第2話

「おお、純一。ここにいたか。」

「縁助、なんか用か?」

「いや、さっき魅李ちゃんがあの毒島先輩と歩いている所を見つけてな。校舎裏の方に歩いて行ってたぞ。」

「えっ、あの毒島先輩と?」


・・・ヤンキーで女癖が悪い事で有名なあの毒島先輩と魅李が一緒に?


なんだか嫌な予感がする。魅李に限って万が一もないと思うけど・・・。


「ありがとうな、教えてくれて」


俺は縁助にお礼を言い、モヤモヤした気持ちを持ったままその後の授業を受けた。

授業には魅李が出ていなかったが何かあったのだろうか・・・






「何かあったのだろうか・・・、じゃあねぇよボケが!何で今!行かないんだよ!」



態々教えてやった情報を無駄にしようとした主人公である純一を俺は後ろから蹴り飛ばす。


「いった!何するんだよ!」

「嫌な予感したなら今行けよ!大切な幼馴染なんだろうが!」

「何で俺の考えている事がわかるんだよ!」

「大体分かるわ!俺がいくつの寝取られゲーをクリアしてきたと思ってるんだ!」


知るか!と喚く純一を引っ張って校舎裏へと向かう。

校舎裏には案の定毒島に壁際に追い詰められて言い寄られている魅李がいた。


ゲーム本編では簡単に寝取られる雑魚の純一だがその光景を見ると急いで魅李と毒島の間に割って入っていった。


その光景を俺は影から見守る。

ここまで連れてきたのは俺だが純愛ルートの為に魅李の純一に対する好感度を上げたかったので彼に任せることにした。

暫く口論をする純一と毒島。そして毒島が純一を殴り飛ばした。

倒れる純一に毒島は蹴りによる追撃をしだす。

あ、あれ、純一さん?大丈夫か?

思っていた光景と違うものを見せられて困惑する。

大丈夫だよね?純一さん、主人公だもんね?

しかし俺の期待とは裏腹に純一はなすがままにボコされている。

そういえば純一は主人公は主人公でも寝取らゲームの主人公だった。

間男に勝てるはずもない。

ついには魅李が割って入り毒島を止める。


「やめて!分かったから!言う通りにしますから!だから、これ以上純一を殴らないでください・・・」

「えっ?マジで?ラッキー♡」


大切な幼馴染を守ろうと必死な魅李は毒島という下衆珍と何かしらの約束をした。

もしかしてこれは主人公を守る為にヤンキーに体を差し出す寝取られイベントだったのだろうか。

だとしたら失敗をしてしまった。

だが一度プレイした事がある程度のゲームの全てを流石に覚えてはいない。

誰が俺を責められようか。

ゴリ豚のイベントを覚えていただけでもむしろ褒めてほしかった。

とりあえず取り返しのつかない事になる前に介入する事にしよう。


「おーい、毒島せんぱぁい。何してるんすかぁ?」


俺が声を掛けると毒島は嫌そうな顔を、魅李は安心した顔を、そして純一は睨みつけてきた。

顔が一人で突っ込ませやがって!と訴えていた。

怒りたいのはこっちの方だ。

あっさり負けやがって。

だからお前は寝取られゲーの主人公なのだ。


「さ、猿渡」

「俺の事知ってるんすか?毒島先輩に覚えていただいて光栄ですわー。・・・で、俺の大切な友達に何の用っすか?」


二人を庇う様に毒島の前に立つ。


毒島は俺より頭一つ分高かった。

体格的に自分の方が優位である事を認識し先ほどまで何だがビビっていた毒島の顔に余裕が出来ていた。


「ただ、魅李ちゃんをデートに誘っただけだよ。そしたらそこの男が喧嘩売ってきてさー。ほら、俺ってビビりだから、つい怖くて手が出ちゃった。」


そういって俺の胸倉をつかむ。


「あの有名な猿渡くんに絡まれるなんてマジでこえーわ。ビビッてまた手が出ちゃうかも。」

「や、やめてください。言う通りにデートしますから縁助くんにも手を出さないで下さい。」


先ほど俺の登場で安心した顔をしていた魅李だが今の様子を見て再び弱気になり俺を守ろうとする。

その様子にため息を一つ。

そして俺は唾を毒島の顔面に向けて放つ。

顔を咄嗟に動かし避ける毒島。

その隙に毒島の肩に両手を掛けてそれを支点に頭突きをする。


「いってぇ!てめぇ!」


予想外の反撃を食らった毒島は猛り俺の顔面を殴る。

激痛が走るがひるまずに再度頭突きをする。俺から離れようと膝蹴りを腹にしてくるがひたすら頭突きをする。

毒島の鼻から血が出てくる。

代わりに俺も鼻血を出し顔面は腫れあがっていた。

このままだと俺の方が先にぶっ倒れそうだ。

当然体格も筋力も違うので当たり前だった。だがそれでも俺はひたすらに頭突きをする。距離を取られたら攻撃すら当たらないかもしれないからだ。

ついに毒島は割に合わないと思ったのか俺の頭を押さえつけて謝ってくる。


「わ、分かった。もうしないから離せ。」

「・・・ふぁかってふれたらいいんすよ」


顔が腫れあがり喋るのも辛い。毒島は俺が手を離すと幸いにも言葉通り捨て台詞を言って去っていった。


「ちっ、必死かよ。きっしょ。」


毒島の言葉に収まりかけた場を再度自ら乱そうと思うほど怒りが込み上げる。

必死?そりゃあ必死だよ!?てめぇがこの女とヤったら俺は世界に殺られるんだよ!!

と、激情に蓋をしてまたため息をつく。

そして毒島が去っていたのを見て気が抜けたのか膝から崩れ落ちてしまった。

動けるようになった純一と魅李が慌てて駆け寄ってくる。

「大丈夫か?縁助。」

「ごめんね、縁助くん私の為に・・・」

大丈夫?大丈夫なわけあるか!と叫びたかったがそんな元気もなかった。

何よりも責めてこの二人が気まずくなるのも避けたかった。

結果だけみれば純一はあっさりやられて曲がりなりにも俺は毒島を退けたからだ。

魅李の純一に対する好感度の為にも、純一が魅李や俺に負い目を感じさせないためにもおどける事にした。


「俺ほどタフって言葉が似合う人間もいねぇな。いやはや、毒島の野郎も大した事ないな。」

「ボコボコにされといて何言ってんだよ。」


純一は俺がふざけるのを見てそう茶化した。こういう時腐れ縁というのは便利な関係だ。俺がシリアスな話にしたくないのを汲み取ってくれていた。

だがまだ魅李は浮かない顔をしていた。

変に今回の事を引きずられて毒島が取り入る隙を作ってしまうのは俺としては避けたかった。

なので、俺はゲームの縁助の口調を意識して魅李に声を掛ける。


「暗い顔しないでよぉ~魅李ちゃん。俺はお詫びにおっぱい揉ませてくれたらそれで満足だからさ!」


縁助はゲーム内ではエロ猿というあだ名がつくヒロインに性欲全開で話しかけ、嫌われているキャラだった。

何故こんなキャラなのに竿役になれなかったのか不思議だ。

竿役になれたら理不尽に死ぬ運命にはならなかったかもしれないのに。

エロ猿モードになった俺を見て純一が呆れた顔をしている。

さあ、魅李ちゃん。

ゲームの様にこのエロ猿!とか怒鳴ってこのシーンを終わらせてくれ。

でも殴るのはやめてね。

何故ならすでにボコボコでおそらくヒットポイントが後1しか残ってないからね。

だが予想とは裏腹に彼女は押し黙り真剣な顔で何かしら頷いていた。

「・・・うん、そうだよね。縁助くんにはいつも助けられてるもんね。あの時も・・・」

小声でごにゃごにゃ何かしら呟くと真っ直ぐ俺の方を見つめてきた。

彼女の顔に赤みが掛かっていくのが見てわかる。

そして躊躇いがちに口を開いた。


「分かった。いいよ。でも、出来れば家がいいな。放課後、縁助くん家に行っても良い…かな?」


予想外の反応をされて俺も純一も言葉を失う。


「え、いや、あの…」

「み、魅李?」

「あ、ごめん!今すぐが良い?でも外は流石に恥ずかしいよ…。せめて人がいない所で…」


困惑する俺たちに気付かず魅李は恥ずかしさで頬を赤らめながら地面を見つめてもじもじしている。

数秒程目を瞑り今度は純一の方を見た。


「ごめん、純一。ちょっと外してくれるかな?」

「え?俺!?」

「もう!当たり前でしょ!あなたがいたんじゃ恥ずかしくて縁助くんにおっぱい触らせられないじゃない!」


魅李が当たり前のことの様に狂った事を言う。

そんな彼女に俺らは面食らう。

そんな男達をよそにブラも外さないと行けないし…と呟く彼女。

しかも生で触らせてくれるらしかった。

俺は男として据え膳食わぬは武士の恥と思い始めたが、俺は武士ではなかったし純一が泣きそうな顔をしていたので彼女の暴走をようやく止めるために動き出す。


「あ、あのー、魅李ちゃん。冗談だよ?」

「・・・えっ?」


俺の言葉に彼女はみるみる顔が赤くなっていった。

そして顔を隠す様にうずくまる。


「うわああ!ごめん!そりゃ冗談だよね!縁助くんそんな人じゃないよね!」

「いや、まあそういう人ではあるんだけども。」

「2人とも、ごめん!忘れてぇ!」


パニックになった彼女をどうしたもんかと純一の方を見る。

って、おい。何でお前が俺に嫉妬した様な顔をするんだ。


この世界はゲームが舞台の様だが、当然ながらゲームと違う部分もある。

特に魅李の俺に対する態度だ。

俺はこの世界が寝取られゲームの世界である事に気付いた日から意識してゲームの縁助に行動を似せた。

それは意外にも自分の性格にもあっていたし、苦ではなかった。

しかしゲームではセクハラをする俺に対して魅李は罵倒をしたり時には殴ってきていた筈だがこの世界ではそうではない。


「そんな事女の子には言っちゃダメだよ」


とか


「縁助くんも男の子なんだね」


とか


優しい言葉でたしなめられるだけだった。


そしてついにおっぱいを触られてくれるのを許してくれた。

とんだサプライズおっぱいである。

俺が武士ではなく紳士だから良かったものの武士だったら当然おっぱいだけでは済まない事態になっていただろう。

その後当然俺は死ぬ。


そう、信じ難いことにあの中3の冬の一件以来魅李の俺に対する好感度が非常に高いのだ。

純一と接する態度とはやはり大きな違いはあるものの俺は彼女の特別な人の1人になっている事を自惚れでなく感じている。

正直なところ男として魅李の様な可愛い子に好かれるのは大変嬉しい。

だが俺の場合は命が掛かっているのだ。

それに親友の想い人でもある。

頼み込めば本当に触らせてくれそうだが結局俺は断腸の思いでおっぱいを諦めることにした。


「純一・・・」

「なんだよ・・・」


俺が声をかけると少し不機嫌な声を出す純一。


「魅李ちゃんを連れて先に教室に戻っておいてくれ。」

「え、お前はどうすんだよ?」


その純一の当然の疑問に対して俺はただ微笑む。

純一は俺が前屈みになっている事に気付く。


「縁助、お前・・・」

「へっ、俺もヤキが回っちまったな。安心しろすぐに追いつくからよ。先に行っていてくれ。」

「・・・すまん、恩に着る!」


純一と腐れ縁故の変なノリを出しつつ魅李をこの場から連れ出させた。



「ふん、俺も今は若いって事、か。」


ハードボイルド風に誰もいない校舎裏で呟きながらハードになってしまった俺の息子を見つめる。

それが治るのに20分を要した俺は次の授業に普通に遅れた。

まあ、着いたら着いたで保健室に行く様に言われたのだが。

こうして本編開始時期になった高校二年生の春。

俺はヒロイン達の寝取られイベントを回避しつつ、自身がヒロインに好かれる事も断腸の思いで避けなければいけない地獄の中にいた。


いやはやモテる男は辛いぜ。


いや、ホントにね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る