第3話
我が根野鳥高校の保健の先生は男性である。
保健の先生といえば若い女性と相場は決まっているが、ここではそんな前世の常識は通じない。
同人エロゲの世界では保健の先生は専ら怪しい薬を使って女性キャラを堕とす醜男である。
それは原作エロゲのこの世界においても例外ではない。
俺の目の前には前世はスタ◯リンや毛◯東レベルの悪人であった事を思わせる程奇跡的な見た目の醜さの男がいる。
腹増 薬蔵というエロゲ特有のイかれた名前を冠するネームド間男キャラだ。
最早今生でも徳を積む事は叶わぬであろう見た目通りの腐った性格をしている。
そいつは顔に付いたケツの穴から糞の様なセリフをこの俺に吐きかける。
「ちっ、仕事増やしがって。ほらよっ」
女に対してはキモい程心配するふりをして触診をする薬蔵だが男である俺には湿布を放り投げる程度である。
必殺のネリチャギをかましたくなる程殺意を覚えるが今こいつを殺るわけにはいかない。
こいつはゴミクズ野郎だがまだ何もやっていないからだ。
理由なしでこいつを殺害したらいくら害虫駆除の一環とはいえ二週間は自宅謹慎となるだろう。
それは即ち寝取られイベントに介入出来なくなる事を意味する。
つまり俺は死ぬ。
なので怪我をした善良な男子学生に対して迷惑そうに早く出ていけよという顔をしたこいつには今は手を出す事は出来ない。
いつか殺す。
俺は殺意を胸の奥にしまいこみ保健室を出る。
さて、まだ授業中だがどうするか。
今日は既に満身創痍だったが魅李は油断したらいつの間にか寝取られている最初の街にいる雑魚モンスター並にちょろい女である。
そしてそれを守るべき存在の我らが主人公純一は寝ている時より起きている時の方が油断している自然界の神秘の様な男だ。
ゲーム内のイベントを全て覚えているわけではない俺としてはとてもじゃないが奴らから目が離せない。
しかし俺をこのイかれた世界に送り込んだのが神様だとして何故一度しかプレイしていない同人エロゲの世界を選んだのだろう。
だっていまだに俺はこのゲームのタイトルも思い出せないのだ。
神への呪詛を頭の中で垂れ流しつつ教室に戻ろうとした俺だが後ろからスライドドアを開ける音がして、そちらを振り向く。
先程俺が出てきた部屋。
つまり保健室に女生徒が入ってくのが見えた。
普通だったら気にしない光景だが、彼女は暗い雰囲気を纏っているものの可愛かった。
そして尚且つ保健室は薬蔵の蜘蛛の巣だった。
俺は気になって、来た道を戻り廊下から中の様子を隠れて伺う。
女生徒は後ろ姿しか見えないが俺の知らない女だった。
俺の知らない女という事は純一も知らないという事だ。
奴の関わる女は全てチェックしている。
キモいと思った君は奴の恋愛が俺の命と直結している事を思い出してほしい。
俺は必死である。
そんな俺が彼女の事で気になったのはただ一点。
彼女がゲームのヒロインなのかどうかという事だ。
当たり前だがこの世界はある同人エロゲの世界を基にしているがゲームとは違う。
大きな違いとしていわゆる絵柄が違うのである。
元の同人エロゲは二次元絵だったがこの世界はリアルグラフィックの世界だ。
ゲームが現実を超えたってやつだな。
まあ残念な事は今の俺にとっては間違いなく現実なんだけどな、ぐへへ。
まあ、ともかく仮にこのゲームの世界が生涯に選ぶ一本レベルで好きなゲームだったとしても元のゲームから現在の姿を認識するのは至難の技という事だ。
なおかつ俺はこのゲームをただの数ある同人エロゲの一つとして消費しただけである。
だから俺はヒロインの基準の一つを純一に近しい女として厳選していた。
主人公と関わりのない女の子が誰とSEXしようがそれは寝取られ同人エロゲではない。
ただの現実だからだ。
俺は彼女を知らないので基準の一つを満たしていないが…。
自分が死ぬ可能性が少しでもあるならやはりここは確認するべきだろう。
なにしろ相手はあの薬蔵である。
先ほどとは打って変わって鼻息荒く興奮して女生徒と何やら話している薬蔵。
既に執拗なボディタッチを敢行していた。
まるで盛りのついた猿である。
相手が気の弱そうな相手だからというのもあるだろうが薬蔵は最初からイケイケドンドンの様だ。
野生ではその積極性は種の保存のために重要であるが人間社会ではクズの動物園こと刑務所への収監に値するものだ。
そこでおれはある事に気付く。
あれ?もしかして今ってあいつ殺すチャンスじゃないか?
先程胸の奥にしまった殺意がサルベージされる。
女生徒にベタベタ触る姿を襲われてると思った俺が緊急回避で対象を無力化(殺害)。
うん、このシナリオなら精々罰は丸坊主で済むだろう。
などとアホな事を考えていた俺だが薬蔵に体を触られ怯える彼女が見ていられず保健室内にわざとらしく音を立てて入っていく。
「おい、マオ・ツォートン!お前がよこした湿布がクソくせぇんだけど!新品をよこせ!」
突然の侵入者に薬蔵は急いで彼女から手を離す。
俺はその様子をわざとらしくニヤニヤとした顔で問い詰める。
「あれ?先生お邪魔でした?でも駄目っすよー、先生が未成年淫行と強姦なんてしたら今度こそ来世は地獄界っすよ。」
「…な、何言ってるんだ。急に入ってきて失礼な事を言うな。俺はただ業務として彼女に触診していただけだ…」
焦った顔でアホみたいな言い訳を早口で宣う薬蔵。そして笑顔だが圧のある顔を女生徒に向ける。
「な?黒岩?」
「ひぅ…」
黒岩、黒岩。ダメだピンとこない。
彼女はヒロインではないのだろうか。
彼女は突然入ってきた俺にも圧をかけてくる薬蔵にも怯えきっていた。
髪で顔を隠しているが俺にはわかる。
彼女は可愛い!
やはりヒロインか?
だがそのバストは貧相だった。
寝取られエロゲのヒロインは魅李の様な豊満なバストと相場が決まっている。
やはり違うか?
というか魅李のおっぱいやっぱ揉んどきゃ良かったなぁ〜。
俺が彼女に対する考察を進めていく中で逃した魚の大きさを思い出し我慢汁の様な綺麗な涙を流す傍ら薬蔵は彼女を更に詰める。
「な?具合が悪いって言うから先生はお前のためを思って調べてやってたんだぞ?」
言い訳に必死な薬蔵に彼女は涙目だ。
ぬぅ…、かわいい。
俺は豊満なおっぱいも大好物だが小動物系の女の子が怯えてる姿もそれだけでご飯3杯行けるぐらい好物だった。
だがこれはゲームではない。
そして俺はご近所では評判のナイスガイである。
「やめなよ、彼女が怯えているじゃないか。」
「ちっ、猿渡…」
割って入る俺に舌打ちをかます薬蔵。
「さて、腹増先生は彼女に触診をしていただけと主張する。俺は強姦未遂の現場だと思っている。そして肝心の被害者の彼女はなんだが一杯一杯の様子だ。このままでは埒が開かない。」
突然行列の出来る法律相◯事務所の様に状況をまとめ出す俺に薬蔵は困惑を顔に出す。
黒岩という女生徒は処理能力に深刻なエラーが発生したのか先ほどからフリーズしている。
「ここは三者の折衷案を取ろう。」
「折衷案…?」
「俺が彼女に触診する!!」
急な俺の宣言に薬蔵は勿論フリーズから強制復帰した黒岩も驚愕する。
「な、何を言ってるんだお前はっ!」
「全ての問題を解決するには最早これしかない!俺は先生に彼女をセクハラしてほしくない。先生は彼女の具合を確かめたい…えっちじゃない意味で。」
「何を言っているんだお前は…」
「そして彼女は体調を見てもらいたい!これはもう俺が先生の代わりに触診を彼女にするしか道はない!違うか先生!」
我ながら完璧に無茶苦茶な理論だった。
だが薬蔵はこの場を逃れられるならと思ったのか強く反論してこなかった。
俺はそんな薬蔵は意識から消して黒岩に向き合う。
小柄な体型だ。
軽く触れても傷付いてしまいそうに儚い少女だった。
これを今から汚す自分を想像するとそれだけでもう1人の俺は元気いっぱいになりそうだった。
「じゃあ、触るよ…」
彼女に向けて利き手を近づける。
そんな俺から逃れる様に彼女は体を縮こませる。
「か、堪忍してぇ…」
京言葉を使う彼女が西の出身であることが分かった。
意外な個性に俺はもう辛抱堪らなくなり右手を彼女の額に当てる。
体を触られると思っていた彼女はびっくりとした顔をこちらに向ける。
俺は彼女を安心させる様に微笑み額から手を離す。
「ああーこりゃ風邪だね。早く帰った方がいいよ。」
可愛らしい顔で呆然とする彼女から地獄の3丁目の様な顔をしている薬蔵へと顔を向ける。
「ほら、せんせぇ〜。風邪みたいだし、彼女の担任の先生に言っといてよ。早退するってさ。」
「…風邪だと?体温計で測ってもいないのにか?」
そういって幼稚な嘘を鼻で笑う薬蔵。
「そりゃ正論だ。じゃあ触診してたあんたはなんだって話だけど。まず体温測るだろ普通。」
「ぐっ…」
しかし同じく幼稚な嘘をついていた間抜けにはその正論は使えない。
俺は言葉に詰まる薬蔵を無視して彼女に優しく言葉をかける。
「大丈夫?1人で立てる?」
彼女は先程より顔を赤くして頷く。本当に熱がありそうだ。
「具合が悪い時は無理しないでいいんだよ。家でゆっくり休みな。」
椅子から立ち上がる彼女を見守る。
緊張していた状態で長い時間座っていた為かそれとも具合が更に悪くなったのか立ち上がった彼女がよろけたので慌てて支える。
「大丈夫?家族の人に迎えにきてもらおうか。」
そう心配する俺に彼女はこくりと頷く。
「ぁ、あの…ありがとうございます。」
そしてか細い声でしっかりとこちらを見ながらお礼を言った。
可愛い!
先ほどは我慢した激情が復活し彼女に熱烈なキスをしたくなる。
しかし奥歯を噛み締めて我慢する。
うーん、しかしやはりピンとこない。
彼女はヒロインではないのだろうか。
そう考えていた俺の思考は轟音と衝撃によって遮られる。
俺は突然横から蹴り飛ばされて保健室にあった人体模型へと吹っ飛ばされた。
「凛子になにをしているかああああ!!」
そう叫び声を上げながら俺を蹴り飛ばした相手を見る。
掠れゆく意識の中で、黒岩の肩を抱くその長身の女と目を白黒させている薬蔵を見て俺は黒岩という女生徒のゲーム内での役割をようやく思い出す。
俺を蹴り飛ばした女は有名人だ。
名前は白峰 美鈴。
実質剛健という言葉がよく似合うこの学校の風紀委員長である。
そして黒岩はヒロインの1人である彼女の友達にして薬蔵に堕とされ友釣りの為の餌にされるサブキャラだった。
だが今はそんな事はどうでもいい。
毒島との死闘でボロボロになっていた俺は彼女の攻撃でトドメを刺されることとなった。
わりぃ純一、俺死んだ。
俺は最後に親友のこれからの悲惨な寝取られ人生を憂い意識を闇へと落とした。
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