第4話
全身が暖かなふわふわした物に包まれてるのを感じる。
一瞬天国にいるのだと勘違いしそうになるが微睡んだ意識の中で友人達の声が聞こえてくる。
どうやら俺はまだ同人エロゲの世界で生きていく必要がありそうだ。
「あの縁助が倒れるなんてな。」
「うん・・・、やっぱり付き添ってあげれば良かった。なんであの時縁助くんを1人にしたの?」
魅李が先程校舎裏に俺を1人置いて行った純一を責めているようだ。
だがその責任の一端はおっぱいを俺に差し出そうとしたあなたにもあるんですよと言ってやりたかった。
だが疲れた俺はまだうとうとしていたかったのでただ会話を聞き続ける。
まさか親友のおちんちんが大きくなっていたからとは言えない純一は言葉に詰まっていた。
「前から思ってたけど私達、縁助くんに甘え過ぎだと思う。さっきみたいな時、いつも縁助くんが割って入ってくれてるし。」
「…そうだな、確かに。縁助にはいつも助けられてるな。」
寝たフリをする俺に気づかず話を続ける2人。
中学3年生の冬から今に至るまで俺はこの2人を陰日向からサポートしてきた。
何が寝取られエンドに繋がるか分からなかったし、この2人がさっさと仲を深めて純愛エンドルートに行って欲しかったからだ。
ゲームでの初期設定の一つに主人公とヒロインの関係性を決める選択肢がある。
恋人と、幼馴染の2択だ。
だが、結局今に至るまで俺はこの2人をくっつける事は出来なかった。
だがその活動の中で純一は自分の恋心を自覚する様になってきたし、魅李も純一を意識している、はずだ。
だがその恋のキューピッド活動の中で俺はこの2人と以前より積極的に関わる事となった。
それにより純一はともかく魅李と縁助との関係性がかなり変化している。
当然ゲームではないから当たり前だが、俺はそれにそこはかとない悪い予感を覚える。
「私やっぱり縁助くんに何かしてあげたい。」
決意のこもった声でそう宣言する魅李。
純一はそれに返答する事はなく、しばらく無言の時間が流れた。
「…さっきおっぱい揉ませようとした時みたいにか?」
ようやく口を開いたかと思えば先ほどの話を蒸し返す。おい余計なこと言うな。
「それは忘れてって言ったでしょ!…さっきは気が動転してただけだから。」
魅李はそれに大声で反応するが俺が目の前で寝ている事に気付き小声となる。
「…ともかく、私は縁助くんにお礼をするから。純一も手伝ってよ。」
「そりゃ勿論良いけど。何するんだ?」
「う〜ん、お弁当作るとかどう?」
「縁助のお弁当は美咲ちゃんがいつも作ってるしお節介にならないかな。」
「あ〜、そうだったね。」
美咲とは俺の妹だ。
我が家の家族構成は両親に俺と妹である。
高校1年生で同じ学校に通っている。
毎朝俺と父親のお弁当を母親と作ってくれている出来た妹だ。
その報酬に父親からお小遣いをもらっておりそれが彼女の目的ではあるが、俺が言うのもなんだがブラコン気味である彼女は俺の弁当を作るのを楽しんでいる節がある。
急に弁当をいらないと言ったら大いに拗ねて悲しむ可能性大だ。
妹より数倍シスコンである俺に妹を悲しませる行動は出来ない。
「それに縁助ってああ見えて気にしいだし、俺らの負担考えて断ると思うよ。」
純一は俺の事を分かってる様にそう分析する。
俺は別に気にしいというわけではないが、この3人でいる時には意図して2人っきりにさせようと行動していたために純一は自分達に気を遣ってると勘違いをしている。
俺はただお前らがさっさと恋人になって早急に挿入出来る関係へと発展して欲しいのだ。早く俺を死の恐怖から解放してくれ。
「じゃあプレゼント!これなら継続的な事じゃないし日頃の感謝の気持ちって事で渡せば遠慮もしないでしょ?」
「う〜ん、そうだな。それが一番良いな。」
2人の中で意見が一致したようだ。
俺は彼らと仲の良い友達だし、自分の為に何かしてくれようとするのは大変ありがたい。これは正直な気持ちだ。
それを前提に俺の本音を言おう。
ありがた迷惑だ!
俺の事を性格が腐った奴と言う者もいるだろう。
だがお前らは俺の事は気にせず2人で仲を早く深めてくれ!なんならそれが俺が一番望んでいる事だ!
そんな心の中で慟哭をあげている俺をよそに彼らは俺に渡すプレゼントの話をしている。
「縁助くん何か欲しいものとかあるのかな?」
「そういえばこの前リニューアルオープンした遊園地に行きたいって話してたかも。」
「それいいね!チケットはこっち持ちで3人で行こうよ。」
役立たず甲斐性無しクソボケ純一がまた余計な事を言っているのが聞こえてくる。
確かに俺は遊園地の話を先月くらいにした。だがそれは暗に魅李と2人で行けって言ったんだよ!この主人公様だけは本当に俺の想定通りに動いてくれない。
「あ、でもあいつ最近美咲ちゃんと行ったって話してたなぁ。」
また面倒な展開になると思ったが純一は俺が遊園地に既に行った事を思い出した。
そうだ、このボケがいつになっても誘わないから妹への日頃の感謝の気持ちも込めて遊園地に遊びに行き、その話を純一にした。
めっちゃ楽しかったわ!お前も行ってこいよ、魅李ちゃんとかも楽しめると思うぞ!
ってな、しかし直球でそう伝えた俺に純一は軽く笑いながら。
へー、いいなー。
でも魅李も部活で忙しいしなぁ。
タイミングあれば誘ってみるよ。
とふざけた事を抜かし結局誘わなかったのは記憶に新しい。
お前、魅李の事好きじゃないっていうかむしろ嫌いなのか?
流石の俺もその時は奴の魅李に対する恋心を疑った。
だが俺はこいつは寝取られゲーの主人公である事を思い出し、ぐっと罵倒したい気持ちを我慢した。
寝取られゲーの主人公など積極性というパラメーターがマイナスに振り切っているとしか思えない不可解な行動をする連中ばかりである。
純一が悪いわけではない。
ただ生まれが悪かっただけだ。
俺が彼らの会話からその話を思い出しふつふつと怒りが込み上げている中ようやく俺に渡すプレゼントが決まったらしい。
それはある海外のブランドのジャケットだった。
これは俺による〜寝取られゲームの雑魚チンをプロデュース〜とは関係ない会話の中で純一にした話だ。
前世で似た様なブランドが人気になりプレミアが付いて価格が高騰していたのを思い出した俺が何となく(転売目的で)欲しいと言っていたのを覚えていた様だ。
プレミアは付いていないとはいえブランド物のそれは10万円以上値段がする。
ネットで調べた純一達もその価格に低い呻き声を出していた。
「あー、高いなぁ。やっぱ別のにするか?」
そうしてくれ。
というかマジで俺の事は気にしないでくれ。本当にお礼なんてキャンディーとかで充分だから。
もう俺の話はいいし、さっさと2人で遊園地にでも行ってくれ。
だが純一の言葉と俺の気持ちとは裏腹に魅李の固い意志を感じる声で俺にとって絶望的な事を宣う。
「…ううん、バイトして買う。」
「えっ!バスケ部で忙しいのにそんな時間あるのか?」
「週一ぐらいなら出来る…と思う。後は週一で働かせてくれる所を探せば良いよね。」
驚く純一を置いて魅李は話を具体的にどんどんしていく。
早速携帯でバイト紹介サイトを見ているのだろう、純一にどういったバイトがいいか相談している魅李。
純一も魅李の意思が固い事に説得は諦めたのか半分ずつ出し合おうなと言いつつ同じくバイトを探し始めている(本当にくそ使えねぇ奴だ)
そしてようやくニーズにあったバイト先を見つけたのか純一が明るい声でそのバイト先を魅李に伝える。
「このカフェの店員なんてどう?週一勤務OKで勤務時間もフレックスみたいだし。」
あかああああああん!
俺は心の中で叫び飛び起きる。
急に身体を起こした俺に純一と魅李は身体を大袈裟にのけぞらせ驚く。
場所は保健室の様だ。意識を失った後そのままここで寝させられていたのだろう
「え、縁助。起きたか。」
「縁助くん、身体は平気?先生呼んでこようか?」
心配する2人をよそに俺は純一の携帯をひったくる。
「あ、何すんだ!」
「純一…ここだけはやめとけ。」
俺は画面を憤る純一に向けそう伝える。
「な、何で?というか俺らの話聞いてたのか?」
ここにお前の大事な幼馴染をバイト中に羞恥調教して最終的に店の常連と乱パ開くネームド間男オーナーがいるからだよ!と言えればどれだけ楽か。
それを言ったが最後俺は保健室から精神病患者用の病棟へと場所を変えられしばらく出てこられないだろう。
「ここは、あれだ………あのぉ、発展場らしい。」
「え?発展場ってあの?」
「そうだ、同性愛者達の憩いの場で有名なんだ。だから最初のバイト先としては難易度が高いんじゃないかな。うん。」
我ながら意味不明な理由だが寝取られゲーの主人公特有の絶望的な察しの悪さを発揮して見逃してくれ、純一!それがお前のためなんだ!
「でも、ネットで調べてもそんな事でてこないけど…」
俺から携帯を取り戻した純一に冷静にそう返される。
こういう時に限ってお前は!と俺が憤っていると魅李に肩を優しく掴まれる。
「縁助くん、まだ寝てたほうがいいよ。さっきから震えてるよ?」
それは怒りによるものです。はい。
急に触られ驚く俺をよそに彼女はそのまま俺をベットに優しく倒した。
「本当に今日は、ううん、いつもありがとう。毒島先輩に絡まれて凄い困ってたんだ。あの人強引だったからあのままだったら本当に危なかったと思う。」
そして俺の頭を優しく撫で始める。女の子のおててってこんなに柔らかくて暖かいんだ。一瞬夢心地にさせられるが脚の皮を強くつまみ意識を取り戻す。
危なかった。
まさか精神年齢40越えの俺がこんな小娘にバブみを感じておぎゃらさせられかけるとは。
防御を固めた俺だがママは追撃で布団越しにお腹を優しくぽんぽんし出した。
ばぶぅ〜ほぎゃほぎゃ。
「さっきの話聞いてたんだね。サプライズにしたかったんだけどな。」
なぶぅ?
「縁助くんはそんな事しなくて良いって言うだろうけど。私がしたいの。遠慮しないでよ。」
きゃっきゃっ
「私達、幼馴染でしょ?」
……………えっ?
完全に赤ちゃんになっていた俺がその一言で正気になる。
それほど衝撃的な言葉だったからだ。
俺と純一は小学一年生からの付き合いのためもう10年来の腐れ縁となる。
その流れで魅李とも長い付き合いだ。
だが俺も純一も、魅李もあくまで幼馴染は純一と魅李の事で、俺は仲の良い友達というポジションという認識のはずだった。
だが彼女は俺の事を幼馴染と言った。
その関係性は純一と魅李の絆を表す大切な関係のはずだ。
ゲームでも幼馴染である事は事あるごとに強調されていた覚えがある。
それがより寝取られ感を増させる設定だからだ。
純一の方を見る。
呆気に取られた顔で魅李を見ている。
魅李にとっても俺を幼馴染と呼ぶのは当たり前ではないという認識のはずだ、その証拠に少し目が泳いでおり顔が薄ら赤くなっている。
「だから縁助くんとはお互いに助け合う様な関係になりたいんだ。」
早口の彼女に俺はなんの返答もできない。
純一は何か悔しそうな顔でこちらを見ている。
それを見て俺の中に仄暗い感情が芽生えるのを感じる。
俺は元々寝取られゲームが好きだった。
それは俺の性の癖とがっちりと組み合わさったからだが、俺はそういった作品をどういう視点で、どういった楽しみをしていた?
大切な人が汚され、盗られる事に興奮していたのか。
もしくは想い人がいるのに抗えない気持ちよさで堕ちていくヒロインに興奮していたのか。
それとも…他人の大切な人間を堕とすことに興奮していたのか。
そして俺は魅李の事をどう思っているんだ?
と、なんだかシリアスに物事を考えていた俺の思考は轟音によって強制終了される。
「猿渡縁助はいるかあああああ!」
スライドドアを壊す勢いで開き保健室に侵入してくる白峰。
そして驚愕する俺らの前まで歩いてくると俺に向けてすごい勢いで頭突きをしてくる。
いや違った、頭を下げてきただけだった。
「凛子に全て話を聞いた!すまん!私の勘違いだった!」
唐突に俺にトドメを刺した彼女はまた唐突に俺に殆ど叫び声の様な謝罪をした。
鼓膜が破れそうほどデカい声に体力と防御力を削られるが助かった。
彼女のおかげで正気に戻った。
俺はバカか。
純一と魅李がハッピーエンドにならなければ俺は死ぬんだぞ。
俺の性癖が何であろうが性欲の為に死ぬ事が出来るほど俺はエロの殉教者ではない。
突然場を荒らした白峰に純一と魅李も瞠目して彼女を見る。
だが純一は突然アマゾネスが保健室に乱入してきた事だけに驚いたわけではない。
「み、みーちゃん?」
「む………、じゅ、純くん…?どうしてここに?」
声をかける純一に白峰は反応する。
出会ってしまったか…
何もかもが唐突な彼女はこのゲームのヒロインの1人にして寝取られるのも唐突なチョロインだ。
長期休暇の時に親の帰省先である田舎で出合い、その後帰省の度に遊び仲を深める事となる。
そして結婚の約束を子供心ながらした2人は高校で再会することになる…
そんなゲームのワンシーンが状況はかなり違うものの目の前で再生されているのを見て俺は天を仰ぐ。
本編が始まった時点で魅李だけに注視していれば良かった時期が終わりを告げていた事は分かっていた。
しかし、この白峰は純一と出合いさえさせなければ何も起きなかったかもしれないのに…。
俺は今後の学校生活がハードモードからヘルモードに移行した事を認識し、心の中で静かに泣いた。
ママ、僕もう疲れちゃったよ。
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