今、みーちゃんの意見を変えるのは無理だ。今のは縁助が悪い。今のがなくたって時々縁助は変な行動をする。それは魅李も見ているはずだ。変な噂が立つのも当たり前だ。」
純一の正論に魅李はうわ言のように違うと言い続けているのが聞こえる。
なんだが魅李が可哀想になってきた。
数秒後すすり泣く声が聞こえてきた。
魅李は俺のために泣いてしまったようだ。
流石の俺も罪悪感で胃がかつてない程痛くなる。
そして何故かマイサンもほのかに元気づいてくる。
流石俺である。
「魅李…」
「なんで、なんで誰も分かってくれないの…?純一も幼馴染なのに…。昔からの友達なのにっ…!縁助くんは私のために………、私のせいで………」
魅李は言葉に詰まりながら意味の通らない話を散発的に泣きながら言う。
しばらくすると走り去る音が聞こえた。
魅李が保健室を出たようだ。
数秒の無音。
遠くから野球部の練習する声が聞こえる純一は掠れた声でおそらく呆然としているだろう白峰に話しかける。
「なんか…ごめんね。」
「いや………、私の方こそごめん。元はと言えば私のせいだよね。」
白峰は俺が気絶し、魅李が去り昔馴染みの純一と2人っきりになった保健室で昔の様な口調に戻っていた。
彼らが結婚の約束を交わした時の頃の口調に。
それを聞いて俺も段々とゲームでの彼女の情報を思い出し始めた。
「私…、猿渡君の事は…ごめん、やっぱり噂通りの人としか思えなくなっちゃった。でも、あの子があんなに彼の事を庇うのを見ると…申し訳ない気持ちになるし、凄い変態だけど悪い人じゃないって思うよ…。」
「しょうがないよ。まあ縁助はご覧の通り変わったやつだしさ。」
純一はそこで一拍置く。
「でも、みーちゃんにもいつか分かってほしいな。縁助が凄い良いやつだってさ。」
………余計なこと言うなボケ。
そして白峰と純一はまた別の機会に話そうと連絡先を交換し白峰は保健室を出てった。
俺はベットから上体を起こす。
その様子に純一はこちらに先程自分が持ってきた飲料を投げ渡す。
無言で飲む俺に対してこちらを見ずにぼそっと純一は呟く。
「やっぱ縁助は気にしいだよ」
純一の分際で俺の事をわかった様に分析するな。
だが、実際の所、魅李は先程純一も俺の事をわかっていないとこいつを責め立てたがやはりこいつ、つまり10年来の親友であるこいつが俺の事を一番わかっていた。
お前と違って俺は余計な事を言わないので口には出さないがな。
純一の言葉を無視して黙って水を飲む俺に奴はこちらを向いて真剣な顔で問いかけてきた。
「ところで………愛陰会ってなに?」
……………
お前は本当にどうでも良いところでしつけぇな!そんなのどうでも良いからさっさと魅李ちゃん追いかけろや!俺はそう怒鳴り奴を保健室から蹴飛ばした。
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