230 だって君と踊りたいから(1)

「アーリアナ様っ」


「ひゃっ」


 両側からそよそよと寄ってきたのは、アイリとシシリーだった。

 これ以上ないキラキラしたドレスに、満面の笑顔を讃えてアリアナを捕獲する。


 え……。

 レイと話す予定だったけど、ちょっと……これをお断りして告白するような雰囲気じゃないわね……。


「えっと……」


「ダンスかな」

 レイノルドが二人に尋ねると、二人がニコニコと微笑む。


「お邪魔しちゃってごめんなさい。けど、今を逃したら今日はもうアリアナと踊れなくなるような気がして」


 レイノルドが苦笑する。

「いいよ。行っておいでよ」


 その言葉はなんだか、また戻って来る者に言う『いってらっしゃい』のようで、邪魔をされたにも関わらず、ちょっとだけ嬉しくなる。


 アリアナは、ひとつため息をついた。

「仕方ないわね。あなた達が踊るの?」

「はい!」

 即答したのはアイリだ。

「私、アリアナ様と踊るのが夢だったんです!」


 確かに、卒業式も兼ねたこのダンスパーティーでは、同性同士で踊る事も多い。

 特に、女の子同士のダンスは、学年の最後に友人同士で踊る楽しみの一つだ。

 感覚としては、ちょうどバレンタインの友チョコに近いのではないかと思っている。


「しょうがないわね」

 アリアナが苦笑する。

 アイリがシシリーに先を譲ったので、先に踊るのはシシリーになった。


 シシリーが誘おうとすると、先に口を開いたのはアリアナの方だった。


「お嬢さん」

 その手を取ると、シシリーがあからさまに照れたような表情になる。

 ずずいっと寄っていき、ホストの距離を作る。

「私と踊っていただけますか」


「はい。もちろん」

 シシリーがとっておきの表情をすると、アイリが悔しそうに、それでも頬を染めて目を潤ませた。


 アリアナがシシリーの手を取って踊り出す。

 シシリーが、

「ふふっ」

 と笑った。

「今年は楽しかったわね、アリアナ」

「あなたにはとってもお世話になったわ」

「これからはもっと私のお世話になるのよ」

 シシリーのドヤ顔に、素直に同意する。

「そうね!あなたは私には必要な人だから」


「でもねアリアナ。私、本当はそんなにいい人じゃないの」

 シシリーが揶揄うような笑顔を見せる。

「あら、私もよ」

 アリアナがドヤ顔で笑い返した。



 お互いにお辞儀をすると、引き渡されるようにアリアナはアイリの元へ。

「ア、アリアナ様!」

 緊張し、頬を染めたアイリが、胸の前で手を握って立っている。


 ……本当に、アイリはお世話したくなる顔をしているわね。


 耳元に頬を寄せ、囁く。

「私と、踊ってくれる?」


「はいぃ……」


 このお嬢さんが他人のものだなんて……なんて背徳感……。


 手を差し出し、アイリと踊り出す。

 初めの頃は全く踊れなかったのに。

 今では、謎のステップを踏む事はあるものの、すっかり踊れるようになっている。


「この学校に、アリアナ様がいてくださってよかったです」

「ええ。私も、あなたに会えてよかった」

「……私がですか?そんな!お世話になりっぱなしだったのに」

「あら、あなたが居なかったら、私は文化祭には参加しなかったと思うわ」

「え……?」

 アイリが、怪訝な顔でアリアナの顔を覗く。

 その顔を見て、アリアナが笑った。

「あら、本当よ。あなたのおかげで楽しかった」


 そう言って笑うと、アイリはホッとしたように瞳を潤ませた。


 え……。


 ポロポロと涙がこぼれる。


「ア、アイリ!?どうしたの……」


「私、不安で……っ!そばにいていいのかなって」


「当たり前じゃないの」


「そうですね」


 アイリが泣きながら、アリアナに抱きついていった。



◇◇◇◇◇



男の子同士で踊る事もあるんでしょうかね。

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